インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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身の危険

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 初瀬の命を守れる。
 その言葉に至近距離で会沢と目を合わせた皆木は、ゆっくり頷く。

「……覚悟は、あります」

 初瀬が死んだら自分はもうまともに生きていけないと皆木は自覚していた。初瀬を失えば、また身体を売って適当に生き、病気になるか客に暴行されるかして運が悪い時に死ぬだろう。今の初瀬と暮らせる幸せは皆木に与えられた最後の希望だった。動機を知ってしまった以上、初瀬の復讐を止めることはできないが、初瀬が犯人どもに殺されてしまうのは許せない。
 自己中心的な考えであることを承知で放たれた掠れ声を聞いて、会沢は口角を上げた。そのまま、皆木の耳元で囁き続けた。ほんの10秒にも満たない囁きだったが、皆木は会沢の話に目を見開く。

「それってオレ──」
「覚悟あるんでしょ?それに初瀬くんだって喜ぶよ。誰だって死にたいわけじゃない。初瀬くんも同じさ」

 ──ドンッ!

 皆木が答える前に、隣の部屋から大きな音がした。リビングに繋がる部屋──初瀬のマンションなら主寝室に当たる部分からだ。皆木が閉まっているドアに顔を向けると、「あらら」と呟いた会沢が肩から離れる。

「実は今日やんなきゃいけないことあってさ~。今の話はまた2人きりの時にね。まだ日はあるしヘーキヘーキ」

 呑気なことを言いながら会沢がドアを開ける。初瀬と同じく寝室にしているようで、中には大きなベッドが鎮座していた。床にある間接照明だけがつき、その照明のそばに裸の人間が転がっていた。男だ。両手足を縛られた男はドアの開いた気配に振り返り、芋虫のように会沢に近づいてくる。

「っう、ん~~!!」

 口はガムテープで塞がれているが、何か大声を出している。汗なのか涙なのか両方か、顔面が濡れている男と目線を合わせるように会沢はしゃがんだ。

「目が覚めちゃったねえ。ちょっと待って。次違うのあげるから」

 男は激しく頭を横に振り拒絶を表したが、会沢は無視して立ち上がりサイドテーブルに向かう。そこには複数の小瓶と注射器が置いてあった。

「シャブですか、それ」
「いやいやそんな高級品使わないよ。色々混ぜて作ったやつ。彼は仕事でちょっとヘマしたから、その埋め合わせでオリジナル商品の治験に協力してもらってるんだ」

 どう見ても自ら協力しているように見えない男は、皆木の足元で泣きながらもぞもぞと動き続けている。どうやら会沢に近づいたのではなく、開いたドアから逃げようとしていたようだ。会沢に身柄を渡されていたら、この男のようになっていたかもしれないと思って皆木は同情を抱いたが、同情だけで助けられるものでもない。男は部屋から出る前に、注射器を持った会沢に蹴り飛ばされベッドの脇まで戻っていった。

「そういえば初瀬くんに抱いてもらえた?」
「あー、いや全然です。まぁもう、いいんですけど」
「ええ?諦めちゃダメだよ。初瀬くんだって性欲ないわけないんだから」
「やーでも、そういう話すると怒られて終わっちゃうんで」

 雑談の最中に男には薬物が注入され、痙攣した後にぴくりとも動かなくなった。改めて会沢のテリトリーに丸腰でいるのは危険すぎるかと思った皆木は、帰ろうと寝室から足を出す。

「アイザワさん。お時間取ってもらってありがとうございました。オレはそろそろ──」
「あ、トーマくん3Pしない?この子だけじゃつまんないし」
「え。えーっと……」

 微動だにしなくなった男は白目を剝いていて、皆木は答えに詰まった。自分もこうされるんだろうという売春時代の直感が走り、取り急ぎ曖昧な笑みを浮かべる。

「いやでも、オレ戻って家事しないとで」
「心配しなくても大丈夫!悪いようにはしないよ。トーマくん、初瀬くんに飼われてからすっかり身綺麗になったよね」

 会沢に腕を引かれ、その力の強さにこれは『誘い』ではないとわかる。会沢は終始ヘラヘラしているが、これ以上渋ったら何をされるかわからない。抵抗で暴行が加算されるなら最初から我慢した方がいいか、と後ろ向きの護身を考えるうちにベッドに押し倒されていた。

(あ~あ。ハセさんならよかったんだけどなぁ……)

 この期に及んでそんなことを思う自分に呆れる。警戒心の甘かった自分のせいだと諦めて目を瞑った時、ケータイが鳴った。ベッドインの空気を壊す、間抜けな着信音だ。そして皆木のケータイに電話をかけてくるのは1人しかいない。
 皆木は目を見開き即座に会沢の下から抜け出すと、ズボンからケータイを取り出した。

「ハ、ハセさん!?」
『皆木。お前今なにやってる』
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