インテリヤクザは子守りができない

タタミ

文字の大きさ
32 / 51

陰惨な事実

しおりを挟む
 会沢の言葉に、皆木は息を止めていた。なんと返していいのかわからなかった。

(家族、皆殺しって……)

 以前家族の話をした時の初瀬の顔を思い出そうとしたが、これといった印象が出てこなかった。殺された家族について話しても、初瀬はその激情をおくびにも出さずにいたということだ。

「闇バイトって流行ったの知ってる?今も流行ってるか。顔の見えない指示役とちょっと高い時給につられた実行役が強盗を立て続けに起こしてね。実行役はバカで無知だから、罪の重さも知らずに抵抗した家主を殺しちゃったりもして大問題になったんだ。で、殺人までやっちゃった事件の被害者が初瀬くんの家族だったわけ」
「……ハセさんだけ、生き残ったんですか」

 皆木はどうにかそれだけ聞いた。まだ頭の整理はついていないが、回転の良くない頭で考えても初瀬の過去と突然の怪我と最近の不明な外出が徐々に繋がっていく。

「そう。事件が起こった日、初瀬くんは大学の友人と飲んでて終電を逃し、人生で初めて朝帰りをした。結果としてそのおかげで命拾いをしたわけだ。彼が第一発見者なんだよ。早朝に血塗れの家と血塗れの家族を見つけたんだ。父、母、姉、ペットの猫まで全部殺されてた。しかも強盗の被害額はたったの10万円。そんな金額のために家族が皆殺しとは、さすがの僕でも同情するよ。初瀬くんから少しでも家族の話を聞いたことあるかな。話の節々から仲が良かったのが嫌でもわかる。絶望は想像に余りあるね」
「あの……犯人は捕まったんですよね?そんなひどい事件起こしたんだから」

 皆木の言葉に会沢は煙を吐いた。胃のもたれそうな甘い刺激臭が強まる。

「殺しをやった実行役は捕まって死刑判決が出たよ。でも、捕まったのはその1人だけだし死刑なんてそう簡単には執行されない。強盗に来た奴は3人、逃走車の手配だの強盗先の選定だの含めたら関わった奴はもっといる。元凶の指示役はまったく不明で手がかりもなく捜査は行き詰まり。初瀬くんにとっちゃ不完全燃焼もいいところだ」
「そんなのって……あり、なんですか。犯人のやり逃げじゃないっすか」
「そうだよ。だから初瀬くんは堅気の人生を捨ててヤクザになった。指示役は半グレかヤクザか、ともかくアウトローな人間なのは確かだ。関わった奴らを見つけ出して殺すために、同じ地獄に自ら入ったんだよ」

 自分は初瀬ではないのに、初瀬のように仲の良い家族がいたこともないのに、皆木は怒りが身体に走るのを感じた。たった1人死刑になったから、なんだというのだ。逃げおおせた奴らに復讐したいという初瀬の感情を、ひとつも否定できなかった。

「僕は情報収集が得意でね。初瀬くんが組に入った時に調べて大体のことを把握してからは、復讐対象を見つけて彼に情報を横流ししてる。肩を怪我した時も強盗に関わってた奴を始末しに行ってたんだよ。最近の外出も復讐の下準備だろうね」
「アイザワさんは、なんで──」
「なんで協力してるか?そりゃ、僕は健気で可哀想な子が好きだから。初瀬くん、性癖に刺さるんだよね~」

 笑いながら言って、会沢は大麻を灰皿に戻した。本心なのかはわからなかったが、皆木は会沢が協力する動機をそれ以上追及しなかった。皆木のような雑魚にもっともらしい嘘も真実も言うとは思えなかった。

「で、初瀬くんの過去を知っちゃったわけだけど。トーマくんはどうするの?復讐は危険だからやめて~って止めんの?」
「いや……。オレにハセさんを止める権利なんてないです。でも……ハセさんが危険な目に遭うのは嫌ッス。……ワガママですよね、オレにはなんもできねーのに」

 皆木が俯くと、会沢は突然拍手をした。びっくりして見るうちに、立ち上がって皆木に肩を組んでくる。

「素晴らしい感想だ!トーマくんのこと益々気に入っちゃった。愛する初瀬くんのために悩む姿、健気でかわいいよ」

 大麻でハイになったのか会沢は大袈裟な声音で皆木を褒める。健気という単語に会沢の性癖を刺激してしまったかと後悔する前に、会沢が耳元で囁いた。

「初瀬くんの命を守りたいなら、協力するよ。覚悟があるならね」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

アンダーグラウンド

おもち
BL
本命には弱い関西のヤクザと、東京から転校したが高校に馴染めていない高校生の甘酸っぱい恋のお話です。 好きだからこそ手が出せない攻めが、唯一の心の拠り所の受け。二人がのんびりイチャイチャ生活しています。

交わることのない二人

透明
BL
憧れの大阪の大学に通うため、東京から単身やって来た白井菖蒲は、推している芸人が下積み時代によく訪れていた喫茶・トミーで働く事に。 念願だったトミーで働け、とても充実感で満たされていた。働き始めてから三日目までは。 朝の10時、振り子時計と共に、革靴を鳴らし店内に入って来たのはガタイの良く、真っ黒な髪を真ん中でかき上げ、目つきが悪い黒いスーツに身を包んだヤクザだった。 普通の大学生と、ヤクザのお客さん。決して交わるはずの無い二人。 な筈なのだが何故か、二人の仲はスイーツを通して深まっていくのだった。 ※一応BLですが、ブロマンス寄りです ※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

処理中です...