【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

文字の大きさ
18 / 23

リエナは知っていた

しおりを挟む




「緊張で上手く話す事が出来ないというのは、感情は理解できます。……同じような方の話を聞いた事があるのです。あ、本人では無いのですが」



 母から聞いた父の話ですけど。



「貴族としては致命的な気もしますが、ランドーソン子息様(あ、なんか悲しそうな顔になった)…アシェル様(あ、笑った)は、それを補える程の外面をお持ちのようですのでそれは問題ないかと。

 ですが、私にはどうしてあの様な態度を取られたのでしょう?」

「違うのです!」

(何が違うって?)



 アシェルが焦ったように大きな声を上げた。他の席とは距離があるとは言え、同じクラスの子達が聞き耳を立てているのは分かっている筈なので、アリエットは吃驚して目を見開いた。怖いくらいに真剣な面持ちのアシェルとぴったり目が合う。




「…けして、嘲笑っていた、訳では無いのです」

「え?」

「普通に笑っていた、つ、つもりだったのですが。緊張で上手く笑えなくて…」



 そう言いながら、女のように美しいかんばせを苦悩に歪める。悩ましい様子がどことなく艶かしいのでそういう顔はあんまりしない方がいいんじゃないかなあ、とアリエットは頭の隅で思った。





「……生徒会でこちらを見ていたのは…」

「すみません、何度止めようとしても勝手に目が貴女の姿を追ってしまって……」

「…それも『自意識過剰だ』って言ってましたよね?」

「あ、あれは!君を見ている事を気づかれてしまって…咄嗟に誤魔化そうとしたんだ…緊張で頭がはち切れそうになってあんな言い方になってしまった……ほんとうにごめんなさい…」

「リエナ様の後ろでいつもじっとこちらを見ていらしたのも…」

「あれは、…気づかれていないと思って……」



(いや視界に入ってきてるから気が付かないわけないでしょう)





 全てが緊張のせいだったと言われても納得いかないこともあるのだが、目の前の男は嘘をついているようには見えない。常時の無表情を崩してまでこちらへと訴えかけてくる様子から、アリエットは素直にそう思えたが、疑問もひとつ芽生えた。必死な顔をしたアシェルから目を離し、その隣で飄々とした空気を纏う彼のに話しかけた。




「…リエナ様は人見知りはされないのですか?」

「私ですか?しているように見えます?」

「いえ全然」

「そうでしょう?私は、子どもの頃よりシェリーを『魑魅魍魎』から護る防波堤役ですの」


 語尾は先程から戻っていない。やはりあれは態とだったのだなと思った。しかし魑魅魍魎とは。…まあ、色々あったんだろうなと賢いアリエットは察した。



「私、王女だった曾祖母に似たのかシェリーに比べて性格が苛烈なのです」

「確かに。」




 真顔でそう返事をしたアリエットにリエナは品良く、けれど面白そうに微笑んだ。




「私はこの子アシェルに近づいてくる得体の知れない猛獣どもをずっと否してきた訳だけれど。学園に入った途端にシェリーは貴女に一目惚れしてしまったわけなの。その時の私の気持ちが分かります?」

「…複雑?」

「そんな生易しいものではありませんわ。何処のがシェリーを誑かしたのかと思ったもの」



 その言葉を聞いてそういう事ね、とアリエットは今までの事が腑に落ちた。
 初めて会話を交わした時にリエナに言われた『煤けた色の髪』という言葉は、余りにも差別的で攻撃的で強烈だったのではっきりと覚えているのだが、背景にそんな気持ちがあったらしい。
 成程、アシェルが誑かされたと思ったわけね。何処に関わる時間があったように見えたのかとアリエットが考えていると「自分の参加していない生徒会の時に誘惑したのかと思った」と彼女は言った。
 少なくとも、当時はまだ婚約者バカヤロウがいたのだからそんな事するはずないでしょうに、とアリエットは呆れたようにため息をついた。



「だから私を口撃していたわけですね」

「その通りよ。まあ、途中からは貴女の反応が面白くてそうしていたけれど」

「面白い?」


 面白いとは?こちらは一々突っかかられてイライラしていたんですけど?リエナの言葉にアリエットはちょっとばかしムッとした。



「だって、アリエット様ったら顔はきちんと作っておられるのに、声に感情が現れ過ぎなのですもの」

「…そうだったでしょうか?」

「今もよ。何時もよりもワントーン声が低いの。」







しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...