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79 鼠色の髪の皇女
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「あの、大丈夫ですか? おばあ様に叩かれて」
ロヴェリア公爵夫人のことをおばあ様という呼ぶ幼女、まさかとルドヴィカは混乱した。
「だ、大丈夫です。大したことでは」
「いいえ。とても痛いでしょう。そこに井戸がありますので冷やしましょう」
幼女はルドヴィカの手を握って歩いた。
彼女が案内した場所に井戸はあり、幼女はそこから水を汲もうとする。
危ない。
思わずルドヴィカはガヴァス卿に声をかけた。
ガヴァス卿は幼女と交代して井戸から水をくみ上げた。
「ありがとうございます。騎士さま」
少し緊張した様子であるがお礼はしっかりという。
「怖がらなくていいわよ」
「怖がっていません。素敵な騎士様で。絵本の中で見た騎士にそっくり」
少し頬を染めていた。可愛らしい反応である。
「これで冷やしてください」
幼女は自分のハンカチを水にひたした後ルドヴィカに手渡した。
「ありがとう。あの、あなたは……」
「カプリアナです」
やはりとルドヴィカはようやく幼女の存在を受け止めた。
カプリアナ皇女、アリアンヌが1年前に産んだ皇女であった。
「あの、あなたのお名前を……その、私と同じ方で、知りたくて」
遠慮がちに聞いてくる彼女にルドヴィカはこくりと頷いた。
「私はルドヴィカ。アンジェロ大公妃をしているわ」
「アンジェロ大公妃……では、伯母様」
「そうよ」
ルドヴィカは内心複雑だった。ロヴェリア公爵家とは縁を切ると宣言したので、カプリアナ皇女とも縁を切ったようなものである。
それなのに伯母と名乗るのは躊躇するが、何故か彼女のまなざしをみていると否定できなかった。
「お会いしたかったです。伯母様」
「そうなのですか」
「はい。私と同じ髪の夫人、どんな方か……知りたかったです。綺麗な方ですごく驚きました」
幼女からの称賛にルドヴィカは動揺した。
「その、皇女様はどうしてここに。パーティーに出席されないのは体が弱いからと」
「……私は醜いから、パーティーには出られないと」
その言葉にルドヴィカはめまいを覚えた。
まさか、こんな幼い娘にそのような言葉をぶつけているのか。
「皇女様は醜くありません」
ルドヴィカの発言を聞いてもカプリアナ皇女は首を傾げた。
彼女は生まれた時から周りの大人たちに言われ続けたのだ。
醜い鼠色の髪の皇女と。
もしかすると父親からも。
そう思うと腸が煮えくり返る程苦しかった。
遠くからダンスの曲が聞こえて来た。そういえば、まだダンスが続いていたのを思い出す。
「その、私……パーティーを少しみてみたくて、ダンスを少しみたら帰るつもりだったの。だから、私がここにいるのを内緒にしてください」
弟の誕生を祝うパーティーに参加させてもらえず一人寂しく過ごす皇女にルドヴィカは何かできないかと考えた。
「皇女殿下」
ガヴァス卿はカプリアナ皇女に手を差し伸ばした。
「私と踊ってください」
「え、その……あの」
カプリアナ皇女はちらりとルドヴィカの方をみた。
「騎士様には伯母様がいるでしょう」
「ぷふっ」
思わずルドヴィカは笑ってしまった。もしかするとルドヴィカの相手だと勘違いしているのだろう。
「彼は私の護衛よ。気にしなくていいわ」
「え、そうなの……」
「私にはちゃんと相手がいるから」
肩をとんと叩くとカプリアナ皇女はどきどきしながらガヴァス卿の手をとった。
両手を繋いだ簡単なダンスであったが、カプリアナ皇女は照れながらガヴァス卿を見つめる。
「騎士様、ありがとう。私、今日のことは忘れません」
そろそろ帰るとカプリアナ皇女は挨拶をした。
「ハンカチはどうしましょう」
後日送ることも考えたが、それでは外に出たことがばれてしまう。
とても美しい刺繍が施されているハンカチであり、返したのだが今濡れた状態で返す訳にはいかない。
「いいです。そのまま差し上げます」
カプリアナ皇女は余程嬉しかったのだろう。
足取りかろやかに自室へと帰ろうとした。危ないから送ると言ったが断られてしまった。人に見つかって大事にされたくなかったのもあるだろう。
帝都で嫌なこともあったが、小さな素敵な出会いもあったなとルドヴィカは笑った。
しかし、記憶を呼び起こすと彼女のことが心配でならない。
前世のカプリアナ皇女は生まれた時から体が弱く、12歳でこの世を去った。
今みたところ元気な子であった。本当に病死だったのか今思うと疑わしい。
元気な子が急病にかかるというのはあるけど、つい引っかかったものを感じてしまった。
本当はこの日を境に帝都に近づく気は起きなかったのだが、また来ることになるかもしれない。
いつまで経ってもいっこうに戻ってこないジャンルイジ大公の様子が気がかりでガヴァス卿に様子を見に行かせた。
予想外のことが起きてルドヴィカは狼狽した。
ジャンルイジ大公が皇族侮辱により幽閉されてしまったという。
どういうことかと皇帝に意見しに行こうとルドヴィカは立ちあがった。
同時に彼女の元に宮殿騎士たちがやってきて周りを取り囲んだ。
