インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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重なる想い

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 皆木の震えた声は、初瀬の喉を詰まらせた。もう何もないと思っていた胸の奥が引き裂かれるように痛み、目を伏せる。

「……違う。お前に選択肢を与えてる。俺といてもまともな生活はできない。どこかに安住することも、ちゃんとした職を得ることもできない。毎日毎日、その日暮らしが続く。そんな人生を強いるのは……」

 皆木は答えない。初瀬を見るのをやめて膝を抱え、波の音を聞くしかない沈黙が落ちた。膠着に耐えかねた初瀬が肩に手を置こうとした時、皆木は突然持っていた紙をぐしゃぐしゃに丸めると、制止も聞かずに走り出した。振りかぶって海に投げ捨てられた紙は、薄暗い波に飲まれすぐに消えてしまう。

「オレは!ハセさんといられるなら、なんだっていい!砂漠でも地獄でも、どこでも……!」

 追いかけた初瀬を振り返り、皆木は大声を出した。今にも落ちそうな涙は腕で隠され、なかったことになる。初瀬が砂を踏みしめて歩み寄ると、皆木はぶつかるように胸元に顔をうずめた。

「皆木……俺は──」
「……置いて、行かないでよ……ッ」

 被せて絞り出された声はほとんど泣いていた。

(ああ……。もう限界だ)

 初瀬は弱く笑った。自分の中で抑えつけすぎた感情が暴れて、笑うしかなかった。自分を偽れていると思っていたが、そんなのは勘違いと自惚れに過ぎず、心はとっくに限界を迎えていた。皆木のためを思うなら選択すべきではないと見ないふりをしていた想いが、大きくなり過ぎて今にも破裂しそうだった。もう初瀬には抗う術がない。
 押し殺してきたものが初瀬を動かし、皆木の震える背中を抱き寄せた。

「……わかった。それなら言いたいことがある」

 腕の中で皆木が緊張するのがわかる。今度は何を言われるのか恐れてしまっている。
 初瀬はこれ以上怖がらせないように穏やかに言った。

「俺は、皆木が好きだ。お前と同じ意味で。だから……本当は、これからも一緒にいたい」

 長らく抱えていた心情をやっと吐露し、初瀬は人生で初めて告白による緊張を感じていた。我儘とも言える感情にどう反応が返ってくるかと見つめると、胸元で静かに泣いていた皆木がゆっくり顔を上げた。こんなに目を開けるのかというくらい、啞然として見上げてくる。

「え……今オレのこと好きって言った?」
「どう聞いても言っただろ」
「え、ホントに……?ウソだろ、いや、ウソっつーか信じらんないっつーか、え……?だってそんな感じ全然──」

 初瀬は黙って、何やら言い続ける皆木の顔を両手で包んだ。大人しくなるのも待たずに唇を重ね、気持ちのままに味わう。そこには今までしてきた曖昧なものとは全く違う、確信された愛があった。

「……これでも信じられないか」

 影を重ねて囁く。されるがままの皆木は、夕日よりも赤くなった顔で初瀬を見上げて口元に触れた。

「しっ、信じます……。けど、夢見てるみたいで、ワケわかんねえ……」

 呟いて目を泳がせる皆木の手を引いて、初瀬は踵を返した。

「お前が納得するまで待ってたら朝になる。これから先、皆木の人生に俺がいるってだけだ」
「あ、はい……」

 白昼夢に襲われている顔でついてきた皆木は、パラソルの下に戻ると靴を履いた。まだ砂が付いているので「ほら足」とタオルを渡すと、受け取ったタオルを落として突如たたらを踏んだ。

「ま、待った!急に死ぬほど実感出てきた……!え、こっから一生一緒!?うわ、ちょっと、もう1回キスしてください!さっきの驚きすぎて記憶ない!」

 時間差で初瀬の好意を自覚したらしい皆木は、赤くなったり焦ったり忙しない。その様子に初瀬は思わず笑みを溢したが、キスはしてやらずに背を向けて歩き始める。

「帰ったらいくらでもしてやるから我慢しろ」
「え、いや今してほしいんだけど──って、ちょっと!先行かないで!」

 皆木が砂に足を取られながら走って追いかけてくる。初瀬は隣に並んだ手を握って歩き続けた。
 長く伸びるふたつの影は、もう離れることはなく砂浜に足跡を残していった。
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