無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

文字の大きさ
16 / 25

16話

しおりを挟む
「優成!はい、チーズ!」

 声に振り返るとインカメでスマホを構えた冬弥がいて、優成はカメラに入るよう顔を傾けた。指ハートを作る冬弥とウィンクを飛ばす優成が画面に収まる。

「お、いい写真撮れたんじゃない?背景も伝わるし」
「ほんとだ。使ってほしいですね」

 今日の仕事はグッズ用の写真撮影だった。
 ドラマや映画でお馴染みの有名な洋館を貸し切って、1日中衣装を変え場所を変え撮影を行う。個人ブロマイド、集合ポスター、広報用写真を撮り終え、今は特典のリーフレットに載せる自撮りを各人スマホで撮影し始めたところだった。

「ちょっと外でも撮ってくるわ~」
「俺はあと何枚かここで撮影します」

 じゃまた後で、と冬弥が手を振り出ていって、洋館の応接間にいるのは優成だけになる。
 改めて高級感のある建物を歩きながら見渡して、自撮り関係無しに数枚写真に収めた。自前の一眼レフも持ってくればよかったとスマホの画面に見入っていると、

「わっ!」
「っ!?」

 肌が触れそうな距離でピンク髪のイケメンが顔を覗き込んできて、優成の手からスマホが滑り落ちた。

「ちょっと!びっくりさせないでくださいよ、明樹さん……!」
「あっはは!入ってきても全然気付かないんだもん」

 明樹が手を叩いて笑って、落ちたスマホを取る。しかしそれを優成に返すことはなく、そのままインカメを起動して構えた。

「はい、撮るよ!」

 職業病の優成が反射的に顔を作ると、愛嬌抜群の顔をした明樹とのツーショットが出来上がる。

「あとで俺にも送って」

 言いながらスマホを返した明樹は少し屈んで、優成の顔を下から覗き見た。

「わかりました」

 優成は何でもない風に返して、スマホを見た。明樹はそんな優成を見続け、優成は素知らぬふりを続けた。カメラのフィルターを変えるというどうでもいい作業を始めてまで、明樹をあえて見ないようにする。
 しかし、明樹は優成が目を合わせない意味を察する男ではなかった。

「優成。キス」
「お手、みたいなノリで言わないでくれます?」

 直球の言葉に優成がつい目を合わせると、明樹はその隙を逃さず唇を合わせた。避ける暇もない、というより優成に避ける意思が足りなかったので、ふたりは美しいキスシーンのシルエットを生み出した。

(あぁ、またしてしまった)

 後悔とも違う複雑な感情が胸に広がる間に、ちゅ、と音を立てて唇が離れていく。明樹が優成の顎を撫でて、いたずらっ子のように歯を見せた。優成の心境と反比例する軽やかさで、明樹はスキップしながらドアに近づく。

「外でもツーショット撮ろう。ほら早く!」

 上機嫌な明樹が応接間を出ていって、室内が静寂に包まれた。
 遠ざかる足音を聞いてから、優成はその場にしゃがみこんだ。

「っあぁ~……!」

 膝を抱えてくぐもった唸りを吐く。

(付き合ってもいないのに、なんでキスをしてるんだ俺たちは)

 当事者の優成にわからないことは、他の誰にもわからない。優成に今わかることは、明樹とキスすると甘くて苦い感情が溢れて、キスしたいけどしたくないと思うこと。
 そして、ただただ明樹のことが、

「…………好き」

 この2つだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛

虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」 高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。 友だちゼロのすみっこぼっちだ。 どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。 そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。 「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」 「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」 「俺、頑張りました! 褒めてください!」 笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。 最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。 「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。 ――椿は、太陽みたいなやつだ。 お日さま後輩×すみっこぼっち先輩 褒め合いながら、恋をしていくお話です。

処理中です...