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第3章-3
しおりを挟む「ここかぁ・・・」
我聞が書いた病院、嘉部総合病院にたどり着いた。大病院と言うほどではなく、佐恵たちもこの近辺で事故にあったら運ばれる場所はここになるだろう。
「・・・・・・む」
「華乃さん、何かありました?」
「我聞さんから何か言伝はあるか?」
華乃が過去に我聞とどういう接点があるかを佐恵は知らない。それに加えて我聞からそのようなものを聞いてすらいない。しかし佐恵はこれが佐恵のみで我聞から依頼されたことだということは理解している。本来であれば華音も華乃も登場せず、リミットが来る前にすべてを一人でこなさなければいけなかった。
(華音ちゃんは私の電話の内容を知っているから、もし華乃さんに言う言葉は・・・)
我聞は条件に具体的な指定をしていない。それは自分以外にも条件を伝えても問題はないということだと佐恵は判断する。
「SNSを見ないでください。多分ですが、これが今回のヤマの原因です」
「・・・・分かった。注意しておこう」
「お願いします」
佐恵は華乃を駐車場に残し病院に入る。二階まで吹き抜けになっているロビーが広がっており、近くに子供エリアの併設や自販機コーナーがそこまで大きくないのを見て外観よりも少し古臭く印象を受けた。
「えっと、松川さん?いますか」
カウンターまで歩いて行き我聞から聞いた人物について尋ねる。松川明美、2回目の安谷陣矢を担当する看護師だ。彼女の様子を聞く、それが今回の仕事である。
「はい、どういったご用ですかー?」
「松川さんっていう人を探してるんですが」
対応に来た看護師を見て、佐恵は即座にハズレを引いたと理解した。この看護師は確実に佐恵の最初の一言を聞いている距離にいた。それなのにあえて聞き返したということは彼女のデスクの上のスマホが天井を向いてることで判断できる。
(なんでこんなのがまともな仕事に就けるのか不思議だよ)
佐恵は内心で舌打ちをして、愛想笑いを浮かべる。
「松川はうちの病院にいますけどー……いっぱいいますねー」
いっぱいじゃないんだよ!看護師の松川だけが目的なんだよ!
と、内心で下心を持ったおじさんみたいにキレ散らかす。
けれど次の応答で佐恵はもう松川という看護師に会えないことを悟る。
「もしうちの看護師の松川だと言うのなら、203号室の豊田さんの部屋で点滴を変えに行ってますねー」
(・・・・・・・・・!!)
佐恵が我聞から聞いた話によると、松川という看護師が陣矢よりも先に担当していたというのがその豊田である。それが一昨日の話、そして昨日が陣矢が再入院した。
(なんで、この人は一昨日の話をしているんだ・・・?)
陣矢の事故は決して転んで怪我をした程度の軽いものではない、車に轢かれる事故に遭うという比較的大きい事故だ。それなのにこの看護師は突然一昨日のことを言いだしたのだ。例えば、そう、『松川は昨日事故に遭ったこの世話をしているの』とか『急患の相手をしているんです』とか。言えなければ『ちょっと忙しくて分からない』とでも言えるはずなのだ。
チラリとカウンターの上にあるカレンダーに目を向ける。恐らく退屈だったのだろう、いくつものシールが張られている。そのどれもが子供っぽく暇な子供がカレンダーにペタペタとシールを張りに来ていることが見て取れた。そしてそれが一昨日の日で止まっている。
いや、違う。思わずそのカレンダーを手に取り、触ってみる。看護師が疑問の声を出しているがお構いなく触り、佐恵は気付いた。一昨日の日のシールだけ二枚余計に重ねて張ってある。
佐恵は思わず辺りを見渡した。毎日ここに通っているわけではないから変化が起きても気付くことは出来ない。けれど証拠が今、佐恵の目の前に並んでいる。ここまでされて気付かないほど佐恵は頭が固いわけではない。
(繰り返してる・・・同じことを・・・!!)
