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封筒
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会沢の訪問は99%、何の用もない。突然やってきて初瀬の淹れたコーヒーを飲んで、喋りたいことを喋って帰っていく。最近食ったうまいもの、新しいドラッグ、寝た女や男の話など、友人同士じゃなきゃ楽しくないだろということを友人同士かのように話し、初瀬にも同じような話題を求める。初瀬の人生に娯楽はないので、初瀬はいつも最近の暴力の話をして終わる。
そして残る1%の訪問で、初瀬に殺すべき人間の情報を与えてくる。これがあるために、初瀬は会沢の訪問を断れない。
「今回はね、雑魚だよ。別に殺さなくていいかも」
会沢は肩をすくめて、ジャケットの裏地に隠していた封筒を初瀬に手渡す。薄い水色の長形封筒だ。この封筒をもらうのは4回目だった。三つ折りのA4紙に30~40代くらいの男の写真と名前、住所、職場、家族構成などの個人情報がまとめられている。
「そいつはレンタカー手配したんだって。報酬貰えずに逃げてるし警察には捕まらずシャバにいる。大した奴じゃないから初瀬くんがわざわざ手を汚す必要はないと思うけど、一応情報手に入ったから」
「殺しますよ。関わったなら」
初瀬はあっさりと言って、封筒をベッドサイドの引き出しに入れた。そこには以前会沢に渡された封筒が3通取っておいてある。初めて受け取ったのは何年前だっただろうか。
「捨てなよ~終わった案件は。ガサ入れあったら言い訳できないよ」
「全部終わったら燃やします。それまでに何かあっても会沢さんに迷惑はかけません」
「……まぁ、いいけどさ。雑魚やりに行ってしくじったら元も子もない。ターゲットを見極めるのも戦略だよ」
「知ってしまったら殺すしかありません。それに──」
引き出しを隠すように立ち、初瀬は会沢を見つめる。
「俺が人を殺すのが面白いから、あなたは俺に協力してるんでしょう。情報だってタダじゃない。メリットがなきゃ他人の俺にここまでしません」
「あっはっは。やだな、僕は心から初瀬くんを助けたいと思ってるのに」
白々しい言葉を並べて、会沢はまた首を掻いた。新しい蛇が赤くなり始めている。もう封筒の話を切り上げたかった初瀬は、話題を変えるために首を指差した。
「痒そうですね。最近入れたんですか、それ」
「あ~そうそう。出張中にね、仕事頑張ったから。でも適当な店で入れたから下手でさぁ。めっちゃ痒い」
「そのまま掻いて酷くなると膿が出ます。市販の痒み止めでいいので塗ったほうがいいですよ」
「お、さすが元医学部だねえ。ヤクザじゃなくて闇医者になったほうが安全に稼げて情報も手に入ったんじゃない?」
意図的に隠したいことも隠していないが話していないことも何もかも、初瀬が兼城組に入ってすぐ入手していた男が会沢だ。都合の悪い情報を大量に持っているが、何をどこまで知っているのかはわからない。ただ時折チラつかせ圧をかけてくる、嫌な男だった。
「そんな怖い顔しないで。組のやつらには言ってないって。もちろん組長にも。嫌なんでしょ?素性を知られ過ぎるのが」
「……ええ。リビングに薬ならあるので首に塗っていってください」
初瀬が帰宅を匂わせると、会沢は「はいはい」と素直に頷いた。
そして残る1%の訪問で、初瀬に殺すべき人間の情報を与えてくる。これがあるために、初瀬は会沢の訪問を断れない。
「今回はね、雑魚だよ。別に殺さなくていいかも」
会沢は肩をすくめて、ジャケットの裏地に隠していた封筒を初瀬に手渡す。薄い水色の長形封筒だ。この封筒をもらうのは4回目だった。三つ折りのA4紙に30~40代くらいの男の写真と名前、住所、職場、家族構成などの個人情報がまとめられている。
「そいつはレンタカー手配したんだって。報酬貰えずに逃げてるし警察には捕まらずシャバにいる。大した奴じゃないから初瀬くんがわざわざ手を汚す必要はないと思うけど、一応情報手に入ったから」
「殺しますよ。関わったなら」
初瀬はあっさりと言って、封筒をベッドサイドの引き出しに入れた。そこには以前会沢に渡された封筒が3通取っておいてある。初めて受け取ったのは何年前だっただろうか。
「捨てなよ~終わった案件は。ガサ入れあったら言い訳できないよ」
「全部終わったら燃やします。それまでに何かあっても会沢さんに迷惑はかけません」
「……まぁ、いいけどさ。雑魚やりに行ってしくじったら元も子もない。ターゲットを見極めるのも戦略だよ」
「知ってしまったら殺すしかありません。それに──」
引き出しを隠すように立ち、初瀬は会沢を見つめる。
「俺が人を殺すのが面白いから、あなたは俺に協力してるんでしょう。情報だってタダじゃない。メリットがなきゃ他人の俺にここまでしません」
「あっはっは。やだな、僕は心から初瀬くんを助けたいと思ってるのに」
白々しい言葉を並べて、会沢はまた首を掻いた。新しい蛇が赤くなり始めている。もう封筒の話を切り上げたかった初瀬は、話題を変えるために首を指差した。
「痒そうですね。最近入れたんですか、それ」
「あ~そうそう。出張中にね、仕事頑張ったから。でも適当な店で入れたから下手でさぁ。めっちゃ痒い」
「そのまま掻いて酷くなると膿が出ます。市販の痒み止めでいいので塗ったほうがいいですよ」
「お、さすが元医学部だねえ。ヤクザじゃなくて闇医者になったほうが安全に稼げて情報も手に入ったんじゃない?」
意図的に隠したいことも隠していないが話していないことも何もかも、初瀬が兼城組に入ってすぐ入手していた男が会沢だ。都合の悪い情報を大量に持っているが、何をどこまで知っているのかはわからない。ただ時折チラつかせ圧をかけてくる、嫌な男だった。
「そんな怖い顔しないで。組のやつらには言ってないって。もちろん組長にも。嫌なんでしょ?素性を知られ過ぎるのが」
「……ええ。リビングに薬ならあるので首に塗っていってください」
初瀬が帰宅を匂わせると、会沢は「はいはい」と素直に頷いた。
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