【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-29 お風呂でムフフ…。

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     ◆お風呂でムフフ…。

 学園の中でチュウなど、しちゃって。盛り上がっちゃった、ぼくと陛下。
 午後の授業もさぼって、ふたりで王宮に帰ってしまいました。
 いけないことですね。授業をさぼるなんて。

 でも、ワル系リア充がよくやっているやつで。ちょっと憧れはありましたから。
 それもクリアしちゃったりして。ぼくは、どんどんリア充体験をクリアしています。

 これはもう、リア充と呼んでも良いのではぁぁ?

 すみません。調子に乗りました。
 モブが、リア充を名乗るなど、百億年早いことでした。すみません。
 ぼくは、リア充陛下のおこぼれを貰っているモブに過ぎないことを、忘れていました。
 前世と今生を合わせて、かれこれ四十年も。陰キャモブを極めているぼくです。そう簡単に、リア充になどなれるわけもないのです。
 はい。戒めますね。

 それで。
 なんだか、いきなり、ふたりで盛り上がっちゃった、ぼくと陛下は。大人の恋人同士なので。
 それは、そのぉ…致しちゃうわけです。はい。
 いや。男が、盛り上がったら。途中で止められないものなのですよ。そういう生き物なのですよ、男は。
 だから。仕方がないのです…たぶん。

 それで、陛下の私室に入ったら。もう…わぁーーってなって。あぁーーってなって。そんな感じでした。

 まぁ、そういう一戦交えたあとの、エロいムードが満載だったわけですが。
 その雰囲気を洗い流すべく。今は、カッポーンと、お風呂に浸かっております。

 王宮の。陛下の部屋の。備え付けの。大きな大きなお風呂。
 使用人さんたちには、遠慮してもらって。
 陛下とふたり。並んで、大きな湯船にのんびり浸かっているところでございます。

 なんか、高級旅館のお風呂、みたいな。八角形の木組みの湯舟に、お湯がなみなみとしていて。湯気がほんのり立っていて、そこにランプの灯りがポヤッとにじんで。素敵な雰囲気です。
 洗い場も広いんだ。たぶん、使用人さんが何人も入っても大丈夫なように、洗い場が広いんだろうね?
 王様は、身支度はしてもらうものだから。

 ぼくも、公爵家では。使用人さんが身支度をしたがるんだけど。
 前世気質が抜けなくて。
 ぼくは、身の回りのできることは、ひとりでなんでもやってます。
 仕立て屋なので、どんな衣装の着付けも、お手の物ですしね?

 一般的には、この世界は、お風呂がそんなに普及していないんだけど。
 公式の思惑か。要所には、しっかり、旅館テイストのお風呂があるのですよ。ね。

 で、お風呂に入ったら。今まで、気にならなかった手のひらが、ヒリヒリして。
 穴に落ちたときに擦りむいた怪我が、お湯に染みたようです。

「どうした? クロウ」
「いえ、ちょっと擦りむいただけで。大したことはないのです。今まで忘れていたくらいですから」
「穴に落ちたときか? 見せろ」
 濡れた手を差し出すと、陛下は。厳しい。眉間にしわを寄せる顔つきで。奥歯をかみしめる。
 いえ、それほど痛いわけではないのです。

「…我の婚約者に危害を加えるとは…」
「大丈夫ですよ? 陛下が手のひらに、チュウしてくれたら、治ります」
 そう言ったら。ついばむような可愛らしいキスを何度もしてくれた。ふふ、くすぐったいですよ。

「クロウ、聞きたいのだが。なぜ、あの体操服には名前が書いてあるのだ? しかもひら型で…」
「可愛いでしょう? 元々は、ぼくはイレギュラー入学だから。生徒たちに『あれ、誰?』って思われないよう、配慮したのですけど。ちょっと、幼年学校テイストにしてみたのです」
 前世では、体操着のコスプレを、巴と静がしたのです。
 こういう演出が好まれた、ような記憶だったので。
 あれは…魔女っ娘体操着バージョン、みたいな。ちょっとエロテイストでしたが。

「陛下の体操着にも、名前をつけましょうか?」
「ひら型で、いあん、と書くのか?」
「いえ、へいか、です」
 陛下は、ぶはっと吹き出して。却下だ、と言った。なんでぇ?

「おまえも、アレは取れ。おまえがクロウなのは、生徒はみんな知っているし。あんまり可愛いものだから。つい、クラッときて。部屋に入るなり、襲い掛かってしまったではないか。危険な代物だ」
 もう一度、陛下はぼくの手のひらにチュッてして。真剣な眼差しでぼくをみつめた。

「すまない。部屋に入って、いきなり致すなど…ムードもなにもなかったな? 決して、おまえの体だけを求めているのではないのだ。しかし…クロウが欲しいとしか、考えられなくて。頭に血がのぼってしまった」
「ちゃんと、陛下がぼくを、誠実に想ってくれていること、わかっております。それに、グワッときちゃう、そのお気持ちも。ぼくも男なので。わかりますよ? ぼくだって、陛下のお体に触れたいし。ずっと、陛下不足でした。推しの供給は充分でも、もっともっとと、求めてしまう。好きなものへの要求は、際限がないものなのです」

 公式が、コンスタントにグッズを出しても、次はフィギュアを、新しいビジュアルの缶バッジを、と欲しがるのがオタク魂。
 そして、成年男子のエロ魂も、おろそかには出来ないのですっ!

「…そういうことなら。我はクロウの供給が不足していた、ということだな?」
 補給、させるのだっ、と言って。陛下がぼくの額に額をぶつけて、グリグリする。
 あぁ、これは。ぼくも補給されちゃうやつですぅ。幸せエキスが満タンになりますぅ。

「もっと、デートや、買い物などをして、おまえを喜ばせたいと思うのだが。そういう時間がなかなか取れず、歯痒いな」
「国王様が、街中を歩き回るなんて、簡単にはできませんよ? 護衛の方も大変ではないですか?」
 ぼくは。いつもシオンに言われていることを、陛下に言った。
 公爵子息が、街中をふらふらしたらいけませんって。
 いいじゃん、ちょっとぐらいぃ。と、ぼくは口をとがらせるのだが。寄り道を許されたことはない。

「王城にあった書物の中には、恋人同士は、そうして愛を育むもの。みたいなことが書いてあったぞ?」
 あぁ、なるほど。本の知識なのですね?
 でもそれは。庶民的なお話なのでは?

 陛下が、恋愛小説を読んでいたのは、驚きだが。王城で長い年月、娯楽もなく、閉じ込められていたのだから。書庫にある本は、駆逐する勢いだったのだろう。
 なんでも読んだ、みたいな?

「イアン様? そのように周囲の手をわずらわせなくても。ぼくは、学園での時間がとても楽しいのです。イアン様とともにいれば、授業中もデートのようなものでしょう?」
 だから、お気になさらずと。微笑みを向ければ。
 陛下は、ぼくの肩が冷えないようにお湯をパシャリとかけてくれる。お優しいぃ。

「四月から、公務をするようになり。ようやく、国王としての仕事に慣れてきたところだ。それで、わかったことだが。結婚して、名実ともに、国王と王妃になったら。おそらく、そのような自由な時間は、そうそう取れなくなるだろう。だから、学園での時間は。我らにとっても、最後の憩いの時間になるかもしれないな」
「だったら。おおいに楽しまないと、ですね?」
「あぁ」

 陛下が、ぼくの裸の肩を抱いて。身を寄せる。
 こうして並んでいると。いつも胸の奥にある杞憂も、薄らいでいくようだった。
 とはいえ。まだ気にかかることはいろいろあって。
 ぼくは、陛下にたずねた。

「あの…なにも言わずに学園を出てしまって、大丈夫でしょうか?」
「学園には、ふたりの欠席の届けを出し。シオンにも早退する旨を伝えるよう、アルフレドが手配している。公爵家にも、触れを出してあるから。おまえがここにいることは、みんなわかっている。安心しろ」
 すごーい、至れり尽くせりです。それじゃ、遠慮なく、ゆっくりできますね?

「あと…公女様から、なにかお話が…?」
「ふむ。ネックレスを奪われた、などと言っていたが。戯言ざれごとだな? 我はおまえが、バミネにネックレスを奪われて大変な目にったことを知っているから。そのようなことを、クロウが他人にするとは思わぬ。もちろん、同席していた者も、同様にそう思っているはずだ」
 あぁ、良かった。陛下はちゃんと、ぼくを信じてくれました。
 ゲームの強制力も起きることなく。まやかしで、おかしくなったりもしていません。

 安堵の息をついたけど。まだ、ありましたね?
「公女様が、ぼくが浮気したとか…言っていませんでしたか?」
 うかがうように、陛下を見ると。
 じろりと睨んで。フッと笑った。

「影が、張り付いていただろう? 我は、狭量なのだ。おまえが浮気をする前に、芽を摘むし。誰かがおまえに手を出すようなら、影がその前に排除する。従者と言えど、我は、すべてを信用はしていない。王城では、そのように生活してきたからな」
「陛下…」
 孤島での生活は、ちょっとした隙が、命に関わる環境だったから。陛下がそのように暮らしてきたことは、命を守るために大切なことだった。

 けれど、悲しいことでもある。

 ぼくは、陛下のお気持ちに寄り添うように、そっと身を寄せた。
 お風呂だから、当然、ふたりとも全裸で。
 抱き合えば、素肌が触れる。
 先ほどは、激情のままに燃え上がったけれど。今は、心を触れ合わせるような、優しい気持ちで、陛下に身をゆだねる。

 陛下は、ぼくの存在を、こころよく思ってくれているかな?
 そばにいさせてくださいと、忠誠を誓った。あの頃と、ぼくの気持ちは変わっていませんよ?
 ぼくが、ずっと、そばにいてもいい?

