インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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 何かの気配がする。初瀬はゆっくりと目を開けた。視線の先には見慣れた天井がある。
 去年買ったこのマンションはそれなりの都内に建ち、初瀬と同世代の一般人には到底買えない値段だった。兼城に「若頭になったんだ。箔をつけるためにいいところに住め」と迫られ、どうせずっと一人暮らしだから1LDKでいいと言ったのに、大は小を兼ねるとかいうごり押しで3LDKを買う羽目になっていた。初瀬は無駄な物を持たない主義なので案の定部屋を持て余し、2部屋はがらんどうのままだ。まぁ、頭金を兼城が出してくれたので今となっては別にいいのだが。

(そもそも俺が死ねばローンもチャラだしな)

 そんなあれこれを思い返しながら、初瀬は上体を起こす。毛布が不自然に盛り上がっているのを見て、一気にめくった。枕の下にある拳銃に片手を伸ばすのと、初瀬の股間に手を置く前髪の長いガキと目が合うのが同時だった。

「あ、おはよ。朝のサービスを──ってえ!」

 初瀬は股座にいる皆木をベッドから蹴り落とした。体重の軽い皆木は簡単に落ち、床を転がって壁に頭をぶつけた。

「こんの暴力ヤクザ!いきなり蹴るこたないだろ!起こしてやろうと思ったのに──」
「俺のナニを起こそうとしてんだよ、ふざけんな。昨日言ったこともう忘れたのか」

 拳銃を持ったまま近づくと、ギャーギャー文句を言っていた皆木は大人しくホールドアップして正座を作る。

「……セーセッタイ禁止、でしたっけ?朝起こすのもダメなんすか。朝勃ち抜くだけなのに」
「それがお前にとっての目覚ましなら禁止だ、バカ。あと勝手に俺の部屋入ってくるな」

 昨晩はリビングのソファで寝たはずの皆木を拳銃で殴って、カーテンを開ける。地上25階に朝日が流れ込み、初瀬は目を細めた。時計を見れば7時だった。

「おい。部屋掃除しろ。リビングに掃除機がある。そのあと朝飯作れ」
「オレ料理全然やったことないからクソマズイと思うんだけど平気?」
「今のお前には期待してない。掃除洗濯炊事、今日全部叩き込む。教える以上、できないとは言わせねえからな」
「スイジってなに」
「あとで広辞苑買ってやるから知らない言葉は調べろ。それから暇な時は本読んで語彙増やせ。いいな」
「コージエン?野球やるとこ?ゴイって──」

 ごちゃごちゃ言ってる皆木を自室から追い出して、初瀬は静かになった部屋でため息を吐いた。素人の皆木にベッドにまで入られてやっと目が覚めた自分に失望していた。極道に身を置く人間としての感性が鈍ってきたのかもしれない。

(つーか俺のベッドに入ってる暇があるなら、うちから逃げ出せよ)

 皆木の考えがまったくわからない。いくらいいマンションに住めるとはいえ、ヤクザに飼われていつ殺されるかわからない生活より元の生活の方ががマシなはずなのだが。

(俺が兼城に進言するだけで、臓器売りさばかれて死ぬのにな)

 ──ドカ、バサバサ、ガチャン!

『わ~!やべえ!』
「……」

 リビングから不穏な音と焦る皆木の声が聞こえる。あいつの考えをわかろうとするのは無駄だと頭を振って、初瀬は着替えを始めた。
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