【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

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5 食生活を見直しましょう

 肥満症の原因が食生活以外もあるにはあるが、基本的な第一選択治療は食事療法と運動療法である。
 ルドヴィカはジャンルイジ大公の1日の食事量を把握していった。

「1日中ほとんど食べているわ……こんなんでいつ書類仕事を片付けているのかしら」

 ひとつの書類を片付ければ大量に食べて、ひとつの書類を片付ければ大量に食べて。

「カロリー計算をしてみると、糖質過多の高カロリー。あの体重を維持しているのであれば、5000キロカロリー以上は食べていても驚かないわ」

 ジャンルイジの標準体重は74kg程。
 活動量は常時天蓋ベッド上、歩行すらもしていない。

「あれ、排せつは? お風呂は……」

 一瞬考えたが、考えるのをやめた。

「よし、清潔面についても後で執事長と考えるとして、カロリー計算ね。エネルギー係数はええ……と20以下でしょう。でも一応通常の人のデスクワークと考えて、25から30をかける。彼に必要なエネルギーは、だいたい1800から2200キロカロリーねぇ」

 突然そのくらいにカロリー制限すると限界が訪れる。
 まずはすることはジャンルイジ大公の起床時間、朝昼夕の食事時間、就寝時間の目標をたてていこう。仕事があるからきちんと守ることはできなくても、大きくずれを生じることが長く続かないようにする。

「というわけで大公殿下は何時起床を目指しますか?」
「知るか!」

 場所はルドヴィカの私室から変わり、ジャンルイジの私室であった。
 ルドヴィカは清拭中のジャンルイジに声をかけた。
 反応はとても空しいものであるがルドヴィカは特に気にしない。

 勿論、体を直に見るわけにはいかない。
 二人の間にはパーティションを挟んである。
 向こう側にはルドヴィカが選んだ体力に自信あり口の堅い騎士二人を手配した。ジャンルイジの巨体を支え、その間に使用人がジャンルイジの体を温かなタオルで清拭しているのだ。
 ちなみに実質選んだのはルドヴィカではない。稽古場で手ごろな騎士へのスカウトを試みようしていたルドヴィカにオルランド卿が声をかけて、オルランド卿が選んでくれたのである。
 オルランド卿は内面つかめない人間であるが何かと親切だった。というより何だか楽しそうだった。

 清拭が終わり、散髪して髭も剃ってもらっている音が聞こえてくる。
 本当はお風呂に入れたいところであるが、寝室備え付けのバスは今のジャンルイジには小さすぎた。
 執事長にお願いして、彼の体を丸洗いできるバスを手配する予定である。

「殿下、規則正しい生活は馬鹿にできないものですよ。まずは朝食をしっかりと食べる。これは肥満治療に必要です」
「仮に聞くが何故だ」
「朝食を食べる人間は、朝食を食べない人間より痩せホルモンが出やすいです。そして朝昼夕の食事を決まった時間に食べるのも同様です」

 そのホルモンの人工生成された注射薬もあり、肥満症のある糖尿病治療薬として活躍している。ちなみに糖尿病薬であり、糖尿病ではない者には基本処方されない。美容関連の自費診療で大量処方して、本来必要な病的肥満、糖尿病の患者に処方できなくなる危機に何度も瀕した。

「と、いうわけで朝食は7時にしましょう。お昼は12時、夕飯は18時にしましょう。それで22時には就寝してください」
「何で寝る時間までしれっと設定している」
「深夜起きていたら太りやすいので」

 理由はいくつか説があるのだが、この男は夜食が大きな原因である。
 夜は仕事をしているという名目で傍らにナッツ類とお砂糖たっぷりコーヒーを飲んでいる。そのまま明け方近くに仮眠をとる前に果実酒を一杯飲む。
 脂肪が増える食べ物、甘い食べ物の重なりである。

 欧米の一部では睡眠1時間ほど前に温かいお茶とお菓子を食べて、良質な睡眠をとろうとする文化はある。朱美も欧米に留学したときに知った文化であり、仮にアンジェロ大公領にそのような文化があっても否定する気はない。
 ただしジャンルイジ大公の夜食はそれで説明しようにも片付かない程の脂質・糖質の量である。ようは適量である。

 それに夜更かしは下垂体ホルモンのはたらきを低下させる。
 下垂体ホルモンで代表的なものは前葉は副腎関連・甲状腺関連・成長ホルモン・性腺関連。
 特にあげられるのが成長ホルモンである。
 子供の時は成長を促すホルモンであるが、成人後にこの成長ホルモンが足りなくなると代謝に影響する。脂肪が増え、筋肉が減り、脂肪肝にもなりやすい。
 性腺関連にも影響を与えてしまう。テストステロンの低下、これも筋肉低下、結局脂肪を増やしてしまう。

