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番外編
愛しい君3
しおりを挟む「…ジオ、貴方は私と結婚するのよ。」
「…分かっている。」
フィオナの言葉に、僕は放心したようにアンティーヌの後ろ姿が消えた扉を見ていたけれど。ゆっくりと視線を彼女に戻した。
「貴方は私と一緒になるしかないの。そう決まってるんだから。」
フィオナは目に涙を溜めてこちらを見つめていた。ジオスはそんな少女の姿を見て、人生は上手くいかないものだと思った。
アンティーヌが好きな自分。
アンティーヌもジオスが好きで、でも一緒にはなれない。
フィオナはジオスの事を、少なからず想っていて、その感情は自分と同じもの…家族へ向けての愛ではない。その事は分かっている。けれどその気持ちも一方通行だ。
何もかもが噛み合っていない歯車のように、回り続ける。
胸が苦しい。息が出来ないほどに。そんな思いを押し込めるように、ジオスはキツく目を閉じた。
それから程なくして、ジオスはフィオナと籍を入れた。
図書館で後ろ姿を見かけたのが最後、アンティーヌには会わなかった。会わなかったのではなく、会えなかったのだ。
図書館に行っても、食堂に行ってもアンティーヌに会うことはなかった。彼女はフィオナと同じクラスで、婚約者にあんな事を言わせてしまった手前、教室を見に行くのははばかられた。
そんな時に定例のお茶会で二人で会っている中、フィオナがぽつりと呟くように言った。
「あの子、ずっと休んでるの。」
あの子とは、アンティーヌの事だと直ぐに分かった。
その途端、ジオスの胸に閉じ込めようとしていたアンティーヌに対する愛が、暴風のように吹き荒れた。
今すぐ逢いに行きたい、逢って、あの言葉は違うんだ、君の事を愛しているんだ、と言い訳をしてしまいたい。
けれどそれが何になるのか。
星の数ほどの言い訳をしてみたところで、アンティーヌと一緒に生きることは出来ない。心から愛してると伝えたところで、どうにもならない。
それは間違いなく、更に彼女を深く傷付ける事になるだろう。
「…そうか。」
「心配じゃ、無いの?」
「……。」
「…そう。」
何も言わないジオスに、フィオナはぐっと唇を噛み締めると、そのまま席を立って部屋を出ていった。
そのうち、アンティーヌはまた学園へと通えるようになっていたようだが、それからも彼女と会うことはなかった。図書館も、食堂も、良く使っていた廊下も、ジオスは避けるようにした。
自分に会い、アンティーヌが余計に傷付くことを恐れ、そして自分自身もまた、傷付くことを恐れた結果だった。
けれど、学園の中でのアンティーヌの存在は、日に日に大きくなっていった。彼女は元々頭が良かった。そしてある時から成績上位者へと躍り出て、そのまま何年もずっと変わらなかった。
久しぶりに彼女の顔を見たのは、学年末の最後に行われる最優秀成績者の表彰式の舞台だった。
遠くで見た彼女の、不安げに揺れていた瞳は、今では内側から灯る知性の光に煌めいてとても美しかった。隣で一緒に表彰されていた男子生徒、その者こそがきっと彼女の。
アンティーヌ、アンティーヌ。
僕はとても情けない男だ。
君を好きだと思っていても、愛していても、何をしてやる事もできない。
自分の地位や立場を捨てて、君を攫う勇気すらない。
それでも、君の事が好きだった。君への思いは本物だった。
あの口付けは、僕の心そのものだったんだ。
ソファーに、いつの間にか背を丸めて俯いていたジオスは、足元に落ちていた手紙に震える指を伸ばすと、そっと拾い上げた。
もう一度、書面に目を通すと。ジオスは泣き笑いを浮かべた。
愛しい君。
僕の最低な独りよがりの恋で、傷付けてしまった君。どうか、どうか誰よりも幸せに…。
━━━━━━━━━━★
これにて、番外編も最終回となります。
初恋同士、周りの縛られた環境の中でどうしていいのか分からなかった、不器用な二人を描きたかったので、拙いながらも描くことができて満足しました。
ジオスはフィオナと結婚をして、まだ一年未満ですが、このアンティーヌの結婚によりやっと彼女のことを諦めることが出来ました。
フィオナと家庭を築いてゆく未来がこの後にはあるので、それぞれにハッピーエンドとさせて頂きました。
読んでくださり、ありがとうございました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
さて、
『【改訂版】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。』
の連載をいたします。
以前描いたものに説明が足りなかった箇所、手直しをいれております。そして、続編で描いている
『ストーカー辞めました。出番は終わったはずですが、何故あなた達がいるのでしょうか?』
も一旦公開を非公開に変更して、そのまま第二部として描いております。こちらもかなり手直しが入り、スッキリと終われるように頑張りますので、もし良かったら読んでやってください!
ご拝読、ありがとうございました!
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