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12話
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洒落たスタジオに、英会話が交錯する。
ネイティブと同じスピードで応答する翔真というのは見慣れた光景であるが、改めてその実力に明樹は感心していた。
(勉強しても用意したことしか喋れないんだよなぁ)
海外でORCAの曲が時間差でバズり、最近こうして海外から仕事が来ることが増えている。日本人気しか意識していなかった弱小事務所は、天に恵まれたこのチャンスにしがみついた。どうにか海外人気を獲得しようと躍起になり、大卒秀才の翔真以外のメンバーも英語を話せるようになれと焚きつけているが、残念ながらあまり効果は出ていない。
明樹が記憶してきたコメント用の英文を頭の中で復唱していると、ふと視線を感じた。感じたまま隣を見れば、パチッと音がしそうなくらい優成と目が合って、すぐに顔をそらされる。気まずそうな横顔に明樹もなんだか気まずくなって、目線を落とした。
(最近ずっとこうだな)
優成との間に何となく距離ができていて、気まずい。
原因はひとつ、明樹の頭に浮かんでいた。数週間前に宿泊先のホテルで優成とキスをした件だ。キスとはいえ、明樹にとってそれはじゃれあいや戯れの延長にあって、スキンシップに分類されるものだったのだが、ホテルのベッドの上でその関係が瓦解した。ただのキスだったものが、舌の舐め合いに変貌するという事故が起きたのだ。
あの夜の異様な空気は、いまだに鮮明に甦ってくる。
舌のざらつきと腹に触れる指先。
生々しい感覚が反芻してきて、明樹は咳払いをした。
「Mr.Aki」
唐突に名前を呼ばれる。咳払いで標的にされたようで、明樹は床を見るのをやめて青い目の司会者に薄い笑顔を向けた。英語は日本語より簡単だとよく言うが、母国語を難しいと感じたことがないので比較などできない。
「What do you want to do on your next holiday?」
「あー……」
「次の休みにしたいこと」
通訳より先に翔真が明樹に囁く。
(したいこと、したいこと……)
悩む最中に司会者と目が合い、急かすように眉を上げられた明樹は、咄嗟に視線をメンバーにスライドさせる。ここで再び優成と目が合った。そして再びそらされる。あからさまな態度に明樹はちょっと神経を逆撫でられて、気づけば優成の肩に手を置いていた。
「休みがあったら、優成と一緒に料理をしたいです」
「えっ?」
真顔で言うと、優成は振り返って目を見張った。仕返しのつもりで明樹は見返してやらなかった。
「おーいいね~!やるでしょ優成」
「いや、あの」
「ふたりが作った料理の写真をSNSにアップしたら」
優成の戸惑いは冬弥と翔真が明樹の援護射撃をしたことによって消され、通訳を経た司会者が拍手をして盛り上げたことで、既成事実が完成した。
「僕と優成の料理を楽しみにしててくださいね、皆さん」
明樹は優成の肩を抱き寄せて、言ったもん勝ちの笑みをカメラに向ける。優成もプロなのですぐにいつもの可愛らしい笑顔を浮かべたが、明樹の腕の中の身体は強張っていた。
ネイティブと同じスピードで応答する翔真というのは見慣れた光景であるが、改めてその実力に明樹は感心していた。
(勉強しても用意したことしか喋れないんだよなぁ)
海外でORCAの曲が時間差でバズり、最近こうして海外から仕事が来ることが増えている。日本人気しか意識していなかった弱小事務所は、天に恵まれたこのチャンスにしがみついた。どうにか海外人気を獲得しようと躍起になり、大卒秀才の翔真以外のメンバーも英語を話せるようになれと焚きつけているが、残念ながらあまり効果は出ていない。
明樹が記憶してきたコメント用の英文を頭の中で復唱していると、ふと視線を感じた。感じたまま隣を見れば、パチッと音がしそうなくらい優成と目が合って、すぐに顔をそらされる。気まずそうな横顔に明樹もなんだか気まずくなって、目線を落とした。
(最近ずっとこうだな)
優成との間に何となく距離ができていて、気まずい。
原因はひとつ、明樹の頭に浮かんでいた。数週間前に宿泊先のホテルで優成とキスをした件だ。キスとはいえ、明樹にとってそれはじゃれあいや戯れの延長にあって、スキンシップに分類されるものだったのだが、ホテルのベッドの上でその関係が瓦解した。ただのキスだったものが、舌の舐め合いに変貌するという事故が起きたのだ。
あの夜の異様な空気は、いまだに鮮明に甦ってくる。
舌のざらつきと腹に触れる指先。
生々しい感覚が反芻してきて、明樹は咳払いをした。
「Mr.Aki」
唐突に名前を呼ばれる。咳払いで標的にされたようで、明樹は床を見るのをやめて青い目の司会者に薄い笑顔を向けた。英語は日本語より簡単だとよく言うが、母国語を難しいと感じたことがないので比較などできない。
「What do you want to do on your next holiday?」
「あー……」
「次の休みにしたいこと」
通訳より先に翔真が明樹に囁く。
(したいこと、したいこと……)
悩む最中に司会者と目が合い、急かすように眉を上げられた明樹は、咄嗟に視線をメンバーにスライドさせる。ここで再び優成と目が合った。そして再びそらされる。あからさまな態度に明樹はちょっと神経を逆撫でられて、気づけば優成の肩に手を置いていた。
「休みがあったら、優成と一緒に料理をしたいです」
「えっ?」
真顔で言うと、優成は振り返って目を見張った。仕返しのつもりで明樹は見返してやらなかった。
「おーいいね~!やるでしょ優成」
「いや、あの」
「ふたりが作った料理の写真をSNSにアップしたら」
優成の戸惑いは冬弥と翔真が明樹の援護射撃をしたことによって消され、通訳を経た司会者が拍手をして盛り上げたことで、既成事実が完成した。
「僕と優成の料理を楽しみにしててくださいね、皆さん」
明樹は優成の肩を抱き寄せて、言ったもん勝ちの笑みをカメラに向ける。優成もプロなのですぐにいつもの可愛らしい笑顔を浮かべたが、明樹の腕の中の身体は強張っていた。
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