インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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舎弟頭

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 兼城組舎弟頭しゃていがしら会沢善人あいざわよしとは、初瀬が兼城組に入ったころに舎弟頭へ出世した男だった。
 舎弟頭とは組長の弟分のトップであり、まだ30代である会沢の出世は初瀬と同様異例と言えた。若頭と舎弟頭は跡目争いが発生しやすい関係性で、若頭である初瀬は組の№2でありながら、権力を持つ会沢の顔色を窺って行動しなければならない。会沢は薬物流通を担う組一番の稼ぎ頭で重宝されているため無下にはできず、しかし当たり前のように堅気も中毒に陥れる手法は初瀬には納得がいかなかった。
 要するに初瀬は会沢が苦手なのだが、なぜか会沢は初瀬を気に入っている。初瀬がマンションを購入したあと、わざわざ同じマンションの上階に引っ越してきたくらいには気に入られてしまっている。そうして時折、このようにアポなしで訪問してくるのだから、初瀬は正直うんざりしていた。

「はいこれ。お土産。昨日まで福岡出張でさ」
「ありがとうございます。お疲れ様です」

 『博多通りもん』の大きい箱を手渡されながら会沢をリビングに案内する。ひとり暮らしで友人もおらず甘いものを好きだと言った覚えもない初瀬に箱入りの菓子を寄越してくる、そういうところも苦手だった。

「ハセさん!卵いじってたらグチャグチャになっちゃったんだけど──って、誰?」

 戻ってきた初瀬に箸を持ったまま走り寄った皆木は、会沢を見て箸で指差した。その箸を掴んで下げさせながら皆木をキッチンの方に2、3歩押し戻す。

「失礼な口効くな。この人は舎弟頭の会沢さんだ。敬語を使え。卵はスクランブルエッグになっていいからそのまま焼け」
「はじめまして。会沢善人です。初瀬くんと仲良しの叔父貴おじさんだよ」
「どうも。オレはミナギトーマっす。ハセさんの子分になりました。よろしくです」

 初瀬に睨まれながら一応頭を下げた皆木は、会沢の全身を見回す。金髪に柄シャツ、金の装飾品にまみれた会沢は、黒髪に白シャツの初瀬と比べると圧倒的に柄が悪い。本能的に警戒するのも無理はなかったし、会沢は警戒しておいて正解の男だ。

「このトーマくんが例のペットか。こりゃ若いね。何歳?」
「16……くらいだと思います、たぶん」

 皆木が眉を寄せながら回答すると会沢は首元を掻いた。首筋に蛇の刺青が見え隠れする。また増えたようだ。

「自分の年わからないなんてこと、あるんだ」
「バカなんですよ。朝から俺のチンコ舐めようとするくらい、それしか能がなくて」
「お、舐めさせたの」
「未遂です。寝てたら勝手にベッドに入ってきて」
「初瀬くんのベッドに侵入できるなんて才能あるねえ。ウリやってたって聞いたけどいくら?僕も買っちゃおうかな」
「いいっすけど。でもアイザワさんちょっと怖いな~ってか、卵!やべえ!」

 皆木は卵の焼ける音を聞いて慌ててフライパンを見に行った。「躾がなってなくてすみません」と謝ってソファに促すと、会沢は着ていたジャケットを広げて裏地を初瀬に見せた。

「ここでいいの?」

 初瀬がそれを見て僅かに動揺すると、会沢の目が弓なりになる。常に浮かべている薄ら笑いではなく、本当に面白くて笑っている目だった。

「……部屋行きましょうか」

 初瀬は土産をソファ前のローテーブルに置き、寝室のドアを開けた。それを見た皆木がフライパンを片手にキッチンから出てくる。

「あ、ハセさん!卵焼けたけどまだ食わない感じ?」
「お前だけで食べていい。俺は会沢さんと話がある」
「え?いや量多いし一緒に──」

 言葉の途中で背を向けた。皆木の視線が追ってきているのがわかったが、初瀬は無視をして寝室に入った。
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