「という訳で、まずは殿下には夜型から朝型へと変えてもらいましょう!」
「勝手に人のライフスタイルを変えようとするな」

 一通りレクチャーを終わった後にパーティションが外される。
 使用人たちの努力により、無精ひげは剃られ、髪も綺麗に整えられていた。
 押しかけて来たルドヴィカに突然あれやこれやと言われて不満たらたらの目であった。
 そんな目など可愛らしいものである。
 歪んだボディイメージ、ライフスタイルを是正する気もない数々の肥満患者、糖尿病患者とわたりあった朱美の記憶を持つルドヴィカは予想通りの反応とむしろ面白く感じた。
 前に診ていた医者から色々と指摘されて面白くないと感じた為か、朱美の僅かな隙をついては怒鳴り散らす患者だっている。血液検査の結果が出てすぐに呼んだというのに、「いつまで待たせるつもりだったのか!」と大声で怒鳴りつけ診察ファイルを投げつける者もいたのだ。
 肥満体になっても根は騎士であるジャンルイジはルドヴィカに対して手をあげるなどしない。

 ルドヴィカの微笑みにジャンルイジは不気味に感じた。

「何だ。何が言いたい」
「いえ、殿下の美しい瞳がよく見えるようになったなと」

 ルドヴィカの言葉にジャンルイジは顔を真っ赤にした。

「な、他に褒める部分がないからと……無理に言う必要などない」

 それでも照れているのがまるわかりである。
 29歳のまるまると太った成人男性であるが、この反応はとても素直で愛らしく感じる。

 そういえば、私って実質何歳になるんだろう。

 前世のルドヴィカの享年は35歳であった。そして朱美の享年は同じく35歳である。実質70年は生きていることになる。
 そうか。もう自分はこういう若者を可愛いと感じてしまう年齢になってしまったのね。
 少しだけ悲しい気分になったが、そんな暇は今は惜しい。
 無理をして大公への拝謁・意見をいう時間をもぎ取ったのである。
 彼の時間を無駄にしてはなるまい。

「気になることがあります。戦争が終わって5年、大公領は随分と平和を取り戻しつつあります。戦後処理も滞りなくすまされており、何故殿下は夜遅くまでお仕事をなされているのですか?」
「そんなの当たり前だろう。いくら片付けようとしても終わらない書類の山をみてわからないのか」

 仕事の内容は大公領のライフラインの整備、戦争により生活ができなくなった者たちへの保障、治安の維持などと領主としての仕事が大半である。そして、城の管理や使用人たちの仕事内容・給与、戦争被災者に対する慈善活動の計画と実践者への依頼と多岐にわたる。
 3分の1はルドヴィカ、女主人の役割でもあった。
 前世のルドヴィカは自暴自棄になり、女主人の仕事を放棄していた。それを誰がやっていたかと思い出しながらジャンルイジを見つめる。

「わかりました」

 ジャンルイジ大公が担ってる仕事の数を紙に記載してルドヴィカはチェックをいれた。

「このチェック部分は今後私がやります」
「お、お前が……」
「はい。私がです。というより女主人がするお仕事でしょうに何故そんな意外な表情をなさるのです?」

 ジャンルイジはうーんと困ったように俯いた。

「お前の妹は……私がやれっと言ったのだが」

 ガンと頭に衝撃が走る音がした。
 おそらくは花嫁修業の一環として一部だけ練習としてアリアンヌに任せようとしていた時期があったのだろう。
 アリアンヌが何を言ったかは、今大公が言った通りのことである。

「殿下、それは……申し訳ありませんでした」

 ルドヴィカはまずは頭を下げた。

「ですが、アリアンヌの言う通りになさる必要はなかったのでは。信頼できる人を雇い仕事の采配をすることだってできたのでは」

 その言葉にジャンルイジはぽかんと口を開いた。

「何故気づかなかったのだ」

 驚きの一言である。
 周りの騎士も使用人も「そういえば」と今更のような顔をして互いを見合わせていた。
 誰もアリアンヌの言っていたことに疑問を抱かず、そのようにするのが当然と思っていたようだ。
 魅了魔法でここまでのことができるなどありえるのだろうか。

「と、とにかく体を壊す程仕事をするなど本末転倒です。大公殿下はこの先も大公領を統治してもらわなければなりませんので、まずは殿下の負担を減らすことを優先しましょう」

 ここで悩んでも先に進まない。さくさくっと計画を進めていこう。
 執事長に頼み、政治に詳しく信頼できる人材名簿を手に入れた。その中で大公の仕事の補佐を5名列挙していく。彼らの専門分野に合わせて、大公の仕事の割り振りをしてもらうように動いた。勿論最終チェックをジャンルイジ大公がする必要があるが、それでも各段に負担は減ったことだろう。

「さてと……」

 ルドヴィカは机の上にたまった自分が負担すると宣言した書類の山をみてため息をついた。
 眺めているだけでは消えはしない。
 とりあえずまずは優先順序を確認して並べていく。内容を確認して、慣れるのに時間を要するが取り掛かれる内容であった。仮にも皇后になるために教育を受けた身である。
 今までの5年の教育は無駄ではなかったようだ。応用が利きそうで安心した。
 ルドヴィカは皮肉げに笑った。

 とはいえ、実質50年前に勉強したっきりで、自暴自棄でいかされる機会などなかった知識である。掘り起こすのに時間がかかる。
 こんな時にバルドの出番である。
 ルドヴィカは手紙を書いて、早速女主人に必要な参考資料を届けてもらうように依頼をかけた。王宮にて使用していた参考書籍群を運び込んでもらった。彼を味方につけてよかった。
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