10 / 51
食卓
しおりを挟む
「あ、やっと出てきた」
テーブルに肘をついてぼーっとしていた皆木は、初瀬と会沢がリビングに戻るとパッと立ち上がった。2枚の皿に盛られたスクランブルエッグ──というかボロボロの卵焼きのようなものが手付かずで残っているのを見て、初瀬は塗り薬を会沢に渡しながらそばに来た皆木に目だけ向けた。
「まだ食ってないのかよ」
「せっかくだし一緒に食べましょーよ。アイザワさんも食います?」
「僕朝は食べない派なんだよね。薬ありがとう、初瀬くん。見送りいらないから、じゃね」
会沢は手を振ってリビングを出て行く。言葉の通りに受け取って初瀬はその場で頭を下げ、突っ立っている皆木の頭も下げさせた。ドアが閉まる音を聞いて、短く息を吐く。
「よし、じゃ飯にしましょう。腹減った~」
皆木は卵が楽しみなのか足早に食卓へ戻っていく。会沢との会話と皆木との会話に温度差がありすぎて調子が狂うが、とりあえず初瀬も席に着いた。
「味ついてないから適当にケチャップとマヨネーズ出しときました」
グッと親指を出したかと思えば立膝で肘をついて食べ始めようとするので、初瀬は皆木の椅子を蹴った。誰のマナーがいいのか悪いのかわからない状況で、初瀬は「膝降ろせ。肘つくな」と注意する。怒られた皆木は「さーせん」と言いながら先ほどよりマシな体勢でスクランブルエッグをすくったスプーンを口に突っ込んだ。
そのままがっついて食べるんだろうと思ったら、一口飲み込んだ皆木は動きを止めて皿を見つめる。
「どうした。そんなに不味いのか」
「いや。オレ、こうやって誰かと家で飯食うの初めてかもって思って」
「親と食ったりしただろ、ガキのころ」
お前は今もガキだけど、と頭の中で続ける。
初瀬がパサパサの卵をケチャップで湿らせて口に運んでいる間、皆木はポカンとした顔で初瀬を見ていた。
「ハセさん、ヤクザなのに家族と飯とか食ってたんだ。いいなぁ」
「……昔の話だよ」
つまり皆木は親と飯もまともに食ったことがないということだ。深掘っても気持ちのいい話は出てこないと思い、流した。
「そういやなんか有名な大学も行ってたんすよね?すげー。でもなんで──」
「俺のこと知ってどうする気だ。弱みでも見つけてえのかよ」
大学という単語で会沢に会ったストレスがぶり返して、語気が強くなる。萎縮するかと思ったが、皆木はしばし瞬きをしてからハッとした顔で手を打った。
「あ~そっか、まずオレのこと話してからか。そしたらハセさんのことも教えてくださいよ」
「はぁ?なんでそうなる」
「えーっと、オレは産まれる前に父親が蒸発したから会ったことなくて、小5か小6?の時に母親が彼氏と出てっちゃってそっからひとり暮らしで、中学行かずにウリとかやって適当に生きてたらヤクザに捕まって今ハセさんといるって感じっすね」
最悪と言って過言ではない人生を簡単に語った皆木は、マヨネーズをかけた卵をうまそうに食べて、「マヨ混ぜたらもっとウマいっすよ」と初瀬にも勧めてくる。
(なんなんだよ、こいつ)
今まで関わったことのない空気感に、初瀬は良くも悪くも脱力してしまった。小学生で親に捨てられて身体売って生活してきて、精神を病むでも犯罪に手を染めるでもなく飄々と生きているのが初瀬には信じられなかった。
「じゃあ次はハセさんの番。まぁ高校まではわかるんだけど、なんで大学まで行ったんすか」
テーブルに肘をついてぼーっとしていた皆木は、初瀬と会沢がリビングに戻るとパッと立ち上がった。2枚の皿に盛られたスクランブルエッグ──というかボロボロの卵焼きのようなものが手付かずで残っているのを見て、初瀬は塗り薬を会沢に渡しながらそばに来た皆木に目だけ向けた。
「まだ食ってないのかよ」
「せっかくだし一緒に食べましょーよ。アイザワさんも食います?」
「僕朝は食べない派なんだよね。薬ありがとう、初瀬くん。見送りいらないから、じゃね」
会沢は手を振ってリビングを出て行く。言葉の通りに受け取って初瀬はその場で頭を下げ、突っ立っている皆木の頭も下げさせた。ドアが閉まる音を聞いて、短く息を吐く。
「よし、じゃ飯にしましょう。腹減った~」
皆木は卵が楽しみなのか足早に食卓へ戻っていく。会沢との会話と皆木との会話に温度差がありすぎて調子が狂うが、とりあえず初瀬も席に着いた。
「味ついてないから適当にケチャップとマヨネーズ出しときました」
グッと親指を出したかと思えば立膝で肘をついて食べ始めようとするので、初瀬は皆木の椅子を蹴った。誰のマナーがいいのか悪いのかわからない状況で、初瀬は「膝降ろせ。肘つくな」と注意する。怒られた皆木は「さーせん」と言いながら先ほどよりマシな体勢でスクランブルエッグをすくったスプーンを口に突っ込んだ。