佐恵は不思議な顔をしている看護師を後にして踵を返す。手遅れだった、もはやこの病院は終わりに近い。何がどう終わりになるのかを佐恵は思いつかないが、それほどまでに焦っているということを自覚する。とりあえずここから離れなければ。
「あれー?看護師さん、なんで今日の分のシール張ってあるのー?」
という声が後ろから聞こえてきた。佐恵はもはや振り返ろうともしない。対処法が今の段階で何もないのだ、どうしろというのだろうか。
病院を出てすぐに我聞に電話する。それぐらいこの事態は深刻な事態なのだ。
我聞はすぐ電話に出た。
「ちょっとおじい!あれ、どうゆうことなの!?」
『佐恵、その反応で今起こっている現状が分かったみたいだな』
我聞のあまりにも冷静な態度に佐恵は怒りが爆発しそうになる。病院の中には子供がいた、しかしその子も同じ行動を取っている。これが病院ではなく空き地に遊びに行ったり、学校で駆けまわる子供だったらどうなっているだろうか。毎日毎日同じ行動を取って、いつかは倒れてしまうのが目に見えてくる。それなのに我聞が落ち着いているのが許せなかった。
「・・・おじい。どうしてそんなに落ち着いているの?これは明らかに事件なんだよ、もっと考えようよ」
『ああ、考えている。考えているから動けないんだ』
「なら・・・!!もっとさぁ・・・いつもみたいに熱くなってよ!!そんな冷めきった態度取られてもどうしようもないよ!!」
電話越しに小さいため息が聞こえる。漏れ出る怒気に佐恵は気付かないほど勘が鈍くない。
「ごめん」
『いや、いい。この件に関しては下手なテロよりも危険なものだ。だから冷静に対処するしかないんだ』
「・・・・・・・・・・」
『分かってくれ、佐恵。この件はもう止められない、恐らくサイバー関連に強い連中ほどこの事件は効果が強い』
「でも、おじい・・・・それだと私たちはどうすればいいの・・・?」
佐恵の疑問は至極真っ当なものだ。SNSが流通している世代にとって情報の大半はSNSに依存していると言っても過言ではない。我聞は小さく唸り、考えを話す。
『現在の考えはとにかく待ちだ。情報が少なすぎる。学校は諸事情で休め、母さんには言っておく』
「分かった。でもこれからおじいたちはどうするの?何か策でもあるってこと?」
我聞は再び唸り声を上げた。考えとしてはまとまっているみたいだが、本当にそれが合っているかどうか自信なさげなようだった。
『やってみる、としか言いようがない。こういう機械操作は他所に任せたいんだが・・・』
我聞はスマホすら弄れない堅物だ。佐恵もそこの部分が心配だが、ここまでたどり着いたことは事実なのだ。最後まで頼らないほかない。
「任せたよ、おじい。どんな結果になっても私は信じるから」
電話越しに微笑が聞こえる。
『最悪、身内ぐらいは守れる程度にはやるから安心しろ』
また後で、我聞はそう言い残し電話を切った。
「なるほど、切羽詰まっているんだな」
華乃さんが近くまでバイクを移動してきた。どうやら少なからず話を理解しているみたいだ。
「大変ですよー華乃さん。おじいが止められないって言うほどですから。SNSでテロ、なんて下手な小説でも言いませんし」
「SNSだからな・・・おそらく世界規模だろう。気付けたとしても一個人でどうこう出来る問題ではないからな」
華乃の言い分は的を得ている。佐恵もそのことには既に気が付いている。
「でも、変じゃないですか?」
「・・・?何がだ」
「SNSを使ったテロが日本で起きたとして、それが一体どこの国の利益になるんですかね?」
「国・・・・か・・・・」
「・・・・あれ?」
そこで二人は気が付く。これは本当に日本に対して行われたサイバー攻撃なのか。SNSは世界規模である。それは周知の事実であり、それが無くなるだけで世界のネットワークの大部分がマヒするだろう。しかし、それをして利益が出る国はどこだろうか。世界のハッカー集団がいたずらに作った、という線もなきにしもあらずだが、最も被害を被るのが開発者自身だったら意味がない。
「あ・・・・・そういうことか・・・」
華乃が何かに気が付いた。
「どうしました?」
「佐恵、考えてみろ。これは結構簡単な問題だ」
「どういうことですか?」
華乃はヘルメットを被り、佐恵にヘルメットを渡す。
「詳細は佐恵の家に着いたら説明しよう。これは何か紙があった方が分かりやすい」
「分かりました。でも簡単にですが説明してくれませんか?一言でもいいんで」
一言で、と聞いて華乃はうーんと短く考える。そして頷いて今回の問題を一言で言い切った。
「インプレゾンビを本物のゾンビにする、これが答えだ」
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