インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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食卓

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「あ、やっと出てきた」

 テーブルに肘をついてぼーっとしていた皆木は、初瀬と会沢がリビングに戻るとパッと立ち上がった。2枚の皿に盛られたスクランブルエッグ──というかボロボロの卵焼きのようなものが手付かずで残っているのを見て、初瀬は塗り薬を会沢に渡しながらそばに来た皆木に目だけ向けた。

「まだ食ってないのかよ」
「せっかくだし一緒に食べましょーよ。アイザワさんも食います?」
「僕朝は食べない派なんだよね。薬ありがとう、初瀬くん。見送りいらないから、じゃね」

 会沢は手を振ってリビングを出て行く。言葉の通りに受け取って初瀬はその場で頭を下げ、突っ立っている皆木の頭も下げさせた。ドアが閉まる音を聞いて、短く息を吐く。

「よし、じゃ飯にしましょう。腹減った~」

 皆木は卵が楽しみなのか足早に食卓へ戻っていく。会沢との会話と皆木との会話に温度差がありすぎて調子が狂うが、とりあえず初瀬も席に着いた。

「味ついてないから適当にケチャップとマヨネーズ出しときました」

 グッと親指を出したかと思えば立膝で肘をついて食べ始めようとするので、初瀬は皆木の椅子を蹴った。誰のマナーがいいのか悪いのかわからない状況で、初瀬は「膝降ろせ。肘つくな」と注意する。怒られた皆木は「さーせん」と言いながら先ほどよりマシな体勢でスクランブルエッグをすくったスプーンを口に突っ込んだ。
 そのままがっついて食べるんだろうと思ったら、一口飲み込んだ皆木は動きを止めて皿を見つめる。

「どうした。そんなに不味いのか」
「いや。オレ、こうやって誰かと家で飯食うの初めてかもって思って」
「親と食ったりしただろ、ガキのころ」

 お前は今もガキだけど、と頭の中で続ける。
 初瀬がパサパサの卵をケチャップで湿らせて口に運んでいる間、皆木はポカンとした顔で初瀬を見ていた。

「ハセさん、ヤクザなのに家族と飯とか食ってたんだ。いいなぁ」
「……昔の話だよ」

 つまり皆木は親と飯もまともに食ったことがないということだ。深掘っても気持ちのいい話は出てこないと思い、流した。

「そういやなんか有名な大学も行ってたんすよね?すげー。でもなんで──」
「俺のこと知ってどうする気だ。弱みでも見つけてえのかよ」

 大学という単語で会沢に会ったストレスがぶり返して、語気が強くなる。萎縮するかと思ったが、皆木はしばし瞬きをしてからハッとした顔で手を打った。

「あ~そっか、まずオレのこと話してからか。そしたらハセさんのことも教えてくださいよ」
「はぁ?なんでそうなる」
「えーっと、オレは産まれる前に父親が蒸発したから会ったことなくて、小5か小6?の時に母親が彼氏と出てっちゃってそっからひとり暮らしで、中学行かずにウリとかやって適当に生きてたらヤクザに捕まって今ハセさんといるって感じっすね」

 最悪と言って過言ではない人生を簡単に語った皆木は、マヨネーズをかけた卵をうまそうに食べて、「マヨ混ぜたらもっとウマいっすよ」と初瀬にも勧めてくる。

(なんなんだよ、こいつ)

 今まで関わったことのない空気感に、初瀬は良くも悪くも脱力してしまった。小学生で親に捨てられて身体売って生活してきて、精神を病むでも犯罪に手を染めるでもなく飄々と生きているのが初瀬には信じられなかった。

「じゃあ次はハセさんの番。まぁ高校まではわかるんだけど、なんで大学まで行ったんすか」
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