インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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要求

 初瀬は皆木の言葉に、回答に迷った時間よりも長く黙ってから眉を寄せた。

「……あ?」
「あ、すんません。セックスしてください」
「丁寧に言い直せって意味で聞き返してねえよ。まずこんなところで出す話題じゃねえだろ、バカか」

 くだらない話を終わりにしようとすると、皆木は隣の椅子を引いて座ってくる。

「別にここでやりたいって話じゃないですよ。アイザワさん混ざってきそうだし。オレはちゃんとオレとハセさんの2人で──」
「ごちゃごちゃ言うな。駄目だ。セックスは両者の合意の元で成り立つんだよ。お前の一方的な意思だけじゃ無理だ」
「ぇえ……?もっと簡単に言ってください」
「お前がやりたくても俺がやりたくねえから無理って言ってんだよ」
「あ、イタッ!」

 皆木の頭を叩き今度こそ話を終わりにしようとタバコを吸うと、部屋の扉が開いた。手を拭きながら会沢が入ってくる。もう男の始末は終わったらしい。

「なんの話?盛り上がってるね」
「オレがハセさんとやりたいって話です。でもハセさんはダメって」

 嫌な導入をしてくる会沢をはぐらかす前に皆木があっけらかんと言ってしまい、初瀬は頭を抱えた。

「なんで全部言うんだよ……」
「え?やればいいじゃん。トーマくんプロだし安心だよ。男だから無理とかはね、思い込みだから」
「そうっすよ。ハセさんはマグロしてればあとはオレが全部やるんで。女抱くのと大差ないです」
「皆木、お前は一旦黙ってろ」

 初瀬は皆木の脚を蹴ってから、イラつきを抑えるために大きくため息を吐いた。吐かずにはいられない。

「俺は嫌ですよ。男だからとかそういうの抜きに」
「なんで?」
「だって未成年のガキじゃないですか。18にもなってない」
「え、ウケる。ヤクザが今さら法律守ってどうすんの。初瀬くんって変なとこクソ真面目だよね」
「18ならいいってこと?じゃあオレ今日誕生日だから今から18ッス」
「ウソつくんじゃねえよ。溜まってんなら一人でシコってろ」

 会沢の援護射撃を受けて調子に乗る皆木をもう一度殴ろうとすると、皆木は怒られるのを察知してささっと逃げる。こういうところは勘のいいやつに育っている。
 初瀬が追いかけてまで皆木を殴らないのを見た会沢は、ニヤニヤしながら皆木の腕を掴んだ。

「トーマくん。じゃ僕とやろうよ。金払うし、どう?」

 会沢が皆木に顔を近づける様に、初瀬は自分が不機嫌になるのを感じて驚いた。部下が誰と何をやろうが初瀬に関係のない話なのに、面白くないと思ってしまっていた。不適切な感情だ、と初瀬は水を飲んで気を散らす。

「ええ~アイザワさんかぁ……。うーん」
「なに。前は金払うならいいよ~って感じだったのに。初瀬くんじゃなきゃヤなの」
「いやまぁ。なんつーか……今はハセさんがいいな~って感じです」

 皆木が会沢の誘いを断っていてなぜか安心してしまう。初瀬は自分の感情がおかしくなったのかと、居心地が悪かった。

「初瀬くん、ここまで言ってるんだし相手すれば。目つぶってれば女と変わらないよ、マジで」
「嫌です。俺は部下とどうこうなる気はありません」
「は~あ、ハセさん頑固……。オレ、ちょっとトイレ行ってきていいっすか。あ、別にガチでシコるわけじゃないですよ」
「聞いてねえよ。さっさと行ってこい」

 なにやら言っている皆木にトイレを許可し、初瀬はやっと落ち着いた。なぜ皆木が誰とやるかという話でモヤモヤしなければならないのだ、と若干イラつきが復活してきたところで、皆木にフラれた会沢が席に戻りシャンパンを飲みながら内ポケットに手を入れた。

「で、本当の快気祝いはこれ」

 会沢が取り出したのは水色の封筒だった。
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