インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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刺客

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 腕にはフォークが突き刺さり、鼻から血を溢れさせながらも、男は初瀬を睨み返した。

「誰に言われて、誰を狙ってここに来たんだ」

 黙って睨み続ける男に嚙み砕いて質問し直すと、男は初瀬に唾を吐いた。唾とは言え、ほとんど血だが。

「クソ野郎がッ……!死ね!」
「あ、そう。話す気ないなら舌いらねえよな」

 初瀬が持っていたナイフを男の口の中に突っ込んだところで、カンカンとグラスに金属が当たる音が響いた。

「そいつ耳ないから、初瀬くんが絞めた半グレじゃないの。戦争で負けたのに諦め悪いね~」

 会沢は血塗れのコックが倒れているのを見て腰の抜けた店員に無理やり運ばせたオマール海老を食べながら、ナイフで男を指し示した。指摘の通り見てみると、男の左耳がない。初瀬にやられてやり返す気があるとは、少しは骨のある男のようだ。こういうタイプは生かしておくと何度でも復讐に来るから面倒くさい。

「会沢さん、今日ゴミ処理場使えますか」
「溶かすの?ちょっと復帰して即殺しはなぁ。処理場使うと組にはバレるし」
「こいつを殺したくない理由でもあるんですか」
「あ、僕のこと疑ってんだ?違うよ。今回はホントになんにも知らなかったって。ただ初瀬くんがまた軽く殺したら、組長に怒られてペット増やされちゃうんじゃないかって思っただけ。元はといえば初瀬くんが痛めつけるのやり過ぎたせいでしょ」

 今回は、ということは以前は何を工作したのかと問い詰めてもよかったが、初瀬はとりあえずナイフを男の口から抜いた。口から血を溢れさせても初瀬を睨む男はまだやる気に見える。消してしまいたいが、会沢の言う通り初瀬が復帰していきなり殺しをやれば兼城にいい顔はされないだろう。

「まぁ敵が入る隙のある店をセッティングしちゃったのは僕だし、責任取るよ。ちょっとこいつ厨房に運んでくれる?」

 会沢は布巾で口元を拭くと、室内で硬直したままだった店員に言いつけた。運びやすいように初瀬が男を数発殴って気絶させると、涙目の店員は「ありがと、ございます……ッ」と言う必要のない礼を述べて男を引きずっていく。

「料理は食べ進めてていいからね。トーマくんの分はないけど、パンと残ったソースくらいなら食ってもいいよ」

 そう言って、引きずられる男と共に会沢は部屋を出て行った。皆木は「やったー!」と嬉しそうに会沢の席に残っていたパンをオマール海老が乗っていた皿のソースに付けて食べ始める。相変わらず何のプライドもない、というか今の騒動を受けて食欲のある様に呆れと感心を覚えつつ、初瀬は席に座って血の付いた手を拭いた。

「皆木。俺の分食っていいぞ」
「えっ、いいんですか!?めっちゃウマいですよ」
「食欲ないからいい。ほら」

 オマール海老がちゃんと乗った皿を皆木に渡し、嬉々として食べる姿を犬の餌やりみたいだなと思って水を飲む。さっきの男は本当に会沢の差し金ではないのかとまだ疑っていたが、会沢の態度からして恐らく関係ないのだろう。自分のやりすぎた手口で命が危ぶまれたのなら、兼城の苦言に真実味が出てきてしまう。
 嫌な気分でタバコを咥えると、皆木がライターで火をつけた。もう海老を食べ終わったらしく、隣に立ったまま「さっきハラハラしましたね~」と話を振ってくる。

「生まれて初めて死ぬかも!って思いましたよ。ハセさんは慣れっこ?」
「まぁな。俺を殺しにわざわざ来るやつはあんまりいないが」
「ハセさんカッコよかったな~。前さ、フェラとかそういうえっちなことでお礼しようとすんの禁止って言ったじゃん」
「おい、敬語忘れんな。つーか、いきなり何の話だよ」
「それってさ~お礼じゃなくて、オレがやりたくなっちゃった場合はどうしたらいいんすか?」

 初瀬は一瞬黙った。どういう意図で聞いているのか考えたかったからだ。しかし、あまりに長考するのも変だと思い、一般的な回答をしようと皆木を見た。

「何かの対価としてではなくお前が自分の意思でしたいと思った相手となら、すればいいだろ」
「なんだ、そうなんだ。じゃハセさん、オレとえっちして」
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