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15話
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まだ吐ききれていなかった息が詰まった。
明樹には優成の声がすっかり聞こえていたが、聞こえてきた内容は聞き返さずにはいられないものだった。
「明樹さんのことが、好きだって言ったらどう思いますか」
何かを憂うような声が、キッチンに流れる。
「好きって……付き合いたいって意味で?」
「……そう」
これは告白なのだろうか?それとも仮定の話として受けとるべきなのだろうか?
二十数年の人生で既に『告白される』という経験値がカンストしている明樹も、優成を前にしてはすぐに正解を出せなかった。
(優成が、俺を好きだとしたら)
1度考え始めたら心臓が波立ってうるさくて、いつも以上に頭が回らない。
「優成が俺のこと、好きって言うなら……」
自分が何を言うのかわからないまま、明樹は口を開いていた。揺れる優成の瞳に、すべてが吸い込まれそうになる。
「俺は、たぶん──」
「待ったストップ!やっぱなにも言わないでください」
勢いよく伸びてきた手が明樹の口を覆う。その手がちょっと震えているように感じて、明樹は小刻みに頷いた。明樹が大人しくしているのを確認してから、優成の手はゆっくり離れていく。
「聞いておいてすみません」
「いや、いいけど……。えっと、好きだとしたらの回答以外なら、喋っていいの」
「それは……どうぞ」
一瞬逡巡を見せてから、優成が目で促した。
「俺、優成に恋人できたら……嫌だよ。寂しい」
いまだに頭に居座っている思いをどうしても伝えたくなって、明樹は優成の耳を撫でる。優成は顔の筋力を失ったような唖然とした表情で明樹を見てから一気に眉間に皺を寄せた。
「はぁ!?なんですかそれ!」
「えっ」
引かれるかもという懸念はあったが、まさか憤慨されるとは思わなくて、明樹は固まる。
「いや、ホントに寂しいから」
「こ、この……天然タラシ!キープ製造機!なんて悪い男なんだ……!」
好きって言ったらどうする?とかいう駆け引きを仕掛けてきた相手に、ここまで睨まれたのは明樹が人類初だろうというくらいに睨まれる。さすがに明樹もムッときて、肩をいからせた。
「なんだよ、俺がいつキープを製造したんだよ。だいたい、お前が妙なこと聞いてくるからこっちだって色々考えて……!」
「その妙なこと聞いてきた男に『恋人できたら嫌』って言う!?天然は免罪符じゃないですからね!クソあざとい仁さんみたいなやつがやるのと全然違うんだから──」
──バタンッ!
「おいお前ら!なに言い合ってんだ!」
突如リビングのドアが怒声と共に開き、跳ぶ勢いで仁がキッチンに入ってくる。その迫力に、お互いを指差して言い合っていた明樹と優成は同時に口をつぐんだ。
「その前に優成。今俺の悪口言いかけてたな」
「違います誉め言葉です」
新兵のごとく背筋を伸ばす優成を見て、仁は小さくため息を吐く。
「で、どういう状況」
「この明樹さんが天然タラシなのが悪くて──」
「違う、そもそも優成が俺に聞いてきた内容が原因で──」
「あーはいはい、やめ!」
切ないくらいに気まずさを漂わせていたと思えば、子どものように言い合いを始めるふたりの温度差に、仁は頭を抱えた。
「こういう時は大抵どっちも悪いんだから、まずお互い謝って。大人でしょ」
途中まで「ふん」という顔をしていたふたりも『大人でしょ』が効いたのか、見合って少し恥ずかしそうに指差していた手を下ろす。
「……ごめん」
「……ごめんなさい」
「ね、一旦仲直り。ホットケーキ作り終わってんなら、落ち着いて話を──」
広いキッチンを見渡した仁はコンロを見た瞬間表情をなくした。
「フ、フライパン燃えてる!」
「えっ?」
仁が大きく指差した先で、フライパンから煙が上がっていた。ホットケーキに生地を入れてから、もう何分経ったかわからない。
「うあー!み、水!水用意する!」
「ちょ、落ち着いてください!まずは火止めますから!」
慌てる明樹を抱き上げて止める優成と、優成に心配そうにくっつく明樹は、気まずさなどなかったように自然だった。それを確認して、仁は呆れながらも表情を緩める。
「仁さん、笑い事じゃないです!ホットケーキ死んでます!」
「あの可愛かったクリーム色がこんな無惨に……!」
この後、見たこともないほど真っ黒のホットケーキはイケメンふたりに丁重に捨てられた。そして、ボヤ騒ぎを起こした明樹と優成は高嶺に怒られ、高性能すぎる換気扇のせいで気付けなかったと言い訳したことでさらに怒られた。
最終的にSNSには『明樹と優成の共同作業』という文と共に炭のようなホットケーキの写真がアップされ、ファンたちに困惑をもたらしたのだった。
明樹には優成の声がすっかり聞こえていたが、聞こえてきた内容は聞き返さずにはいられないものだった。
「明樹さんのことが、好きだって言ったらどう思いますか」
何かを憂うような声が、キッチンに流れる。
「好きって……付き合いたいって意味で?」
「……そう」
これは告白なのだろうか?それとも仮定の話として受けとるべきなのだろうか?
