15 / 25
15話
しおりを挟む
まだ吐ききれていなかった息が詰まった。
明樹には優成の声がすっかり聞こえていたが、聞こえてきた内容は聞き返さずにはいられないものだった。
「明樹さんのことが、好きだって言ったらどう思いますか」
何かを憂うような声が、キッチンに流れる。
「好きって……付き合いたいって意味で?」
「……そう」
これは告白なのだろうか?それとも仮定の話として受けとるべきなのだろうか?
二十数年の人生で既に『告白される』という経験値がカンストしている明樹も、優成を前にしてはすぐに正解を出せなかった。
(優成が、俺を好きだとしたら)
1度考え始めたら心臓が波立ってうるさくて、いつも以上に頭が回らない。
「優成が俺のこと、好きって言うなら……」
自分が何を言うのかわからないまま、明樹は口を開いていた。揺れる優成の瞳に、すべてが吸い込まれそうになる。
「俺は、たぶん──」
「待ったストップ!やっぱなにも言わないでください」
勢いよく伸びてきた手が明樹の口を覆う。その手がちょっと震えているように感じて、明樹は小刻みに頷いた。明樹が大人しくしているのを確認してから、優成の手はゆっくり離れていく。
「聞いておいてすみません」
「いや、いいけど……。えっと、好きだとしたらの回答以外なら、喋っていいの」
「それは……どうぞ」
一瞬逡巡を見せてから、優成が目で促した。
「俺、優成に恋人できたら……嫌だよ。寂しい」
いまだに頭に居座っている思いをどうしても伝えたくなって、明樹は優成の耳を撫でる。優成は顔の筋力を失ったような唖然とした表情で明樹を見てから一気に眉間に皺を寄せた。
「はぁ!?なんですかそれ!」
「えっ」
引かれるかもという懸念はあったが、まさか憤慨されるとは思わなくて、明樹は固まる。
「いや、ホントに寂しいから」
「こ、この……天然タラシ!キープ製造機!なんて悪い男なんだ……!」
好きって言ったらどうする?とかいう駆け引きを仕掛けてきた相手に、ここまで睨まれたのは明樹が人類初だろうというくらいに睨まれる。さすがに明樹もムッときて、肩をいからせた。
「なんだよ、俺がいつキープを製造したんだよ。だいたい、お前が妙なこと聞いてくるからこっちだって色々考えて……!」
「その妙なこと聞いてきた男に『恋人できたら嫌』って言う!?天然は免罪符じゃないですからね!クソあざとい仁さんみたいなやつがやるのと全然違うんだから──」
──バタンッ!
「おいお前ら!なに言い合ってんだ!」
突如リビングのドアが怒声と共に開き、跳ぶ勢いで仁がキッチンに入ってくる。その迫力に、お互いを指差して言い合っていた明樹と優成は同時に口をつぐんだ。
「その前に優成。今俺の悪口言いかけてたな」
「違います誉め言葉です」
新兵のごとく背筋を伸ばす優成を見て、仁は小さくため息を吐く。
「で、どういう状況」
「この明樹さんが天然タラシなのが悪くて──」
「違う、そもそも優成が俺に聞いてきた内容が原因で──」
「あーはいはい、やめ!」
切ないくらいに気まずさを漂わせていたと思えば、子どものように言い合いを始めるふたりの温度差に、仁は頭を抱えた。
「こういう時は大抵どっちも悪いんだから、まずお互い謝って。大人でしょ」
途中まで「ふん」という顔をしていたふたりも『大人でしょ』が効いたのか、見合って少し恥ずかしそうに指差していた手を下ろす。
「……ごめん」
「……ごめんなさい」
「ね、一旦仲直り。ホットケーキ作り終わってんなら、落ち着いて話を──」
広いキッチンを見渡した仁はコンロを見た瞬間表情をなくした。
「フ、フライパン燃えてる!」
「えっ?」
仁が大きく指差した先で、フライパンから煙が上がっていた。ホットケーキに生地を入れてから、もう何分経ったかわからない。
「うあー!み、水!水用意する!」
「ちょ、落ち着いてください!まずは火止めますから!」
慌てる明樹を抱き上げて止める優成と、優成に心配そうにくっつく明樹は、気まずさなどなかったように自然だった。それを確認して、仁は呆れながらも表情を緩める。
「仁さん、笑い事じゃないです!ホットケーキ死んでます!」
「あの可愛かったクリーム色がこんな無惨に……!」
この後、見たこともないほど真っ黒のホットケーキはイケメンふたりに丁重に捨てられた。そして、ボヤ騒ぎを起こした明樹と優成は高嶺に怒られ、高性能すぎる換気扇のせいで気付けなかったと言い訳したことでさらに怒られた。
最終的にSNSには『明樹と優成の共同作業』という文と共に炭のようなホットケーキの写真がアップされ、ファンたちに困惑をもたらしたのだった。
明樹には優成の声がすっかり聞こえていたが、聞こえてきた内容は聞き返さずにはいられないものだった。
「明樹さんのことが、好きだって言ったらどう思いますか」
何かを憂うような声が、キッチンに流れる。
「好きって……付き合いたいって意味で?」
「……そう」
これは告白なのだろうか?それとも仮定の話として受けとるべきなのだろうか?
