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6.普通じゃない
しおりを挟むなぜこんな所に魔族が!? と思うが、良く考えれば魔王のそばに魔族が集まるのはなんら不思議では無い。
むしろ魔族が居て当然の場所じゃないか。僕の存在のほうがなぜこんな所に? だよ。
「しかし何やら、尊き魔王様のおそばに居るには相応しくない存在が居るようですね」
そんな、突然現れた魔族は、とても穏やかな声で、とても物騒な言葉を呟き僕を見る。
うん、僕も自分は魔王なんて人物のそばに居るには相応しくない存在だと思うよ。
とても強く同意する。キミの言う通りだ。
でもね、今にもヤバそうな魔法をぶっ放しますよと言わんばかりの手を掲げるのはどうかと思う。
キミの言いたい事は分かった。どっか行けと言うなら喜んでどっか行くから、とりあえず一旦落ち着こうか!
「消えろ」
「ご冗談を」
なのにマオが不機嫌そうに煽るから、魔族の目がギラリと光って無情にも腕が振り下ろされる。
「ひぎゃああぁあっ!!」
無数の明らかにヤバそうな光がこちらめがけて飛んでくる。
僕一人消すためにしては過剰攻撃だろ。これの百分の一の力でも僕程度なら木っ端微塵なのに。
圧倒的な力を見せつけられてパニックになった僕は、みっともなく叫びながらマオにしがみつく。
あまりの恐怖に涙まで流れてきたが、これで泣くなってほうが無理だ。
けれどマオはそんな情けない僕を右手で抱きしめて、慌てる様子もなく左手を振った。
すると刹那、視界が暗闇に包まれる。
何事かと思ったら、すぐに視界が晴れ、暗闇と共にこちらに向かって放たれたはずの光も無くなっていた。
「へ? あれ……?」
まるで闇が何もかもを飲み込んだかのように見えたが、いったい何が起こったのか。
マオは安心しろと言うように僕の頭を撫でるがまったく安心できない。
あんな世紀末みたいな大事故が起こりかけたのに、マオもう何もなかったかのように僕を見つめていた。
「ぐ……──っ」
事態がなかなか飲み込めずポカンとマオを見ていたら、空から苦しそうな声が聞こえた。
またキスしてきそうだったマオを避け顔を空に向けると、闇に呑まれかけた魔族の男が見えた。
ゾッとする光景に息を呑む。
魔族の男は闇に抗おうとしているようだが、次第に闇は小さくなる。
「諦めませんよ、魔王様……あなた様のおそばは、私こそが……──」
苦しそうなのに、魔族は笑う。
そして、不吉な言葉を残して、プツリと闇に呑まれて消えた。
青空と心地よい風だけを残して。
「……こ──」
──怖い。
目の前のマオの存在も忘れて、思わず本音が漏れる。
何が怖いって、魔族の執着も、邪魔だからと平気で破壊しようとする考えも、そんなとんでもない存在を手の一振りで消してしまったマオも、だ。
なんで僕は、こんなとんでもない所にいるのだろうか。
なんで僕は、こんな訳の分からない人たちに遭遇してしまったのだろうか。
普通に暮らしていればまず出会うはずのない魔族や魔王。
なのに、なんで僕は魔王に頬ずりされているのだろう。
普通じゃない、こんなの普通じゃなさすぎる。
僕はいたって普通の人間のはずなのに。
普通じゃない目覚め方をしてから、普通じゃない出来事が多すぎるよ。
「サク」
「ひ……」
一人で街を面白おかしく滅ぼす力を持つ魔族を、いとも簡単に消し去った魔王。
忘れかけていた魔王への恐怖がまた湧き上がってしまい、声が喉につっかえてまともな返事もできなかった。
昨日からあまりにも優しくするから、だんだん大型犬のように思えてきていた。
今は、どう考えても大型犬のようには思えない。
世界の恐怖の対象にしか見えなくなっていた。そんな恐怖が、目の前にいるのだ。
カタカタ震えだした僕に、マオが気づいた。
するとまたどこからか宝石の原石を出して、僕に渡そうとするから。
「あ……」
それもまともに返事ができぬまま、僕は固まってしまったんだ。
ワレの羽音が聞こえてくるまで、そんなお互いに無言の押し問答が続いた。
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