二十数年の人生で既に『告白される』という経験値がカンストしている明樹も、優成を前にしてはすぐに正解を出せなかった。
(優成が、俺を好きだとしたら)
1度考え始めたら心臓が波立ってうるさくて、いつも以上に頭が回らない。
「優成が俺のこと、好きって言うなら……」
自分が何を言うのかわからないまま、明樹は口を開いていた。揺れる優成の瞳に、すべてが吸い込まれそうになる。
「俺は、たぶん──」
「待ったストップ!やっぱなにも言わないでください」
勢いよく伸びてきた手が明樹の口を覆う。その手がちょっと震えているように感じて、明樹は小刻みに頷いた。明樹が大人しくしているのを確認してから、優成の手はゆっくり離れていく。
「聞いておいてすみません」
「いや、いいけど……。えっと、好きだとしたらの回答以外なら、喋っていいの」
「それは……どうぞ」
一瞬逡巡を見せてから、優成が目で促した。
「俺、優成に恋人できたら……嫌だよ。寂しい」
いまだに頭に居座っている思いをどうしても伝えたくなって、明樹は優成の耳を撫でる。優成は顔の筋力を失ったような唖然とした表情で明樹を見てから一気に眉間に皺を寄せた。
「はぁ!?なんですかそれ!」
「えっ」
引かれるかもという懸念はあったが、まさか憤慨されるとは思わなくて、明樹は固まる。
「いや、ホントに寂しいから」
「こ、この……天然タラシ!キープ製造機!なんて悪い男なんだ……!」
好きって言ったらどうする?とかいう駆け引きを仕掛けてきた相手に、ここまで睨まれたのは明樹が人類初だろうというくらいに睨まれる。さすがに明樹もムッときて、肩をいからせた。
「なんだよ、俺がいつキープを製造したんだよ。だいたい、お前が妙なこと聞いてくるからこっちだって色々考えて……!」
「その妙なこと聞いてきた男に『恋人できたら嫌』って言う!?天然は免罪符じゃないですからね!クソあざとい仁さんみたいなやつがやるのと全然違うんだから──」
──バタンッ!
「おいお前ら!なに言い合ってんだ!」
突如リビングのドアが怒声と共に開き、跳ぶ勢いで仁がキッチンに入ってくる。その迫力に、お互いを指差して言い合っていた明樹と優成は同時に口をつぐんだ。
「その前に優成。今俺の悪口言いかけてたな」
「違います誉め言葉です」
新兵のごとく背筋を伸ばす優成を見て、仁は小さくため息を吐く。
「で、どういう状況」
「この明樹さんが天然タラシなのが悪くて──」
「違う、そもそも優成が俺に聞いてきた内容が原因で──」
「あーはいはい、やめ!」
切ないくらいに気まずさを漂わせていたと思えば、子どものように言い合いを始めるふたりの温度差に、仁は頭を抱えた。
「こういう時は大抵どっちも悪いんだから、まずお互い謝って。大人でしょ」
途中まで「ふん」という顔をしていたふたりも『大人でしょ』が効いたのか、見合って少し恥ずかしそうに指差していた手を下ろす。
「……ごめん」
「……ごめんなさい」
「ね、一旦仲直り。ホットケーキ作り終わってんなら、落ち着いて話を──」
広いキッチンを見渡した仁はコンロを見た瞬間表情をなくした。
「フ、フライパン燃えてる!」
「えっ?」
仁が大きく指差した先で、フライパンから煙が上がっていた。ホットケーキに生地を入れてから、もう何分経ったかわからない。
「うあー!み、水!水用意する!」
「ちょ、落ち着いてください!まずは火止めますから!」
慌てる明樹を抱き上げて止める優成と、優成に心配そうにくっつく明樹は、気まずさなどなかったように自然だった。それを確認して、仁は呆れながらも表情を緩める。
「仁さん、笑い事じゃないです!ホットケーキ死んでます!」
「あの可愛かったクリーム色がこんな無惨に……!」
この後、見たこともないほど真っ黒のホットケーキはイケメンふたりに丁重に捨てられた。そして、ボヤ騒ぎを起こした明樹と優成は高嶺に怒られ、高性能すぎる換気扇のせいで気付けなかったと言い訳したことでさらに怒られた。
最終的にSNSには『明樹と優成の共同作業』という文と共に炭のようなホットケーキの写真がアップされ、ファンたちに困惑をもたらしたのだった。
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