そのままがっついて食べるんだろうと思ったら、一口飲み込んだ皆木は動きを止めて皿を見つめる。
「どうした。そんなに不味いのか」
「いや。オレ、こうやって誰かと家で飯食うの初めてかもって思って」
「親と食ったりしただろ、ガキのころ」
お前は今もガキだけど、と頭の中で続ける。
初瀬がパサパサの卵をケチャップで湿らせて口に運んでいる間、皆木はポカンとした顔で初瀬を見ていた。
「ハセさん、ヤクザなのに家族と飯とか食ってたんだ。いいなぁ」
「……昔の話だよ」
つまり皆木は親と飯もまともに食ったことがないということだ。深掘っても気持ちのいい話は出てこないと思い、流した。
「そういやなんか有名な大学も行ってたんすよね?すげー。でもなんで──」
「俺のこと知ってどうする気だ。弱みでも見つけてえのかよ」
大学という単語で会沢に会ったストレスがぶり返して、語気が強くなる。萎縮するかと思ったが、皆木はしばし瞬きをしてからハッとした顔で手を打った。
「あ~そっか、まずオレのこと話してからか。そしたらハセさんのことも教えてくださいよ」
「はぁ?なんでそうなる」
「えーっと、オレは産まれる前に父親が蒸発したから会ったことなくて、小5か小6?の時に母親が彼氏と出てっちゃってそっからひとり暮らしで、中学行かずにウリとかやって適当に生きてたらヤクザに捕まって今ハセさんといるって感じっすね」
最悪と言って過言ではない人生を簡単に語った皆木は、マヨネーズをかけた卵をうまそうに食べて、「マヨ混ぜたらもっとウマいっすよ」と初瀬にも勧めてくる。
(なんなんだよ、こいつ)
今まで関わったことのない空気感に、初瀬は良くも悪くも脱力してしまった。小学生で親に捨てられて身体売って生活してきて、精神を病むでも犯罪に手を染めるでもなく飄々と生きているのが初瀬には信じられなかった。
「じゃあ次はハセさんの番。まぁ高校まではわかるんだけど、なんで大学まで行ったんすか」
45
あなたにおすすめの小説
アンダーグラウンド
おもち
BL
本命には弱い関西のヤクザと、東京から転校したが高校に馴染めていない高校生の甘酸っぱい恋のお話です。
好きだからこそ手が出せない攻めが、唯一の心の拠り所の受け。二人がのんびりイチャイチャ生活しています。
交わることのない二人
透明
BL
憧れの大阪の大学に通うため、東京から単身やって来た白井菖蒲は、推している芸人が下積み時代によく訪れていた喫茶・トミーで働く事に。
念願だったトミーで働け、とても充実感で満たされていた。働き始めてから三日目までは。
朝の10時、振り子時計と共に、革靴を鳴らし店内に入って来たのはガタイの良く、真っ黒な髪を真ん中でかき上げ、目つきが悪い黒いスーツに身を包んだヤクザだった。
普通の大学生と、ヤクザのお客さん。決して交わるはずの無い二人。
な筈なのだが何故か、二人の仲はスイーツを通して深まっていくのだった。
※一応BLですが、ブロマンス寄りです
※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。
優等生αは不良Ωに恋をする
雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。
そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。
「うっせーよ。俺に構うな」
冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。
自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。
番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。
それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。
王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開!
優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
青い炎
瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。
もともと叶うことのない想いだった。
にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。
これからもこの想いを燻らせていくのだろう。
仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる