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私を見てくれる人
しおりを挟む「僕は今まで勉強で誰かに負けた事がなかったんです。でも貴女に負けた。」
「えっ、あ、そ、それは、申し訳ございません…。」
責められているのかと思い、私の心臓が不安に早鐘を打った。
勉強を始めたきっかけは、最初はジオスとの未来の為だった。
けれどその過程で、学ぶ事は私にとって生きる希望になってしまったのだ。
勉強はやればやった分だけ、努力すればその分だけ自分に身につき色々な事を理解でき、そして興味を持てることがどんどん増えてゆく。
それは、両親に向けて愛情を求めても何も返って来なかったアンティーヌにとって、奇跡のような事だった。
理解出来る事、学ぶ事が心から楽しいという気持ち。そしてもしも不出来な自分がジオスと結ばれることが出来ず、その上貴族の義務を果たせず結婚が出来なかったとしたならば。
双子達が成人をした後に家族から離れる際に、必要な教養と知識を身につける為にアンティーヌは時間がある限り、必死で勉強をし続けていた。
自分の為にしていたのだ。決してペリオッドに勝とうと思った訳でもなく。それで気分を害していたのなら、尚更なぜ婚姻の申し込みを?と思いながら。
「あ、あの、私は…。」
震える声でアンティーヌが言葉を紡ごうとした時、ペリオッドが小さな声でぽつりと呟くように言うのが聞こえた。
「…貴女は学園で、『奇跡の人』だと呼ばれているのです。」
「え…。」
その言葉に私は、言おうとしていた事がすっかり頭の中から消失してしまう。
ペリオッドは少し頬を赤らめて、そして言いにくそうに言葉を選びながら話し始めた。
「アンティーヌが学年で一位になった時、僕は周りの友人に一位でなかった事をからかわれて。
それまで成績上位者の中に名前のなかった貴女が、急に僕の目の前に現れた。
…こんな事を言うと自慢に聞こえるのかもしれませんが、僕は今までの人生の中で成績だけは常に一位でした。それは僕にとって当たり前のことでした。」
リジュール伯爵家と言えば、代々学者を輩出していて王家にも遠くではあるが縁があると言われている由緒正しい家だ。同じ学年にその子息がいる事は知っていたが、私はその事をあまり意識をしたことがなかった。
「その僕に勝った貴女は奇跡の人だと、言われているのです。
初めは貴女に負けた事が悔しくて、ただそれだけだったのですが……。
でも、それで自然に貴女の姿を目で追うようになりました。
貴女が以前書いて優秀賞をとった『産業と改革、そしてその仕事に関わる人々』についての論文はとても興味深かったです。特に貴族以外の階級の方々の事を論じている部分に関しては、僕とは全く違う視点で世界を見る事ができる人なんだと、そう思ったんです…。」
「あ、ありがとうございます…。」
それはそうだろう、とアンティーヌは思った。ペリオッドとは違い、いずれ貴族ではなくなる身かも知れないと思って生きてきたのだから。
「貴女はいつも授業が終わった後に、一人教室に残って勉強をしているでしょう?…気持ち悪いと思われるかもしれませんが、僕はそれを時々こっそりと見ていました。
アンティーヌ、知っていますか?
貴女は勉強をしている時、一人でコツコツと本を読み漁って何か答えを導き出した時、貴女はとても嬉しそうに、…幸せそうに笑うんです。
…ぼ、僕は、そんな貴女に…恋をしました。」
最後の方は囁くような声で、私の耳にはギリギリ聞こえる程の大きさで。
「直ぐに僕を好きになって欲しいとは言いません。でも、僕と一緒に過ごして欲しい。
アンティーヌ、僕は貴女の好奇心や真っ直ぐ努力ができる心を、そして…貴女自身を愛することを誓います。」
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