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5、熊さんじゃなかった
しおりを挟む「殿下、お初にお目にかかります、私レヴィウス殿下専属侍従のイザードと申します!この時をどれだけお待ち申し上げていたか…!」
熊だったイザードは煙が収まるとすっかり精悍な色黒武人に変わっていて、僕はぽかんと口を開ける。
殿下殿下と連呼しているが、今この場にイザードが指す人物が見当たらない。
キョロキョロ辺りを確認していると、神官たちの視線が僕に集まっているのを感じ首を傾げた。
「その…イザードとやら、貴方が仰ってるのは、まさかこの鳥型の魔獣の事でしょうか…?」
ラルが若干引き攣った顔で問うと、イザードはギッと鋭い目でラルを睨む。
「魔獣?ふざけるな!レヴィウス殿下はこの世で最も高貴で強い魔人。今は兄君をお救いした影響で力を失って居られるが、本来であればお前たちなど足元にも及ばん。それなのに、レヴィウス殿下の一番弱っている孵化時を狙い奪い去るとは…お前達人間は万死に値する。」
「ま、魔人…?嘘だろ…。」
どこからかそんな声が聞こえたかと思うと、イザードは凄まじい殺気を纏い立ち上がる。
その手には身丈程もある大きな槍を持っていて、僕はその姿に恐怖でガクガクと震え出した。
「おい、タワシ、肩の上でガタガタすんな!視界がブレるだろうが。てゆーかアイツお前のお守役だろ?何でそんなビビってんだよ…」
そんな事を言われても完全に初対面の相手である。
おまけにこうも一緒くたに殺気を向けられては、産まれたてホヤホヤである赤子同然の僕はビビらざるを得ない。
すっかりビビリ過ぎて無意識にラルの髪の中に埋もれていると、やっと僕の様子に気付いたイザードが慌てて殺気をしまう。
そのまま両手を差し出すと、猫なで声で僕を呼んだ。
「さっ、殿下、こちらへ。一緒に魔の国へ帰還致しましょう!心配せずともこのイザード、殿下を送り届けた後はしっかり人間共に報復致しますので安心してお休み下さい!」
全然安心出来ないだろ!
僕の天秤は初対面の男より短くとも共に過ごしたラルに傾いており、拒絶の意を示す為ガフッと火玉を吐き出しイザードを牽制する。
それを見たイザードは目を丸くし、「なんと愛らしい…!」と感動していたが、僕がラルの側から離れない事に眉を下げた。
「殿下、粗奴らは殿下をさらった極悪人です。私共魔の国の者は皆殿下の無事な帰還と、殿下をさらった人間共への報復を望んでおります。」
「ガフッ!」
「くっ、おのれ、人間共め…刷り込みにより殿下を懐柔しおって…!」
イザードはその後も何度も僕を説得して来たが僕は聞く耳を持たず、ガクリと肩を落とす。
このままでは埒が明かないと仕方無く一旦諦めると、僕専用だと言う小さな揺りかごやお世話セットを寄越してきた。
「誠に、誠に遺憾だが、殿下に魔人の本能が戻るまで致し方ない…殿下の事は暫くの間お前達人間に預ける。いいか、これはただの猶予期間だ。殿下に何かあれば、すぐにでもお前達を滅ぼしに来る。それと、近々レヴィウス殿下の兄君がこちらにおいでになるだろう。兄君であるガーガリアム殿下は冷酷無慈悲な恐ろしい方。先日もレヴィウス殿下を探して人間の国を一つ滅ぼしたばかりで、とても気が立っておられる。レヴィウス殿下が見つかったのであれば報告せねばならんが、どうなるかは私には分からん。」
イザードは僕に無理強いはしないものの、依然人間などどうでもいいというスタンスで、僕の世話だけラル達にしつこく念押しすると不本意そうな顔でその場から引き上げた。
イザードは去り際魔獣達も魔の国へと送り、今回の魔獣騒ぎは僕の捜索だった事と、僕が居る限り今は王都を攻撃する事は無いと言い残していく。
「…お前、レヴィウスって柄じゃねぇだろ…似合わねぇ…。しかもお前が魔人の王子とか、魔の国どうなってんだろうな…。」
ラルは僕を見ながら途方に暮れ、どう上に説明しようか頭を抱えるのだった。
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