27 / 71
二週目
25話 寵愛
しおりを挟む
「おかえり花雫!今日も遅かったね!」
「おかえりなさい。花…しず…」
「?」
私がリビングに入ると、薄雪が怪訝な顔で私を見上げた。
「どうしたの、薄雪」
「…なんでもありません」
「え?なに?」
ふい、と顔を背けた薄雪の表情は不機嫌そうだった。綾目にはなぜか分かったようで「あー…」と小さく呟いている。私は首を傾げながらコートとスーツを脱いだ。寝間着に着替えようとした私を綾目が浴室へ引きずっていく。いやいやシャワーを浴びたあと、テーブルの前に座り髪を乾かした。
「花雫、飲みますか?」
「あ、ううん!今日は飲んできたからいいですー。薄雪、飲みたかったら飲んでいいですよ。おつまみもありますし」
「…そうですか」
結局彼はお酒を飲まなかった。ボーっとしている私から少し離れた場所で、なにも話さずカスミソウと戯れている。いつもは痛いほど感じる視線も、今日はあまり感じなかった。
私が布団に潜ると小さな薄雪と綾目も入ってきたけど、薄雪はずっと私に背を向けたままだった。
◇◇◇
「……」
翌朝目が覚めたときには布団の中に私ひとりだった。耳を澄ますとリビングから生活音が聞こえてくる。いつも朝起きるの早いんだよなあこのふたり。
私がもぞもぞしていると、それに気付いた綾目が来て布団の隣に座った。
「おはよう花雫。よく眠れた?」
「うん…でもまだ眠い…」
「昨日いびきすごかったよ」
「え"っ!私いびきなんてかくの!?」
「疲れた日にはかいてるよ。あと歯ぎしりも」
「…最低じゃん」
「ついでにいえば寝言も多いよ」
「深夜の方がうるさいんじゃないの私…」
「ううん。お酒飲んでるときが一番うるさいよ」
「なんだとぉ~?」
「わっ!」
からかう綾目を布団の中に引きずり込み、わきをくすぐった。綾目は楽しそうにケタケタ笑いながら足をばたつかせている。あ~もうかわいすぎるよ綾目~!!
「…そういえば今週ミルちゃんタイムなかったな」
「猫の姿になってほしかったら、薄雪さまの願いを叶えてね」
「…今回のお願いはなんだろう」
前回のお願いは花を部屋に飾ることだった。今回も花か、もしくはお酒をたんまり買えとかかな?
しばらく綾目とじゃれてから、起き上がりリビングへ行った。テーブルの上には薄雪がチョボをクルっとした食パンが人数分並んでいる。マーガリンとジャム、それと水もちゃんと用意されていた。
「おはようございます薄雪。いつも朝ごはんありがとうございます」
キッチンとリビングを行ったり来たりしている薄雪に挨拶をすると、彼は微笑みを返した。
「おはよう花雫。昨晩は夢も見ずに眠ってましたね」
「げっ。いつも夢まで覗かれてるんですか」
「ええ。夢の中でもシゴトをしていますね。見なくてよかったですね」
「夢を見ないようにお酒飲んでるまでありますからね…」
「ところで花雫。さきほどの会話、聞こえていましたよ。みるちゃんをご所望でしょうか?」
「あっ、はい!お願いします!今回のお願いはなんでしょうか」
「ふむ…」
薄雪は自分の唇を指で撫でながらしばらく考えこんだ。なかなかに長い沈黙の間に、私は大あくびをして煙草に火をつけた。ログボをもらおうとソシャゲを開いたとき、やっと彼が口を開いた。
「決まりました」
「おっ。なんでしょう」
「たまにシゴトに同行させてください」
「…はい?」
なに言ってんの?
私があんぐり口を開けていると、薄雪はにっこり笑って言葉を続けた。
「せっかくコチラ側に来たのです。コチラ側のヒトをたくさん見てみたい」
「ええ…」
「心配しないでください。他の人たちの目に私は映りません」
「他の人たちにみえなくても、私には見えますけどお…」
「いけませんか?」
「気が散る…仕事集中できない…」
「ふむ。ではみるちゃんはナシですね」
「うぎゃあああああ!!やだああああああ!!ミルちゃんに会いたい~~!!」
「しかし」
「他のお願いは!?」
私がそう尋ねると、薄雪はきっぱり言った。
「ありません」
「ふぐぬぬぬぬ…」
「どうしますか?シゴトをとるか、みるちゃんをとるか」
こんにゃろぉ…。
私はちらりと綾目を見た。綾目は呆れた様子で薄雪を見ている。そして小さな声で私に話しかけた。
「花雫がわるい」
「えっ!なんで私がわるいの!」
「あやかしの執着心をなめちゃだめだよ花雫…。君はいま、アチラ側でいっちばんすごいあやかしの寵愛を受けてるんだから…」
よく分からないけど私がわるいらしい。ジトッとした目で薄雪を見ると、彼はただひたすら微笑んでいた。譲歩するつもりはまったくないようだ。ミルちゃんを諦められなかった私は仕方なく頷いた。
「…分かりました」
「はい。では綾目。みるちゃんになっておあげなさい」
「…はい」
綾目は、はぁーっとため息をつき猫の姿になった。そして私はいつものように、ミルちゃんのおなかに顔をうずめてガジガジ噛みながら匂いを嗅いだ。
「おかえりなさい。花…しず…」
「?」
私がリビングに入ると、薄雪が怪訝な顔で私を見上げた。
「どうしたの、薄雪」
「…なんでもありません」
「え?なに?」
ふい、と顔を背けた薄雪の表情は不機嫌そうだった。綾目にはなぜか分かったようで「あー…」と小さく呟いている。私は首を傾げながらコートとスーツを脱いだ。寝間着に着替えようとした私を綾目が浴室へ引きずっていく。いやいやシャワーを浴びたあと、テーブルの前に座り髪を乾かした。
「花雫、飲みますか?」
「あ、ううん!今日は飲んできたからいいですー。薄雪、飲みたかったら飲んでいいですよ。おつまみもありますし」
「…そうですか」
結局彼はお酒を飲まなかった。ボーっとしている私から少し離れた場所で、なにも話さずカスミソウと戯れている。いつもは痛いほど感じる視線も、今日はあまり感じなかった。
私が布団に潜ると小さな薄雪と綾目も入ってきたけど、薄雪はずっと私に背を向けたままだった。
◇◇◇
「……」
翌朝目が覚めたときには布団の中に私ひとりだった。耳を澄ますとリビングから生活音が聞こえてくる。いつも朝起きるの早いんだよなあこのふたり。
私がもぞもぞしていると、それに気付いた綾目が来て布団の隣に座った。
「おはよう花雫。よく眠れた?」
「うん…でもまだ眠い…」
「昨日いびきすごかったよ」
「え"っ!私いびきなんてかくの!?」
「疲れた日にはかいてるよ。あと歯ぎしりも」
「…最低じゃん」
「ついでにいえば寝言も多いよ」
「深夜の方がうるさいんじゃないの私…」
「ううん。お酒飲んでるときが一番うるさいよ」
「なんだとぉ~?」
「わっ!」
からかう綾目を布団の中に引きずり込み、わきをくすぐった。綾目は楽しそうにケタケタ笑いながら足をばたつかせている。あ~もうかわいすぎるよ綾目~!!
「…そういえば今週ミルちゃんタイムなかったな」
「猫の姿になってほしかったら、薄雪さまの願いを叶えてね」
「…今回のお願いはなんだろう」
前回のお願いは花を部屋に飾ることだった。今回も花か、もしくはお酒をたんまり買えとかかな?
しばらく綾目とじゃれてから、起き上がりリビングへ行った。テーブルの上には薄雪がチョボをクルっとした食パンが人数分並んでいる。マーガリンとジャム、それと水もちゃんと用意されていた。
「おはようございます薄雪。いつも朝ごはんありがとうございます」
キッチンとリビングを行ったり来たりしている薄雪に挨拶をすると、彼は微笑みを返した。
「おはよう花雫。昨晩は夢も見ずに眠ってましたね」
「げっ。いつも夢まで覗かれてるんですか」
「ええ。夢の中でもシゴトをしていますね。見なくてよかったですね」
「夢を見ないようにお酒飲んでるまでありますからね…」
「ところで花雫。さきほどの会話、聞こえていましたよ。みるちゃんをご所望でしょうか?」
「あっ、はい!お願いします!今回のお願いはなんでしょうか」
「ふむ…」
薄雪は自分の唇を指で撫でながらしばらく考えこんだ。なかなかに長い沈黙の間に、私は大あくびをして煙草に火をつけた。ログボをもらおうとソシャゲを開いたとき、やっと彼が口を開いた。
「決まりました」
「おっ。なんでしょう」
「たまにシゴトに同行させてください」
「…はい?」
なに言ってんの?
私があんぐり口を開けていると、薄雪はにっこり笑って言葉を続けた。
「せっかくコチラ側に来たのです。コチラ側のヒトをたくさん見てみたい」
「ええ…」
「心配しないでください。他の人たちの目に私は映りません」
「他の人たちにみえなくても、私には見えますけどお…」
「いけませんか?」
「気が散る…仕事集中できない…」
「ふむ。ではみるちゃんはナシですね」
「うぎゃあああああ!!やだああああああ!!ミルちゃんに会いたい~~!!」
「しかし」
「他のお願いは!?」
私がそう尋ねると、薄雪はきっぱり言った。
「ありません」
「ふぐぬぬぬぬ…」
「どうしますか?シゴトをとるか、みるちゃんをとるか」
こんにゃろぉ…。
私はちらりと綾目を見た。綾目は呆れた様子で薄雪を見ている。そして小さな声で私に話しかけた。
「花雫がわるい」
「えっ!なんで私がわるいの!」
「あやかしの執着心をなめちゃだめだよ花雫…。君はいま、アチラ側でいっちばんすごいあやかしの寵愛を受けてるんだから…」
よく分からないけど私がわるいらしい。ジトッとした目で薄雪を見ると、彼はただひたすら微笑んでいた。譲歩するつもりはまったくないようだ。ミルちゃんを諦められなかった私は仕方なく頷いた。
「…分かりました」
「はい。では綾目。みるちゃんになっておあげなさい」
「…はい」
綾目は、はぁーっとため息をつき猫の姿になった。そして私はいつものように、ミルちゃんのおなかに顔をうずめてガジガジ噛みながら匂いを嗅いだ。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる