インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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処置

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 初瀬の蹴りを脛に食らった皆木は両手を合わせて機嫌を取ろうとする。どうせ抜いてるんだろうと思ったが、初瀬はそれ以上責めずに早く包帯を外せと手で示した。
 皆木は初瀬の追及がなくなりホッとした表情で包帯を外し、患部に貼られたガーゼをゆっくり剥がしていく。ガーゼには血が滲み、傷口はきっちり縫われていたが少し膿んでいた。

「痛くない?」

 皆木は自分の怪我ではないのに痛みを堪える顔をして、膿をゆっくりふき取りながら聞いた。

「ああ。気にするな」
「ウソだ。これ痛くないわけないっすよ。ハセさん何でも『平気だ』とか言って我慢する性格でしょ」
「ほっとけよ。いいだろ別に」
「ツラいときはツラい、イヤなもんはイヤって言った方がいいって。平気じゃないのに平気なふりしてもいいことないもん。ウリやってたオレの教えです。客に平気なツラだけ見せてたらなんでもかんでも要求されっから」

 聞き流そうとしていた皆木の言葉は、思いもよらず初瀬の心を撫でた。子どものころ、母親に同じようなことを言われたのを思い出してしまった。辛いことを辛いと誰かに言えたのは、いつまでだったか。
 少しでも気を緩めると慟哭が襲ってきて、初瀬は皆木を見るのをやめた。

「じゃ、お前を預かるのもイヤって断ればよかったな」
「なーんでそんなこと言うの!?オレ今ちょっといい話したつもりだったんだけど!?」
「おい、痛えだろ。もっと優しく貼れ」

 初瀬の軽口に騒ぐ皆木を見ないまま、ガーゼの貼り方に文句を言う。皆木に優しくガーゼを貼ってもらい、ある程度包帯が巻かれたところで、初瀬は左手で受け取って自分で巻いた。その手つきを見ていた皆木が唐突に言った。

「ハセさんって女いる?」
「急に全然関係ない話始めんなよ」
「前にホストの客と寝た時に、手先が器用な男はモテるって言ってたの思い出して。ハセさんって料理もできるしなんか包帯も巻けてるし絶対モテんじゃん。やっぱカノジョいる?いや、愛人か?あ、男でもいいけど」

 皆木に質問をやめる気はないらしく、色々言いながら同じことを再び聞いてきた。聞かれるまでもなく、初瀬はヤクザになってから恋愛など全くしていない。殺しのためにヤクザになったのであって、異性とどうにかなりたいのなら医学部時代の方が都合が良かっただろう。仕事の一環で上に用意された女と寝ることはあったが、誰と会おうと心が動いたことはなかった。もう自分の心は死んでしまったのだと初瀬は思っていた。

「いねえよ。女も男も」
「え、ホント?なんだ、よかった~!ハセさんに恋人いるか知らねーのに好きとか言っちゃったなって今さら思っちゃってさ」

 初瀬にシャツを着せながら皆木は笑顔になる。好きってやっぱりそういう意味なのかと思ったが、初瀬は追及しないままにした。嫌なら「気色悪いこと言うな」と殴って終わりにすればいいのに、初瀬は黙ってシャツを着た。誰かに好かれるのが居心地悪いのは自分のせいであって皆木のせいではない。だから好意を足蹴にできなかった。

「腹減った。出前取るぞ」

 立ち上がって話題を飯に変えると、皆木は意気揚々と手を挙げる。

「オレ、ケンタ食べたいっす!ハセさん回復祝い!」
「2日間寝込んでた俺に揚げ物食わす気かよ。吐くわ」
「え、ダメなんすか。お祝いと言えばケンタでしょ?元気になりますって!コールスロー多めに食ったら絶対平気ですよ」

 蕎麦とかを食べたかった初瀬は結局、皆木のごり押しに負けてケンタッキーを頼んだ。吐くことはなかったが、この後しばらく重い胃もたれに苛まれた。
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