 問うような眼差しを向けると、陛下は。なにも言わないぼくの気持ちを汲んで、チュッと唇についばむキスをした。
 へへ。嬉しいな。

「良かったです。ぼくは、イアン様に疑われていなければ、それで…」
「良いわけないだろう。公女は、やり過ぎた。穴に落とされたのだぞ? 制服を汚されたのだろう? それに、手も擦りむいていたではないか。その穴が、もっと深く、もっと重大な怪我をしていたら? もしも悪意があったら。武器や毒が仕込まれて、命を絶たれていたかもしれないのだ。我は、もう我慢ならぬ。公女は強制送還だ」

 陛下のお怒りは、もっともなのだが。
 ぼくは、慌ててしまった。
 ゲームに振り回されているのは、ぼくも同じだ。
 でも、もしも。彼女が悔い改めて。ゲームのルートから外れてくれたら。これ以上、なにもしないのなら。
 ぼくは。彼女の留学の機会を、できれば奪いたくなかった。

 そりゃあ主人公ちゃんⅡが退場してくれれば、ぼくの精神は安定するだろう。
 ゲームの強制力に脅えず、陛下の心変わりに脅えず、大好きな人たちの心が離れることにも脅えずに済む。
 でもそれって、ぼく側の、都合じゃん?
 なんか、陛下の威光で、それを排除しちゃうのは、勝手なような気がしちゃって。

 それに。隣国と揉めるのも、良くない。
 だから。僭越せんえつながら、意見した。

「そのような…外交問題になりませんか? 隣国との仲が悪くなるようなことは、なさらない方が」
「しかし。我からクロウを奪おうとする者が、そばにいるのは、好ましくない」
「一筋縄ではいかない者を、ぎょするのも。上に立つ者の手腕です。経験を積むような気持ちで。公女様は泳がせておいたらどうです? あと二ヶ月の辛抱しんぼうですし。それで、隣国にかどが立たなければ、それでいいではないですか?」

 陛下は、くっきりと、眉間にしわを寄せるが。フと目を見開く。
「クロウは、聖母か? 天使か? 神か?」
「なぜに、そのような思考に?」
 よくわからずに、首を傾げる。

「なぜ、あのような者に、恩情をかけるのか? 心が広すぎて、ついていけぬ」
 あぁ、なるほど。
 ぼくが、誰彼かまわず許しまくる、聖人のように思ったのですね? 買い被りですよ。

「ついていけないなんて、そんなことはありません。陛下ほど、お心の広い、お優しい方は、いらっしゃいませんよ? それに、ぼくは。恩情をかけるのではないのです。国益を測っているのです。したたかで、ズルい男なのです」
 あとは、ぼくの後ろめたさの回避です。自分勝手ですみません。

「以前も、そのようなことを聞いたことがあったが。全く、可愛いしたたかさんもいたものだ」
 ニヤリと笑って、陛下はぼくを抱き寄せた。
 あらら? 湯の中に主張するものが…。
 今の話で、なぜに、そのように猛々たけだけしく御成りで?

「あの、陛下。まだ、お話したいことがあるのですがぁ?」
 そうなのだ。結婚するにあたって、この先の、側室のこととかお世継ぎのこととか、どのようにお考えなのか、陛下にお聞きしたかったのに。

「こうして、風呂で、おまえと裸で向かい合っていて。その気にならないわけがなかろう? それに、先ほどの、アレ、一回で終わるなどと、思っているわけではないだろうな? 我はまだまだ、クロウの供給不足である」
 そんな、堂々とした威厳のある態度で、エロいことを言われても困ります。

「明日、公国の使者と公女を、呼ぶ手はずになっているが。その席には、おまえも同席するのだ。ゆえにクロウは、このまま王宮に泊まる。公爵家に戻るのは、明日以降だ。今宵ひと晩。我はクロウと、じっくり、みっちり、情を交わすつもりだから。覚悟しろ?」

 えぇ? そうなのですか? ぼくはてっきり、アレコレのあと、汗を流して、終了。だと思っていたのですが。
 まぁ…ですよね? 陛下はお若いし。うん。ですよね?
 しかし。大事なお話というものは、なかなかにできないものですね?
 デリケート案件だから。ぼくも、勇気がいりますし。

 では。いったん終了して。陛下のキスに溺れます。


 ★★★★★

 別枠の『幽モブ アダルトルート』にて、2-29.5話、お風呂でムフフ…。②、があります。
 Rー18です。読まなくても本編に影響はありませんが。より、作品をお楽しみいただけます。Rが大丈夫な方は、よろしければ、ご覧ください。

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