二十数年の人生で既に『告白される』という経験値がカンストしている明樹も、優成を前にしてはすぐに正解を出せなかった。
(優成が、俺を好きだとしたら)
1度考え始めたら心臓が波立ってうるさくて、いつも以上に頭が回らない。
「優成が俺のこと、好きって言うなら……」
自分が何を言うのかわからないまま、明樹は口を開いていた。揺れる優成の瞳に、すべてが吸い込まれそうになる。
「俺は、たぶん──」
「待ったストップ!やっぱなにも言わないでください」
勢いよく伸びてきた手が明樹の口を覆う。その手がちょっと震えているように感じて、明樹は小刻みに頷いた。明樹が大人しくしているのを確認してから、優成の手はゆっくり離れていく。
「聞いておいてすみません」
「いや、いいけど……。えっと、好きだとしたらの回答以外なら、喋っていいの」
「それは……どうぞ」
一瞬逡巡を見せてから、優成が目で促した。
「俺、優成に恋人できたら……嫌だよ。寂しい」
いまだに頭に居座っている思いをどうしても伝えたくなって、明樹は優成の耳を撫でる。優成は顔の筋力を失ったような唖然とした表情で明樹を見てから一気に眉間に皺を寄せた。
「はぁ!?なんですかそれ!」
「えっ」
引かれるかもという懸念はあったが、まさか憤慨されるとは思わなくて、明樹は固まる。
「いや、ホントに寂しいから」
「こ、この……天然タラシ!キープ製造機!なんて悪い男なんだ……!」
好きって言ったらどうする?とかいう駆け引きを仕掛けてきた相手に、ここまで睨まれたのは明樹が人類初だろうというくらいに睨まれる。さすがに明樹もムッときて、肩をいからせた。
「なんだよ、俺がいつキープを製造したんだよ。だいたい、お前が妙なこと聞いてくるからこっちだって色々考えて……!」
「その妙なこと聞いてきた男に『恋人できたら嫌』って言う!?天然は免罪符じゃないですからね!クソあざとい仁さんみたいなやつがやるのと全然違うんだから──」
──バタンッ!
「おいお前ら!なに言い合ってんだ!」
突如リビングのドアが怒声と共に開き、跳ぶ勢いで仁がキッチンに入ってくる。その迫力に、お互いを指差して言い合っていた明樹と優成は同時に口をつぐんだ。
「その前に優成。今俺の悪口言いかけてたな」
「違います誉め言葉です」
新兵のごとく背筋を伸ばす優成を見て、仁は小さくため息を吐く。
「で、どういう状況」
「この明樹さんが天然タラシなのが悪くて──」
「違う、そもそも優成が俺に聞いてきた内容が原因で──」
「あーはいはい、やめ!」
切ないくらいに気まずさを漂わせていたと思えば、子どものように言い合いを始めるふたりの温度差に、仁は頭を抱えた。
「こういう時は大抵どっちも悪いんだから、まずお互い謝って。大人でしょ」
途中まで「ふん」という顔をしていたふたりも『大人でしょ』が効いたのか、見合って少し恥ずかしそうに指差していた手を下ろす。
「……ごめん」
「……ごめんなさい」
「ね、一旦仲直り。ホットケーキ作り終わってんなら、落ち着いて話を──」
広いキッチンを見渡した仁はコンロを見た瞬間表情をなくした。
「フ、フライパン燃えてる!」
「えっ?」
仁が大きく指差した先で、フライパンから煙が上がっていた。ホットケーキに生地を入れてから、もう何分経ったかわからない。
「うあー!み、水!水用意する!」
「ちょ、落ち着いてください!まずは火止めますから!」
慌てる明樹を抱き上げて止める優成と、優成に心配そうにくっつく明樹は、気まずさなどなかったように自然だった。それを確認して、仁は呆れながらも表情を緩める。
「仁さん、笑い事じゃないです!ホットケーキ死んでます!」
「あの可愛かったクリーム色がこんな無惨に……!」
この後、見たこともないほど真っ黒のホットケーキはイケメンふたりに丁重に捨てられた。そして、ボヤ騒ぎを起こした明樹と優成は高嶺に怒られ、高性能すぎる換気扇のせいで気付けなかったと言い訳したことでさらに怒られた。
最終的にSNSには『明樹と優成の共同作業』という文と共に炭のようなホットケーキの写真がアップされ、ファンたちに困惑をもたらしたのだった。
47
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛
虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」
高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。
友だちゼロのすみっこぼっちだ。
どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。
そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。
「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」
「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」
「俺、頑張りました! 褒めてください!」
笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。
最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。
「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。
――椿は、太陽みたいなやつだ。
お日さま後輩×すみっこぼっち先輩
褒め合いながら、恋をしていくお話です。
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる