7 / 94
6 魔法棟への見学
しおりを挟む
魔法棟。
大公城に隣接するように建てられた公的機関である。
大公領の魔法使いたちが所属しており、ここで毎日研究、修練を積み上げている。
「はじめて来たわ」
バルドの案内のもとルドヴィカは5つの塔の複合施設を訪れた。
前世では訪れる機会はなかった。戦争が起きて、帝国軍からの攻撃で多くの魔法使いたちが命を落とすことになった。多くの魔法概念、道具が焼失したことにより他国の有識者たちが遺憾の意を示していたことを今も忘れられない。
帝国にも一応魔法棟はいくつか存在している。
ルドヴィカは魔力を僅かに持つものの、才能がないと早々諦めてお妃教育に専念していた。魔法棟を訪れる機会はなかった。
アリアンヌは才能があったというから定期的に通学していた。
自分も通ってアリアンヌを監視しておけばよかったと今なお後悔している。
おそらくその時の経緯でアリアンヌは魅了魔法を身に着けたのだろう。そして悪用するに至った。「うちのアリアンヌは天才なんだ」と父母は大喜びしていたが、今思えばあれはただの娘への溺愛だったのか、娘の魅了にかかってしまったかのか疑わしい。
代表格らしき魔法使いが出迎えて、中の様子を案内してくれた。
魔法だけを研究しているわけではないようだ。海外の科学、医学も積極的に取り入れて独自の発展を遂げようとしている。
この魔法棟から開発された医療品もいくつかあるという。
勿論異民族、騎馬民族との争いの絶えない地であったため戦争の為の道具も開発されている。これが使用されないことを願わなければ。
前世でビアンカが帝国に叛意を示し大きな戦争を起こした時のことを思い出した。ルドヴィカはビアンカへの謁見を求めた、謁見を与えられることはなく、久々に再会したビアンカは首だけの姿であった。
あの痛ましい日はもうこりごりである。その為にはビアンカがしっかり成長するまでの間ジャンルイジ大公に生きてもらわなければならない。
そのために必要なのは健康管理なのだ。
「大公妃は医学に興味をお持ちと聞きました。まだ内密のものですが、今開発中のものをご覧いただきたい」
「ええ、是非」
今後の役に立てそうなものであればウェルカムである。
新開発中の薬、治療道具、前日発表された論文の概要資料を披露してもらった。
朱美の世界でいえば、中世ヨーロッパ風味の世界だというのに近代に近いものだった。
「すごいわ。私は最近医学に興味をもったばかりなのだけど」
無論嘘だけど、現在のルドヴィカの経歴を考えるとそういわざるを得ない。
「こんなに発展を遂げていたなんて知らなかったわ」
「これも全て、大賢者たちのおかげでしょう」
各国の魔法棟に奇跡のように現れた逸材たちのことである。数々の功績を持ち、生前・死後に大賢者の称号を与えられた。
どうやら彼らの画期的な考えのおかげでこの世界は大きく進歩したそうだ。
(もしかして朱美と同じ世界からの転生者だったりして)
過去数百年の大賢者たちの話を聞きルドヴィカはちらりと考えてしまう。どうあれ、彼らの先進的な考え、行動力によりルドヴィカは大層助かってしまっている。
「たいへん有意義な時間を過ごさせていただきました。可能であればご協力をいただきたいのですが……その為の魔法使いはいらっしゃいますか?」
ルドヴィカはこれから自分が行おうとする計画を披露した。
魔法使いはふむふむと頷いていた。はじめは大公妃の突拍子もない発案だろうと聞き流す程度だったようだが。
「そうですね。大公殿下のあれにはどうしたものかと悩んでいました。それであればルフィーノが適任でしょう」
ルフィーノはバルドの弟魔法使いである。
人体研究を専攻しているという。魔法属性は攻撃魔法ではあるものの重力系魔法にも特化している。科学にも優れており、先ほど新開発中の道具のいくつかは彼の発案によるものだった。
「是非、ぜひ!」
ルドヴィカとしてはこれほどの協力者はいないだろうと喜んだ。
早速ルフィーノとの面談の場を設けてもらった。応接室でルドヴィカはお茶を飲み過ごしていた。その間に魔法使いから別の研究内容を確認してみる。
「大公妃は何をお望みで」
「そうね。内臓をみる方法とか」
言い方に魔法使いとバルドが目を合わせる。
「解剖学ですか。確かに、その設備はありますが……大公妃をお通しできる場所じゃなくて、防腐剤で匂いが……」
しどろもどろながらも必死に要望に応えようとするが、ルドヴィカは首を横に振った。
「いえ、解剖ではなく……いえ、解剖学も大事だけど」
今言っていた自分の言葉は一見猟奇的にみえたことだろう。
「体を切ることなく内臓を評価する方法です」
レントゲン、もしくは超音波検査、放射線画像検査のCT、電磁波検査のMRIである。
さすがにまだそこまでの開発は至れていなかった。
血液検査・尿検査が発達している分ありがたいと思うべきなのだろう。
「こうピカっと光って、ばばっと画像だしてくれたり……」
朱美は古い知識で訪ねていく。
どういう概念で、経緯で開発したかなど知らないルドヴィカはとにかくどういった検査かを必死に説明した。
「そういったものはないですね。開発できれば大賢者の称号を得られますよ」
それもそうだ。
ルドヴィカが画像検査の道具を求めていたのは理由がある。
ジャンルイジ大公の現状を把握することである。
肥満症というのは原因は食生活のみではない場合がある。それは内臓病である。
頭の下垂体、お腹の副腎に腫瘍があるかどうかを知りたい。
朱美の専門分野は内分泌代謝内科である。病的肥満症を受け持った場合、まずは調べるのはその人に肥満を引き起こす病気がないかを調べることだ。
どうみてもあのジャンルイジ大公の食生活が原因であっても、まずそれを調べないといけない。それは専門医を名乗る朱美の使命感であった。
でも、調べるだけの道具が限られているのよね。
血液検査で糖尿病と甲状腺の病気がないことを確認できただけよしとしてもいいのかもしれない。
「せめて、超音波検査が欲しい……エコーで副腎腫瘍をみるのは難しいけど、膵臓がんがないかは何とか。いやあの脂肪で視れるのか……膵臓。いや、脂肪膵はエコーではすごい真っ白にみえるというし、逆にみつけやすいのか?」
「大公妃は随分熱心ですね。発想も面白いですし」
ルドヴィカはぶつぶつと独り言を語っているが、魔法使いはえらく関心してバルドをみやった。バルドは事前にルドヴィカの勉強姿勢を報告していたので、案内を請け負った魔法使いは好意的に感じていた。ちなみに大公城図書館の司書であるバルドは、この魔法棟所属である。
ルフィーノを呼び出していたスタッフが戻ってきた。
一人で戻ってきて彼は申し訳なさそうに報告した。
ルフィーノは応召しなかった。拒否といってもいい。
魔法使いたちは困ったように大公妃のルドヴィカに謝罪した。
「才能ある者なのですが、偏屈なところがありどうか無礼をお許しください」
「構わないわ。アリアンヌの一件があって警戒しているのでしょう」
魔法使いはちらっとバルドをみた。
ルドヴィカはお茶を最後まで飲み干して、ソーサーに置く。
かちゃりという音が響き、呼び出しに出ていた魔法使いスタッフは青ざめた表情であった。
「ルフィーノさんのいる部屋はどちらかしら」
ルドヴィカはすくっと立ち上がった。
「いえ、彼の研究室はその大公妃が訪れるような場所ではありません」
魔法使いたちはあわわと言いながらルドヴィカを止めた。
ルフィーノを必ずこちらへ連れて来ると宣言するが、ルドヴィカを警戒しているルフィーノが来るのは難しいだろう。
「まずは彼に会いたい、というのであれば呼ぶのではなく私から行くのが筋でしょう」
どんな汚い場所であろうとルドヴィカは構わないと言った。決して文句は言わないのでルフィーノの部屋へ訪れることを求めた。
ジャンルイジ大公に続いての部屋直撃訪問である。
「ルフィーノさん、私はルドヴィカと申します」
「帰ってください」
閉ざされた扉の奥から響く男の拒絶の言葉である。
挨拶を返そうともしない失礼な言葉に魔法使いたちは慌てた。バルドもさすがにまずいと顔に出していた。
「も、申し訳ありません。大公妃」
「こら、ルフィーノ! 大公妃さまに向かって何て無礼な」
魔法使いたちが謝罪、ルフィーノへの叱咤で忙しそうである。
「いいのよ。事前予約もなく訪れた私こそ無礼なのだから」
ルドヴィカはにこりと微笑んだ。
彼女の大人な対応に魔法使いたちはほっと安堵した。
「ルフィーノさん、あなたにお願いがあってきました。まずは顔をみせていただけませんか? 挨拶をしたいのです」
「帰ってください」
相変わらずの拒絶の声、それに呼応するように少年たちの叫びであった。
「そうだ。悪女はかえれー」
「かえれーかえれー」
あの図書館でルドヴィカにりんごを投げつけた少年たちだ。
「まぁ、お久しぶり。そういえばりんごの忘れ物を持ってき忘れたわ」
ルドヴィカはほほと笑った。
怒るどころか不敵な態度のルドヴィカに部屋の奥ではひそひそと声が交わされた。
「兄ちゃん、あの悪女なんかこわいよ」
「きっと何かの罠だ。油断させて俺たちを悪女の取り巻きにしようとする算段なんだ」
ひそひそとしているつもりだが、まる聞こえである。
ここで何を言っても扉は開かれる様子はない。
「仕方ありません」
ルドヴィカは深くため息ついた。
魔法使いたちはその場に土下座しルフィーノと弟子たちの無礼を詫びようとした。その前にルドヴィカは朗らかに部屋へと伝えた。
「今日はお邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした。また改めてきますのでよろしくお願いしますね」
思いもしない反応に魔法使いたちはぽかんと口を開く。
もしかしたら騎士を呼び込んで、扉をぶち壊しルフィーノたちを連行するのではないかと心配であった。
「くるなー」
「かえれー」
怖い者しらずの子供たちはいっそうルドヴィカへの帰れコールを繰り返した。
ルドヴィカは特に気にする様子はない。
「元気な子供たちだこと。でも、人に向かって悪女というのはダメだと言ったのに」
「重々厳しく言いつけます」
恐縮しきった魔法使いたちは青ざめて宣言した。
ルドヴィカの行動に付き合わされただけだというのに、逆に可哀そうに思えてくる。
「次訪問する許可をいただきたいのですが」
予約を取り付けて、ルドヴィカは大公城へと戻った。
「大公妃様、申し訳ありません」
頭を痛めた様子のバルドも可哀そうなほど恐縮していた。まさか実の弟ですがあのような無礼な態度をとるとは思わなかったようだ。
「いいのよ。随分私を警戒しているのね。アリアンヌが余程彼に迷惑をかけたのね」
バルドは苦笑いして頷いた。
「とりあえずバルドさん、弟さんの今までの経歴や研究成果がわかる書籍を選別して届けていただける?」
「弟のですか?」
「ええ、後日改めて挨拶にいくからその前に彼のことをしっかりと知らなければ」
全くルフィーノのことを知らないまま力を求めるなどむしのいい話である。
まずはルフィーノことを調べて、今彼がどんなことを求めているかを確認しなければならない。
研究没頭しているということはそれだけ彼には大事なことなのだ。その時間を割いて協力を仰ぐのだからルドヴィカは相応の対価を支払わなければならない。
大公城に隣接するように建てられた公的機関である。
大公領の魔法使いたちが所属しており、ここで毎日研究、修練を積み上げている。
「はじめて来たわ」
バルドの案内のもとルドヴィカは5つの塔の複合施設を訪れた。
前世では訪れる機会はなかった。戦争が起きて、帝国軍からの攻撃で多くの魔法使いたちが命を落とすことになった。多くの魔法概念、道具が焼失したことにより他国の有識者たちが遺憾の意を示していたことを今も忘れられない。
帝国にも一応魔法棟はいくつか存在している。
ルドヴィカは魔力を僅かに持つものの、才能がないと早々諦めてお妃教育に専念していた。魔法棟を訪れる機会はなかった。
アリアンヌは才能があったというから定期的に通学していた。
自分も通ってアリアンヌを監視しておけばよかったと今なお後悔している。
おそらくその時の経緯でアリアンヌは魅了魔法を身に着けたのだろう。そして悪用するに至った。「うちのアリアンヌは天才なんだ」と父母は大喜びしていたが、今思えばあれはただの娘への溺愛だったのか、娘の魅了にかかってしまったかのか疑わしい。
代表格らしき魔法使いが出迎えて、中の様子を案内してくれた。
魔法だけを研究しているわけではないようだ。海外の科学、医学も積極的に取り入れて独自の発展を遂げようとしている。
この魔法棟から開発された医療品もいくつかあるという。
勿論異民族、騎馬民族との争いの絶えない地であったため戦争の為の道具も開発されている。これが使用されないことを願わなければ。
前世でビアンカが帝国に叛意を示し大きな戦争を起こした時のことを思い出した。ルドヴィカはビアンカへの謁見を求めた、謁見を与えられることはなく、久々に再会したビアンカは首だけの姿であった。
あの痛ましい日はもうこりごりである。その為にはビアンカがしっかり成長するまでの間ジャンルイジ大公に生きてもらわなければならない。
そのために必要なのは健康管理なのだ。
「大公妃は医学に興味をお持ちと聞きました。まだ内密のものですが、今開発中のものをご覧いただきたい」
「ええ、是非」
今後の役に立てそうなものであればウェルカムである。
新開発中の薬、治療道具、前日発表された論文の概要資料を披露してもらった。
朱美の世界でいえば、中世ヨーロッパ風味の世界だというのに近代に近いものだった。
「すごいわ。私は最近医学に興味をもったばかりなのだけど」
無論嘘だけど、現在のルドヴィカの経歴を考えるとそういわざるを得ない。
「こんなに発展を遂げていたなんて知らなかったわ」
「これも全て、大賢者たちのおかげでしょう」
各国の魔法棟に奇跡のように現れた逸材たちのことである。数々の功績を持ち、生前・死後に大賢者の称号を与えられた。
どうやら彼らの画期的な考えのおかげでこの世界は大きく進歩したそうだ。
(もしかして朱美と同じ世界からの転生者だったりして)
過去数百年の大賢者たちの話を聞きルドヴィカはちらりと考えてしまう。どうあれ、彼らの先進的な考え、行動力によりルドヴィカは大層助かってしまっている。
「たいへん有意義な時間を過ごさせていただきました。可能であればご協力をいただきたいのですが……その為の魔法使いはいらっしゃいますか?」
ルドヴィカはこれから自分が行おうとする計画を披露した。
魔法使いはふむふむと頷いていた。はじめは大公妃の突拍子もない発案だろうと聞き流す程度だったようだが。
「そうですね。大公殿下のあれにはどうしたものかと悩んでいました。それであればルフィーノが適任でしょう」
ルフィーノはバルドの弟魔法使いである。
人体研究を専攻しているという。魔法属性は攻撃魔法ではあるものの重力系魔法にも特化している。科学にも優れており、先ほど新開発中の道具のいくつかは彼の発案によるものだった。
「是非、ぜひ!」
ルドヴィカとしてはこれほどの協力者はいないだろうと喜んだ。
早速ルフィーノとの面談の場を設けてもらった。応接室でルドヴィカはお茶を飲み過ごしていた。その間に魔法使いから別の研究内容を確認してみる。
「大公妃は何をお望みで」
「そうね。内臓をみる方法とか」
言い方に魔法使いとバルドが目を合わせる。
「解剖学ですか。確かに、その設備はありますが……大公妃をお通しできる場所じゃなくて、防腐剤で匂いが……」
しどろもどろながらも必死に要望に応えようとするが、ルドヴィカは首を横に振った。
「いえ、解剖ではなく……いえ、解剖学も大事だけど」
今言っていた自分の言葉は一見猟奇的にみえたことだろう。
「体を切ることなく内臓を評価する方法です」
レントゲン、もしくは超音波検査、放射線画像検査のCT、電磁波検査のMRIである。
さすがにまだそこまでの開発は至れていなかった。
血液検査・尿検査が発達している分ありがたいと思うべきなのだろう。
「こうピカっと光って、ばばっと画像だしてくれたり……」
朱美は古い知識で訪ねていく。
どういう概念で、経緯で開発したかなど知らないルドヴィカはとにかくどういった検査かを必死に説明した。
「そういったものはないですね。開発できれば大賢者の称号を得られますよ」
それもそうだ。
ルドヴィカが画像検査の道具を求めていたのは理由がある。
ジャンルイジ大公の現状を把握することである。
肥満症というのは原因は食生活のみではない場合がある。それは内臓病である。
頭の下垂体、お腹の副腎に腫瘍があるかどうかを知りたい。
朱美の専門分野は内分泌代謝内科である。病的肥満症を受け持った場合、まずは調べるのはその人に肥満を引き起こす病気がないかを調べることだ。
どうみてもあのジャンルイジ大公の食生活が原因であっても、まずそれを調べないといけない。それは専門医を名乗る朱美の使命感であった。
でも、調べるだけの道具が限られているのよね。
血液検査で糖尿病と甲状腺の病気がないことを確認できただけよしとしてもいいのかもしれない。
「せめて、超音波検査が欲しい……エコーで副腎腫瘍をみるのは難しいけど、膵臓がんがないかは何とか。いやあの脂肪で視れるのか……膵臓。いや、脂肪膵はエコーではすごい真っ白にみえるというし、逆にみつけやすいのか?」
「大公妃は随分熱心ですね。発想も面白いですし」
ルドヴィカはぶつぶつと独り言を語っているが、魔法使いはえらく関心してバルドをみやった。バルドは事前にルドヴィカの勉強姿勢を報告していたので、案内を請け負った魔法使いは好意的に感じていた。ちなみに大公城図書館の司書であるバルドは、この魔法棟所属である。
ルフィーノを呼び出していたスタッフが戻ってきた。
一人で戻ってきて彼は申し訳なさそうに報告した。
ルフィーノは応召しなかった。拒否といってもいい。
魔法使いたちは困ったように大公妃のルドヴィカに謝罪した。
「才能ある者なのですが、偏屈なところがありどうか無礼をお許しください」
「構わないわ。アリアンヌの一件があって警戒しているのでしょう」
魔法使いはちらっとバルドをみた。
ルドヴィカはお茶を最後まで飲み干して、ソーサーに置く。
かちゃりという音が響き、呼び出しに出ていた魔法使いスタッフは青ざめた表情であった。
「ルフィーノさんのいる部屋はどちらかしら」
ルドヴィカはすくっと立ち上がった。
「いえ、彼の研究室はその大公妃が訪れるような場所ではありません」
魔法使いたちはあわわと言いながらルドヴィカを止めた。
ルフィーノを必ずこちらへ連れて来ると宣言するが、ルドヴィカを警戒しているルフィーノが来るのは難しいだろう。
「まずは彼に会いたい、というのであれば呼ぶのではなく私から行くのが筋でしょう」
