【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
173 / 176

2-37 見事なバッドエンド

しおりを挟む
     ◆見事なバッドエンド

 昼間に、卒業証書を受け渡しした、厳格な雰囲気な講堂とは別に。生徒が一堂に会しても、充分な広さがある、ダンスパーティー会場。その施設が、学園内にはある。

 ダンスは、紳士淑女がたしなむ娯楽であり。学園の授業で必須科目にもなっている。
 ちなみに、ダンスの授業では。ぼくは、陛下と楽しく踊らせていただきまして。
 時間も忘れて、あはは、うふふ、とばかりに調子に乗って踊り狂っていたら。
 もう良いです、と先生に言われて。
 ダンスの授業は一日で終了してしまいました。
 ま、単位は取れたということです。

 で、つまり。
 ダンスは、貴族が標準装備しなくてはならない技術である、ということだ。

 そのため、授業の他にも。
 本番の夜会に参加しても、まごまごしないよう、こうして、疑似夜会のようなパーティーが、ことあるごとに学園内で開催されるのだ。
 貴族社会の基本のきを、学園生活中に、身につけさせるんだって。なるほど?

 縦長のパーティー会場には、大きなシャンデリアが、縦に三つ並び、豪華絢爛。火が灯され、幻想的なオレンジの光が、シャンデリアの水晶に、キラキラと反射して、輝いていた。

 その下で、ぼくら、五組の卒業生たちが、ダンスを踊る。
 在校生たちは、壁際で、それを見守っているのだ。

 ぼくと陛下は、まぁ、いつものようにダンスをしている。
 授業が一日で終了してしまったとおり、ぼくたちは、意識しなくてもステップが踏める、ベテランダンサーの域なのです。
 平民に落ちたからといって、公爵子息に変わりなし。という心情で、母上に厳しいダンスレッスンを課されたのだが。その成果が、今、出ていますよっ。
 母上っ。ありがとうっ。

 さすがに、ドレス姿でダンスをしたことはなかったけれど。基本ができているから、まぁ、なんとかなるものですね。
 陛下のリードも巧みなので。今のところ、危なげなく踊れていますよ。

 つか、それより。どうしても、公女が気になってしまうよね?

 こうして、陛下とダンスを踊れているので。ぼくと公女の攻防は、これにて終了。だよね?
 そう、安心しても、いいとは思うのだけど。
 でもぉ、なんとなく、あっさりしすぎじゃない?
 いえ、自分でフラグを立ててはいけませんね?
 変なフラグを立てると、ヤベェ展開になりそうだから。やめます。

 だけど、すっごく不満げにカッツェとダンスしている公女が。やはり気になります。
 どんなお話をしているのでしょう? 
 聞き耳を立てるまでもなく、公女が、ワルツの調べをものともしない大声で、カッツェに怒鳴っていました。

「なんで、公女の私が、たかが公爵の三男なんかと、ダンスしなきゃならないのよっ?」
 助けてもらったのに、なんという言い草っ。
 ぼくは目が点です。

 公女が『エスコートなしに、会場に入れなーい』って、言っていたのではありませんか?
 もう。傍若無人ですね。
 貧乏くじを引かせてしまったカッツェに、合わせる顔がありません。ごめんよ、カッツェ。

「貴方がエスコートの依頼を、誰にもしていなかったからでしょう? 私にとっても、これはイレギュラーの事態です」
「なによ? 公女の相手が、不満だとでも言うの?」

 カッツェが言い返したら、それにも反応する公女。怒りの沸点低すぎ。
 そして、どないやねん、って思う。
 ダンスしたくないのか、したいのか、もう、よくわかりません。

「えぇ、大いに不満です。陛下と王妃の警護が出来るのは、ご学友特権で。その栄誉は今日、この日が最後。私はその任務をつつがなく全うしたかったから、この役目を引き受けましたが。本当なら、私は、常に、クロウ様の後ろに控えていたかったのですから」
「なに? もう、クロウを王妃呼ばわり? 馬鹿じゃないの? 貴方、いつの間にクロウに攻略されたのよ?」

 あぁ、カッツェ、あまりあおらないでぇ、と思うのと。
 ぼくは、カッツェを攻略した覚えなどありませんん、という思いで。気がそぞろです。
 そうは言っても、陛下の足を踏むようなヘマは、いたしませんが。

「攻略などと、あの方に、そのような下品な言葉は似合いません。あの方は、とても心がお優しく、気高い方。彼こそ、我が国の王妃に相応しい。私が兄を敬愛している、その気持ちに、彼だけが寄り添い、肯定してくれたのです」
「兄を敬愛? あなた、お兄様を敵視していたのではないの?」
「私は、兄を慕っている。でも、ライバルでもあり、嫌いな面もあります。クロウ様は、そういう人間の弱い部分までも、温かく包み込んで、それでいいと言ってくださる、そういう器の大きい方なのです」

 手放しで、カッツェがぼくを誉めそやすから。もう。恥ずかしくて。顔が熱くなってしまった。
 ええぇぇ? なんか、そんな深い話をしたつもりはないのですけど。良いように取ってくれたのですね?
 カッツェは、お優しい方なのだな?
 うん。兄弟愛の深いところ、ぼくは好きだよ。

「なに、ソレ…そんなことで、クロウなんかに懐柔されちゃって。バカみたい」
「はい。私は、馬鹿みたいに、クロウ様に、忠誠心を持って、お仕えしているのです。なので、もうこれ以上、貴方はクロウ様に近づかないでください」

 ダンスの一曲目が終わり。カッツェは公女の手を離した。
 これで、卒業生のダンス、いわゆる掴みは終わったわけだけど。
 公女はうつむいて、会場の真ん中で、ポツリと突っ立ったままだった。

「クロウ様、警護に戻ります」
 カッツェは、ワンコが飼い主にじゃれるような、邪気のない笑みを向けて。ぼくの方に駆け寄るが。
 ぼくは、公女の険しい顔つきに、背筋を震わせていた。
 なにやら、ざわざわとした感覚のものが、足元をすり抜けていくような体感があって。ただただ、恐怖を覚える。

「待って、カッツェ。彼女の様子がおかしいよ?」
 そうして、彼も公女を振り返り。
 陛下は、ぼくを守るように、肩を抱いた。

「なによ。みんなして、クロウ、クロウって。クロウが王妃に相応しい? 男の王妃なんか、相応しいわけないでしょ? みんな、バカなの? カザレニア国の人間、みんなバカなの?」
 呪いを吐き出すみたいに、ブツブツとつぶやく公女を。
 みんなが…在校生の生徒も、教師も、ぼくたちも、遠巻きに見ている。

 カッツェは、ぼくらの前に立って警護し。
 不穏を感じ取った、ベルナルドとマリー、アイリスたちも、ぼくのそばに寄ってきていた。

「あんたがいるから、駄目なのよっ。あんたなんかっ、あんたさえいなかったら、私が王妃だったのよぉっ!」
 公女はぼくを指差した。
 その表情は、激しい憤怒。唇を歪め、目を見開き、口も大きく引き裂かれ、とても怖い、ホラーな形相だった。
 そのうち、彼女の周りに、桃色のオーラが渦巻いて。

 がおーーーーっ、てなった。

 がおーーっ?
 大量の魔力が、公女の周囲を取り巻いている。
 よくよく見てみたら。ピンクのオーラの向こう側には…そこには、ピンクの熊がいたのだ。

 大きな、大きな、熊。
 桃色の毛が生えた、熊。
 耳の後ろから、ピンクのツインテールだけ残っている、熊。
 まつ毛長くて、ちょっと可愛い。
 なんて、思っている場合ではなかった。

 熊が地団太を踏むと、会場中が地震みたいに揺れて。
 生徒たちは、キャーッと叫び声をあげ。阿鼻叫喚。
 熊の頭が、シャンデリアをかすって、シャラシャラと水晶が音を鳴らす。

「あらあら、まぁまぁ、これは見事なバッドエンドねぇ?」
 マリーが、感嘆したみたいに言い。
 ぼくは。これが、と目をみはる。

 アイキンのバッドエンド、えぐぅ。

 主人公ちゃんが熊になるバッドエンドなんて、見たことないんですけど?
 でも、癖強くせつよなアイキンだからな。そういうこともあるかもね?
 だけど、このままでは、バッドエンドもそうだけど、大惨事です。

 ピンク熊は、ぼくをみつけて、がおーーーっと鳴き。ぼくを攻撃しようとする。
 公女は、ぼくさえいなければ、まだ王妃になれると思っているかもしれないけど。

 普通に、もう無理だからねぇ?

 でも、ぼくだって。ただ、やられるわけにはいきませんよっ。
 隣にいる陛下に、危険があってはなりませんからね?
 ぼくは指をさして、告げたっ。
「ドラゴンっ」
 すると、たちまち、氷のドラゴンが会場内に現れた。
 薄青の、透明な体をくねらせて、アンギャ―と鳴く。
 そしてキラリと目を光らせると、ぼくの考えどおりに、ピンクの熊に抱きついた。

 そう、がっぷりよつである。

 ガシーーーィィィと、同じ大きさのドラゴンとピンクの熊が組み合って。お相撲のように、押したり引いたり。
 ドラゴンを操るぼくも、公女のすごい圧を感じます。
 あの公女、結構な魔力持ちだったのですね?

 すごーい、魔力チートのぼくも驚きぃ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...