目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー

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7.人間の仲間が欲しい

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 ✧ ✧ ✧


「いち! に! いち! に!」

「はい、いーち、に。いーち、に」

 僕は今、人型になったワレと歩く訓練をしている。
 ワレが上に伸ばした両手を摑んで体を支え、一歩一歩慎重に歩く。
 ワレは僕がコケないように歩行器の代わりをしてくれている。張り切って僕の前を歩く、とても可愛い歩行器だ。
 無駄に長い廊下は歩行練習に最適で、おまけに僕が怪我しないようになのか、床は絨毯が敷き詰められていた。昨日まで無かったのに。
 そして横では、むすーっとしたマオが窓枠に座り頬杖をついて僕らを眺めていた。
 明らかに拗ねている。
 僕はなるべくマオの様子に気づかないフリをして、コケないようにように足元に集中した。
 マオの影が不機嫌にうごめいている気がして怖い。
 何か言いたげなのは分かるが、とにかく僕は一人で歩けるようになりたいんだ。その為にはリハビリあるのみ。
 そんな緊張感あふれる環境だが、僕は廊下の半分まで歩く事に成功した。
 初めてでこれはなかなかの成果なのではないだろうか。
 よし、この調子で外まで、と意気込んだとたん──

「──うわっ」

 僕はあっさりつまずいてしまった。
 前のめりになって、ワレを潰してしまう! と体をひねろうとしたが、それより早く体が浮く。
 黒い何かに体が絡め取られて、気がつけばマオの胸にすっぽり収まっていた。

「あー! もぉ! ずるい! もぉもぉ!」

「やっぱりお前じゃ危険だな」

「ワレもできる! もぉ! ねぇ魔王さま! ねぇ!」

 足元でキャイキャイ騒ぎながら服を引っ張るワレと言い争いながら、マオは僕を背後から抱きしめて離さない。
 平和な光景に見えるが、僕を抱きしめてるの魔王なんだよな。
 今日もいい天気だが、ここは魔王城なんだよな。
 この魔王がちょっと気まぐれを起こせば城ごと僕なんか消えちゃうんだろうな。
 僕が遠い目をしていたら、マオが不貞腐れたまま耳元で喋る。

「サクは歩けなくても、俺が抱えれば問題ないだろ……」

「……僕は、歩けたら嬉しいです……」

「むぅ……」

 そしてやっぱり不貞腐れた声。
 ちょっと可愛いと思いかけるが、この人物はほんの少し力加減を間違えばうっかり僕を捻り潰してしまう力を持つのだ。
 自衛の為にも出来る限り物理的に距離を取っておきたい。それには自分で動ける必要があった。

「サクは歩いてどこに行きたいんだ」

「えっと、とりあえず外とか」

「城下町に人間は居ないぞ」

「あ、ですよね……」

「魔物はいる! たくさん! どんどこ!」

「ひょえ……っ」

 うん、自分で歩けるようになっても一人ではどこにも行けないかもしれない。
 誰か人間の、頼りになる仲間ができたら良いのだけど。うっかり殺される前になんとかしなくては。
 けれど、マオは“城下町には”人間は居ないと言った。
 つまりどこかには居るんだ。良かった、人間の滅んだ世界じゃなくて。

「サク」

「うわ、はい!」

「……」

 マオの言動にいちいちビクついてしまうのをどうにかしたいが、いかんせん臆病者なのでどうにもできない。
 そもそも魔王相手にビクつかないのはよっぽどの強者じゃないと無理だろう。
 マオも少し不服そうだが、マオが魔王という存在である限り改善するのは難しいだろうな。
 じっと見つめる赤い目が色々と訴えてくるが、僕だから仕方ないのだと諦めてほしい。

「……しばらく出てくる」

「え、あ、そうなんですか?」

 ずっとべったりだったマオが、珍しく外出するらしい。
 僕をベッドに戻し、軽くキスをして心配そうに見つめるマオ。そのついでなのか何なのか、またずらりと目の前に原石を並べられたので、笑顔を引きつらせながら一番手前の石を選んでおいた。
 なぜこうも宝石を僕に渡そうとするんだろう。
 女性や日頃から宝石を身につける男なら喜ぶかもしれないが、あいにく僕にそんな趣味は無い。
 なのに毎日渡してくるもんだから、部屋の棚が石で埋まりかけている。
 あと僕が最初に受け取ったからか、毎日花も渡してくるようになった。
 野花なので最近は気兼ねなくもらっているが、これもそろそろ花瓶が足りなくなってきている。

 僕が石を受け取ると、マオは満足した様子で窓枠に足をかけた。
 そして何度も名残惜しそうに振り返りながら、黒い何かを出して空へと駆けて行った。

「ふぅー……」

 マオの姿が見えなくなり、僕はベッドに身を投げ出す。
 ずっと張り付いていた圧倒的存在が居なくなり、一気に緊張が切れたようだ。
 こちらに害を与えようとしている訳じゃないと彼の態度で分かるが、どんな人物でも魔王なんて怖いもんは怖い。
 ただたまに、僕に向かって心底嬉しそうにしたり、犬みたいに擦り寄ったり、かと思えば少し寂しそうにしたり。
 そんな事をされてはちょっとだけ心が揺らいでうっかり頭を撫でそうになる。
 相手は魔王だ。今は優しくても、いつ気が変わるか分からない。
 なんせ、なぜこうも執着されているのかまだ理由が分かっていないのだから。
 僕が目覚めるのを待ってたようたが、目覚めさせてみたら想像と違った……なんて事もありうるじゃないか。

「……気を引き締めないと……」

「ひきしめる? 歩く? はい!」

「うん、ありがとワレ。今は疲れたからちょっと休憩ね」

「休憩ね! いいよ!」

 はい! と手を伸ばしてまた歩行練習を手伝おうとするワレに、今は良いよと頭を撫でた。
 するとワレは気持ちよさそうに目を細め、ポンッとコウモリ型になって僕のお腹へ登ってきた。

「休憩!」

「うんうん、休憩だね」

 お腹に程よい重みと温かさを感じながら、そっとまぶたを閉じる。
 ワレもコロンと仰向けになったので、お腹の毛を思いっきり堪能した。ふかふかで気持ちいい。
 これまで色々と考えてきたが、考えた所で状況は何も変わらなかった。
 未だに訳の分からない事が多すぎて、もうお手上げだ。
 だからもう──

「──きゅーけーい」

「きゅーけーい!」

 鬼の居ぬ間に、いや魔王の居ぬ間に頭をお休みさせよう。
 そう思い体から力を抜くと、すぐに眠気が訪れた。
 百年も眠っていたからか、ちょっと歩いただけなのに疲れてしまった。
 うとうとと微睡みながら、腹の上のふかふかと、胸元のツルリとした感触を楽しむ。
 最近、首からぶら下げた謎の石を触るのがクセになってるんだ。
 なんか、こう、手にフィットして落ち着くというか。
 握ってると安心するんだよね。
 何の変哲もない石に見えるが、これは自分にとってとても大切な物のように思えた。
 それが何故なのかも、まだ分からないけれど。

『──……』

 夢に落ちる寸前の、心地良い時間が流れる中。
 幼い子供に名前を呼ばれた気がした。
 今僕が撫でているのは、ワレの頭か、それとも夢の中の、キミなのか──

 
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