どんな汚い場所であろうとルドヴィカは構わないと言った。決して文句は言わないのでルフィーノの部屋へ訪れることを求めた。
ジャンルイジ大公に続いての部屋直撃訪問である。
「ルフィーノさん、私はルドヴィカと申します」
「帰ってください」
閉ざされた扉の奥から響く男の拒絶の言葉である。
挨拶を返そうともしない失礼な言葉に魔法使いたちは慌てた。バルドもさすがにまずいと顔に出していた。
「も、申し訳ありません。大公妃」
「こら、ルフィーノ! 大公妃さまに向かって何て無礼な」
魔法使いたちが謝罪、ルフィーノへの叱咤で忙しそうである。
「いいのよ。事前予約もなく訪れた私こそ無礼なのだから」
ルドヴィカはにこりと微笑んだ。
彼女の大人な対応に魔法使いたちはほっと安堵した。
「ルフィーノさん、あなたにお願いがあってきました。まずは顔をみせていただけませんか? 挨拶をしたいのです」
「帰ってください」
相変わらずの拒絶の声、それに呼応するように少年たちの叫びであった。
「そうだ。悪女はかえれー」
「かえれーかえれー」
あの図書館でルドヴィカにりんごを投げつけた少年たちだ。
「まぁ、お久しぶり。そういえばりんごの忘れ物を持ってき忘れたわ」
ルドヴィカはほほと笑った。
怒るどころか不敵な態度のルドヴィカに部屋の奥ではひそひそと声が交わされた。
「兄ちゃん、あの悪女なんかこわいよ」
「きっと何かの罠だ。油断させて俺たちを悪女の取り巻きにしようとする算段なんだ」
ひそひそとしているつもりだが、まる聞こえである。
ここで何を言っても扉は開かれる様子はない。
「仕方ありません」
ルドヴィカは深くため息ついた。
魔法使いたちはその場に土下座しルフィーノと弟子たちの無礼を詫びようとした。その前にルドヴィカは朗らかに部屋へと伝えた。
「今日はお邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした。また改めてきますのでよろしくお願いしますね」
思いもしない反応に魔法使いたちはぽかんと口を開く。
もしかしたら騎士を呼び込んで、扉をぶち壊しルフィーノたちを連行するのではないかと心配であった。
「くるなー」
「かえれー」
怖い者しらずの子供たちはいっそうルドヴィカへの帰れコールを繰り返した。
ルドヴィカは特に気にする様子はない。
「元気な子供たちだこと。でも、人に向かって悪女というのはダメだと言ったのに」
「重々厳しく言いつけます」
恐縮しきった魔法使いたちは青ざめて宣言した。
ルドヴィカの行動に付き合わされただけだというのに、逆に可哀そうに思えてくる。
「次訪問する許可をいただきたいのですが」
予約を取り付けて、ルドヴィカは大公城へと戻った。
「大公妃様、申し訳ありません」
頭を痛めた様子のバルドも可哀そうなほど恐縮していた。まさか実の弟ですがあのような無礼な態度をとるとは思わなかったようだ。
「いいのよ。随分私を警戒しているのね。アリアンヌが余程彼に迷惑をかけたのね」
バルドは苦笑いして頷いた。
「とりあえずバルドさん、弟さんの今までの経歴や研究成果がわかる書籍を選別して届けていただける?」
「弟のですか?」
「ええ、後日改めて挨拶にいくからその前に彼のことをしっかりと知らなければ」
全くルフィーノのことを知らないまま力を求めるなどむしのいい話である。
まずはルフィーノことを調べて、今彼がどんなことを求めているかを確認しなければならない。
研究没頭しているということはそれだけ彼には大事なことなのだ。その時間を割いて協力を仰ぐのだからルドヴィカは相応の対価を支払わなければならない。
10
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる