インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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幕引き

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 いくら沖縄が温かいとはいえ、冬であることに変わりはない。浜辺に来て1時間も経たないうちに日が沈み始め、海岸は感傷的な色に染まり始めていた。
 ひとりで水遊びをしていた皆木が、砂まみれの足をはらいながら初瀬に近づいて隣に座る。そのまま手元にある紙を覗き込んだ。

「ずっと何読んでんの?暗くなる前にハセさんもちょっとは海入りましょうよ」

 さすがにひとり遊びではつまらなくなってきたらしく、構ってほしそうに腕を引く。初瀬は見ていた1枚目の紙を閉じてライターを取り出した。

「満井と山崎、警察に捕まったってよ」

 引かれていた腕から手が離れる。皆木の目は大きく見開かれ、瞳が忙しなく動いた。

「っ、え!?な、なんで急に──」
「俺の実家に強盗指示したって証拠が揃ったから」

 会沢からの置き土産とでも言うべきか。警察に出せる証拠があると言ってはいたが、本当に実行し実際に警察が動いたのだ。これで少なくとも皆木が奈古組に追われる危険性は大幅に減少し、初瀬の怨恨にも一応ケジメがついたことになる。その上で会沢は初瀬に『いつでも戻ってきてね』と言っている。
 初瀬は報告書にライターで火をつけた。すぐに燃えかすとなり、風がどこかへ運んで行ってしまう。

「……よかったんですか。ハセさんはそれで」
「どうだろうな。でもいいんだと思う。もう人を殺さなくて済むなら、それで」

 皆木は初瀬の答えに眉を下げた。喜ぶのも憐れむのも違うが、しかしそれならどんな顔をすればいいのかという顔をしていた。初瀬は話題を変えようと、残っていたもう1枚の紙を皆木に渡す。

「皆木。お前にやる」
「なにこれ?あ、オレの名前……」

 受け取った皆木が紙を見て、途中で口を閉ざした。それは戸籍謄本のコピーで、ところどころポストイットが貼られメモが残っている。

「お前は今日で18だ。つまり成人したってことだ。これからは部屋も金もひとりで借りられる」

 冬馬という名前なのだから冬生まれだろうとは思っていた。しかしそれが今日で、成人年齢に達するなどということは考えもしていなかった。わざわざ誕生日に合わせてその情報を送付してくる会沢に、初瀬はいまだ感情を弄ばれて続けている感覚がした。

「母親として載ってる女は、群馬にいる。お前を育児放棄した後に適当な男と結婚してこの間離婚した。戸籍に記載はないが、遺伝子上の父親は岡山で生きてるらしい。どちらもメモに住所が書いてある」

 初瀬はできるだけ淡々と事務的に話した。感情を乗せると、伝えるべきことを伝えきれないのがわかっていた。

「親に会いたければ会って、関係を修復したいならしろ。その気がないなら親のことは忘れた方がいい。それからお前が身体を売らなくていいように、まともな仕事に就けるようにする。そこまでは俺が責任を持つ。そうすれば、晴れて新しい人生をスタートできる」

 皆木はもうまったく紙を見ていなかった。その視線は初瀬にだけ注がれ、濡れた瞳が初瀬を射抜いていた。

「……オレはハセさんと一緒にいられなくなるってこと?オレって……やっぱり邪魔だった?」
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