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可愛い弟たち
しおりを挟むゆっくりと静かに開いたドアの向こうから小さな黒い頭が二つぴょこっと飛び出す。
不安げな顔で私の部屋を覗き込んだのは双子の弟たちだった。
ジェイミーとジョバンニ。
両親は私に興味はなかったが、小さな弟達は、食事もせず泣いている姉の姿になにか思うことがあったのか、時々部屋を訪れるようになった。
彼らがやってくるのは、両親が仕事やお茶会などで居ないほんの短い隙だった。
最初は恐る恐るで、二人とも言葉は少ない。でも慰めてくれようとしているのか、お菓子を持ってきてくれたり、こちらを心配そうに見つめたり、他わいもない会話をするようになった。
双子の兄のジェイミーは、私にこう言った。
「あんまり泣いていると目がとけちゃうよ。」
弟のジョバンニはそんな事ないと首を横に振る。
「泣きたい時は泣いた方がいいんだって、テレサが言ってたよ。」
テレサというのは、アンティーヌの世話もしていた男爵家御用達の乳母の名前だ。久しぶりに聞いた、優しい匂いのする乳母の顔を思い出して、私はまた少しだけ泣いた。
二人の可愛い弟たちは、また泣き出した私に少しだけ慌てた後、まるで兄のようにそんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「…いつまでも、泣いていては、だめね。」
「姉さま。」
「もう大丈夫よ。二人とも、ありがとう。」
現実をようやく受けいれた私は、これ以上傷つかない為に…ジオスやフィオナの事を徹底的に避ける事にした。
学園に復帰した後、クラスが同じだったフィオナは時々何か言いたげにこちらを見ていた事もあったけれど、私はその視線に気が付かないふりをした。
もしも彼女が何かを言いたかったとしても、それに返せる言葉を私は持ち合わせていなかったからだ。
(ジオスはフィオナに誤解されるようなことは何もしていないと言っていた…。)
彼はアンティーヌだけが誤解するようなことをした。ただそれだけだった。
私は図書館にも行かなくなった。あの場所に行くと、楽しかった事が全て黒く塗りつぶされ、合わせてあの日のジオスとフィオナの会話が思い出されて、意図していないのに勝手に涙が零れてくるからだ。
あの日から数ヶ月、ジオスには会っていない。学科も違う為、通常に過ごしていれば学園内で出会うことは無いのだということも初めて知った。
私とジオスが会えていたのはお互いに逢おうとしていたから。
そう思いたかったけれど、今となってはアンティーヌの独りよがりの恋だった。
だってその答えは、あの日に聞いてしまっているのだから。
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