無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

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13話

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 日が沈んだころインタビューを終え、メンバー全員で寮へと戻ってきた。
 明日は早朝、というか深夜から撮影があるので少しでも寝るようにと各自自室に戻されたが、明樹は眠れないまま天井を見つめていた。

(あ、優成に料理のこと連絡しておくか)

 収録では腹いせのように優成を巻き込んだとはいえ、明樹が優成との気まずさを少しでも解消したいのは本当の気持ちだ。だから、ふたりでの料理はうやむやにせずにきちんとこなしたかった。

『約束の料理、今度の水曜でいい?午後空いてる』

 LINEを飛ばしてスマホを伏せようとしたら、『了解です』と吹き出しのついたスタンプが返ってきた。

(優成、起きてんじゃん)

 自分と同じく眠れないのであれば、話し相手になってもらえないかと思い立って、明樹はベッドから出てドアを開けた。小さくノックして反応がなければ戻ろうと決めて廊下を進む。進み始めてすぐ、誰かの声が聞こえた。明樹が耳を澄ますと、どうやらリビングから声がしているようだ。
 優成かも、と明樹は真っ先に思った。それに声が聞こえるということは、最低ふたり起きているということだ。眠れない仲間がいることを嬉しく思いながら、混ぜてもらおうと明樹はリビングのドアに近づいた。

「逃げてないでさぁ、何か仕掛けるとか男気見せたら」

 明樹がリビングに入ると、優成の背中と優成の頭を撫で回しながら何か説き伏せている仁がいた。様子を伺うように首を伸ばすと、優成の肩越しに明樹と仁の視線がかち合う。

「仕掛けるってつまり告──」
「あー!明樹!!」

 明樹を目視した瞬間仁が大声を上げて、何か言いかけた優成も肩をびくつかせて振り向いた。

「どうした、もしかして眠れない?」

 声のボリュームを通常に戻した仁が笑いかけてきて、口元に手を当てた優成は明樹から視線を外す。

「あ、うん。声聞こえたから、誰か起きてるのかと思って」
「俺達も眠れなくてさ~。そうだ、一緒に喋って時間潰そうよ。な、優成」

 笑顔で肩を叩かれた優成は笑顔を返すことなく、

「……いや、俺はそろそろ寝ます」

 そう言って仁の手からするりと抜けて、明樹の横を素通りしようとした。

「水曜、15時にキッチン集合な」
「わかりました。おやすみなさい」

 腕を掴んだが優成が立ち止まることはなく、明樹も引き止めずに手を離した。

「明樹は俺と喋ろ~」

 優成が出て行ったドアを見つめていると、仁が明樹の肩を抱く。

「あいつ、俺といるの嫌になったのかな」
「そ、そんなわけないって!絶対に!」

 明樹の小さな呟きを、仁はつんのめるような大袈裟な動きで否定した。

「でも今、明らかに俺が来たから出て行ったよ」
「それは……うーん」

 仁も否定できない事実を自分で言葉にしてしまって、明樹は勝手に少し傷つく。

「ここ来る前にさ、優成にLINEしたら返信来て『あ、優成起きてるんだ』と思って」

 明樹が目を伏せると、仁は腕を引いて明樹をソファに座らせた。

「つまり、優成が起きてるなら話したいなって思ってたんだけど……」
「明樹は、優成と一緒にいるの好きだよね」

 要はそういうことなのかもしれない。明樹が頷くと、仁は隣に座ってあぐらをかいた。

「ずっと一緒にいたい?」
「ずっとはさすがに言いすぎ」
「じゃ、どのくらい一緒にいたい」

(どのくらい……)

 仕事中そばにいられると嬉しくて、移動中は一緒に喋っていたくて、オフの時はお互い空いてるなら遊びたい。
 そう思って、思っていた以上に優成と一緒にいたがる自分に気付く。

「……できる限り、とか?」
「それもマシュと同じ理由だって言うつもり?」
「え?」

 明樹が目を瞬くと仁がわざとらしく肩をすくめる。

「前に優成とキスしたいのはマシュとキスしたいのと同じ理由だ~って俺に胸張って宣言してきただろ」

 そういえば、そんなことを言った覚えがある。
 あの頃と今とじゃ、優成との関係が随分拗れてしまったなと、明樹は眉を下げた。

「まぁ、確かにマシュとも一緒にいたいけど」
「俺個人の意見としては、犬と人間相手じゃ全然違うよ。キスも一緒にいたい気持ちも」

 顔を寄せた仁に言い切られて、明樹は何も言い返せなかった。違うとしたら何なのか、掴めそうで掴めない。
 明樹が眉をひそめて低く喉を鳴らしていると、仁が肩に頭を乗せてきた。

「これは、超仮定の話なんだけど」
「うん」
「優成に恋人ができたらどう思う?俺達に公表してくるくらいの、真剣な恋人な」

 今までだって、明樹の知らないところで優成に恋人がいたことはあるだろう。優成に限らず、どのメンバーも秘密裏の恋愛事情を抱えているものだ。
 しかし、メンバーに公表するとなれば、熱愛報道がすっぱ抜かれた際に否定もしないし別れもしないという決意の表明と言える。迷惑をかけることがあっても許してほしいという気持ちの現れだ。お相手は何があっても大切にしたい人物ということになる。
 優成がいつかそんな相手を紹介してくると想像したら、胃を掴まれる感覚がした。

 (優成が、誰かに奪われてしまうなんて、嫌だ)

 刹那的に浮かんだ思いが、頭に居座る。
 優成の幸せを願うどころか、恨みがましい気持ちが勝る自分に、明樹は戸惑った。

「……そんな大切な人、できたら……寂しいよ。いや、ワガママだってわかってるけど」

 居座る思いをそのまま言うのは憚られて、明樹はどうにか噛み砕いた表現をした。我ながら自己中だなと反省しながら隣を見ると、仁はなぜか笑みを浮かべていた。

「まーそこまでわかったなら、現状としては及第点か」
「なにが?」
「偉い偉い」

 仁は明樹の疑問に答えずに頭を撫で回してくる。

「優成は、本当は明樹と仲良くしたいと思ってるからさ。一緒に料理すれば、また楽しく過ごせるって」
「……うん」

 明樹は親友のぬくもりを感じながら、仁に頭をくっつけた。
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