インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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殺意

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 大きい窓の外に東京の夜景が広がっている。深夜にも関わらずオフィスビルの明かりはいつまでも消えず、こんな時間まで働く人間は自分よりも狂っていると思いながら会沢はワインを飲んだ。
 企業に滅私奉公する一般人の気は知れないが、会沢は寝室から夜景を見るのが好きだった。薬と相性がいいからだ。今はMDMAを軽く舐めたところで、より一層夜景が綺麗に見えている。

「……トーマくんもう死んじゃったかな」
「う、ウッ……!」

 独り言に呻き声が答えた。振り返ると、ベッドの上に手足を拘束されて猿ぐつわをはめた男が2人いる。起き上がって呻きながら震えているのが1人、喉元を晒してベッドで脱力しているのが1人。兼城の誕生会を適当に抜けて、初瀬と皆木がどうなったかわかるまでの暇つぶしに呼び出した売人の男どもだった。薬で昏睡させていたが、耐性があったのか目を覚ましてしまったようだ。

「キミさぁ。ウチの薬やってんでしょ、勝手に」
「んん~!!う、ぐ……!」
「売人って頭も手癖も悪いやつ多すぎて話になんないよ。キミらの命なんて薬ひとつにも劣るってのに。せめて生保下りる死に方して、最期くらい社会貢献しようね」
「ひっ、ぐ、んん~!!ん、う!」
「ま、でもその前に1回遊ぼうか」

 絶望する男に笑顔を見せてベッドに乗り上げた時、会沢の後頭部にゴツと硬いものが当たった。男の涙目が背後に向けて見開かれている。それで何が起きているのか理解した会沢は、背中から脳天に快楽が走るのを感じた。

「会沢さん。死ぬ前に言いたいことはありますか?命乞いするなら見てやりますよ」
「おっと。殺されちゃうんだ?僕」

 思った通りの声に首を捻って後ろを見ると、目が合う前に拳銃のグリップでこめかみを殴られる。男の上に倒れ込むと今度は額に銃口が突き付けられた。

「イタタ!容赦ないな。初瀬くん、ピッキング上手いと思ってたけどまさかウチにも入れちゃうとはね。これでも金かけてセキュリティ上げてたんだよ?」
「笑うのやめてもらえますか。今すぐ殺したくなる」

 会沢は初瀬に剥き出しの殺意を向けられて、その愛おしさに笑わずにはいられなかった。本当に愛おしい。初瀬になら殺されてもいいと口角がさらに上がってしまう。
 会沢が人生で一番好きになった男は初瀬だった。経歴はこの上なく悲惨で、純度100%の復讐心に苛まれながら、いまだに性根は誰よりも清らか。これで容姿も頭も良いのだから、初瀬への独占欲は募るばかりだった。

「ッあ、たっ、たすけて、くださッ──」

 会沢の下にいた男は必死にもがいて猿ぐつわを外し、初瀬に訴えかえた。見つめ合っていた初瀬の視線が一瞬男に移り、濃密な殺意を味わっていた会沢は気分が悪くなる。

 ──パンッ!

 目がそれた一瞬、会沢は初瀬の拳銃を掴んで後ろの男に向け、引き金にかかった指を押し込んだ。見事に男の頭が撃ち抜かれ、雑音が消える。

「ごめんごめん。で、なんだっけ?」
「……お前を殺す。その前になんで皆木を焚きつけたのか説明しろ」
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