「アンジェロ大公妃、同行していただきましょう。あなたに容疑がかかっている。アリアンヌ皇后を暗殺しようとした罪により」
何と、ここでルドヴィカはまさかの二度目の暗殺容疑者とされてしまったのだ。
ロヴェリア公爵夫人のことをおばあ様という呼ぶ幼女、まさかとルドヴィカは混乱した。
「だ、大丈夫です。大したことでは」
「いいえ。とても痛いでしょう。そこに井戸がありますので冷やしましょう」
幼女はルドヴィカの手を握って歩いた。
彼女が案内した場所に井戸はあり、幼女はそこから水を汲もうとする。
危ない。
思わずルドヴィカはガヴァス卿に声をかけた。
ガヴァス卿は幼女と交代して井戸から水をくみ上げた。
「ありがとうございます。騎士さま」
少し緊張した様子であるがお礼はしっかりという。
「怖がらなくていいわよ」
「怖がっていません。素敵な騎士様で。絵本の中で見た騎士にそっくり」
少し頬を染めていた。可愛らしい反応である。
「これで冷やしてください」
幼女は自分のハンカチを水にひたした後ルドヴィカに手渡した。
「ありがとう。あの、あなたは……」
「カプリアナです」
やはりとルドヴィカはようやく幼女の存在を受け止めた。
カプリアナ皇女、アリアンヌが1年前に産んだ皇女であった。
「あの、あなたのお名前を……その、私と同じ方で、知りたくて」
遠慮がちに聞いてくる彼女にルドヴィカはこくりと頷いた。
「私はルドヴィカ。アンジェロ大公妃をしているわ」
「アンジェロ大公妃……では、伯母様」
「そうよ」
ルドヴィカは内心複雑だった。ロヴェリア公爵家とは縁を切ると宣言したので、カプリアナ皇女とも縁を切ったようなものである。
それなのに伯母と名乗るのは躊躇するが、何故か彼女のまなざしをみていると否定できなかった。
「お会いしたかったです。伯母様」
「そうなのですか」
「はい。私と同じ髪の夫人、どんな方か……知りたかったです。綺麗な方ですごく驚きました」
幼女からの称賛にルドヴィカは動揺した。
「その、皇女様はどうしてここに。パーティーに出席されないのは体が弱いからと」
「……私は醜いから、パーティーには出られないと」
その言葉にルドヴィカはめまいを覚えた。
まさか、こんな幼い娘にそのような言葉をぶつけているのか。
「皇女様は醜くありません」
ルドヴィカの発言を聞いてもカプリアナ皇女は首を傾げた。
彼女は生まれた時から周りの大人たちに言われ続けたのだ。
醜い鼠色の髪の皇女と。
もしかすると父親からも。
そう思うと腸が煮えくり返る程苦しかった。
遠くからダンスの曲が聞こえて来た。そういえば、まだダンスが続いていたのを思い出す。
「その、私……パーティーを少しみてみたくて、ダンスを少しみたら帰るつもりだったの。だから、私がここにいるのを内緒にしてください」
弟の誕生を祝うパーティーに参加させてもらえず一人寂しく過ごす皇女にルドヴィカは何かできないかと考えた。
「皇女殿下」
ガヴァス卿はカプリアナ皇女に手を差し伸ばした。
「私と踊ってください」
「え、その……あの」
カプリアナ皇女はちらりとルドヴィカの方をみた。
「騎士様には伯母様がいるでしょう」
「ぷふっ」
思わずルドヴィカは笑ってしまった。もしかするとルドヴィカの相手だと勘違いしているのだろう。
「彼は私の護衛よ。気にしなくていいわ」
「え、そうなの……」
「私にはちゃんと相手がいるから」
肩をとんと叩くとカプリアナ皇女はどきどきしながらガヴァス卿の手をとった。
両手を繋いだ簡単なダンスであったが、カプリアナ皇女は照れながらガヴァス卿を見つめる。
「騎士様、ありがとう。私、今日のことは忘れません」
そろそろ帰るとカプリアナ皇女は挨拶をした。
「ハンカチはどうしましょう」
後日送ることも考えたが、それでは外に出たことがばれてしまう。
とても美しい刺繍が施されているハンカチであり、返したのだが今濡れた状態で返す訳にはいかない。
「いいです。そのまま差し上げます」
カプリアナ皇女は余程嬉しかったのだろう。
足取りかろやかに自室へと帰ろうとした。危ないから送ると言ったが断られてしまった。人に見つかって大事にされたくなかったのもあるだろう。
帝都で嫌なこともあったが、小さな素敵な出会いもあったなとルドヴィカは笑った。
しかし、記憶を呼び起こすと彼女のことが心配でならない。
前世のカプリアナ皇女は生まれた時から体が弱く、12歳でこの世を去った。
今みたところ元気な子であった。本当に病死だったのか今思うと疑わしい。
元気な子が急病にかかるというのはあるけど、つい引っかかったものを感じてしまった。
本当はこの日を境に帝都に近づく気は起きなかったのだが、また来ることになるかもしれない。
いつまで経ってもいっこうに戻ってこないジャンルイジ大公の様子が気がかりでガヴァス卿に様子を見に行かせた。
予想外のことが起きてルドヴィカは狼狽した。
ジャンルイジ大公が皇族侮辱により幽閉されてしまったという。
どういうことかと皇帝に意見しに行こうとルドヴィカは立ちあがった。
同時に彼女の元に宮殿騎士たちがやってきて周りを取り囲んだ。
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