【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

文字の大きさ
34 / 71
二週目

32話 夢

しおりを挟む
「ほ、ほんとにあやかしがいたんですか?ケモノっぽい叫び声とか聞こえるからびっくりしましたよ私!」

帰り道の車内で、私はぐったりしている薄雪と綾目に尋ねた。薄雪がこんなに疲れているところなんて初めて見た。すごいしんどそう…。大丈夫かな。綾目も車に乗った途端ため息をついて寝転んでるし。

「ええ。小さなあやかしでしたが、いましたよ」

「えええ…こわ。追い出してくれましたか?」

「はい」

「ありがとうございます。じゃあおばあさんはご主人の夢をみることができるかもしれないんですね!」

「ええ。まちがいなく」

「よかったあ。えへへ。薄雪がいてくれてよかったです」

「喜んでいただけたならよかった」

「それにしても…ずいぶん疲れてますね。私になにかできることはありますか?」

そう言うと、薄雪がちらりと私を見て目じりを下げた。

「幸せになってください」

「え?」

薄雪は返事をせずに目を瞑った。どうやら寝てしまったようだ。

◇◇◇

会社に戻り、今日も終電ギリギリまで事務仕事をしていた。薄雪と綾目は、じーっと私が仕事をしているところを眺めていたり、オフィスをうろちょろと動き回り興味深げに人や機械を見ていた。薄雪がちょいちょい北窪さんの背後に立ってジッとしていたのがちょっと怖かった。

「薄雪さま!!見てください!!ここを押すと紙が出てきます!!」

「ほう。すごい」

「きゃっ!コピー機がひとりでに動いたっ」

「えっ!?こ、こわー!!」

「ちょっ…!」

コピー機で遊び始めた綾目と薄雪のせいで、怪奇現象を怖がる女性社員たちが大騒ぎしている。私は慌ててあやかしたちを連れ戻し、心の中で叱りつけた。やばい。心労がすごい。目が離せない。仕事が終わらない。…明日に持ち越しだ…。

仕事を切り上げ会社を出る。汗臭い満員電車に揺られ、虚無の表情でスマホをいじる。だんだんと人が減っていき座席へ座ると、一瞬で寝てしまった。

夢を見た。小川が流れる森の奥で、立派に咲いている桜の花。一人の少女が木にもたれかかって眠っている。長い髪が風になびき、舞い散る花びらが彼女の髪を彩る。
ただそれだけの夢だったのに、目が覚めたとき、私は幸福感に包まれていた。

「花雫」

「はっ」

「目が覚めましたか?」

まだ夢から覚め切らない頭でまわりを見渡す。一瞬どこにいるのか分からなかったけど、アナウンスで電車に乗っていることを思い出した。しかも一駅過ぎちゃってるし!!

「ぎゃー!寝過ごした!!」

慌てて電車から降りて改札を通る。最悪だよもう…。
タクシーを呼んでやっと家に到着したときには日付が変わっていた。綾目も相当疲れたのか、化粧も落とさず布団に潜りこんだ私を叱る元気もないようだ。私と一緒に布団に入り、すぐに寝息を立てていた。薄雪も布団に入って来る。

「…って!なんで大きいままなんですか!いつもみたいに小さくなってください」

「すみません花雫。今日は少し妖力を使いすぎてしまいまして…。化ける元気がありません」

「そ、そんなに大変だったんですか…?」

「あやかし自体は大したことはなかったのですがね。…花雫が気にすることではありません。ただ、今日だけは許してください」

「は、はい…」

「おやすみなさい、花雫」

「おやすみなさい…」

気にするなと言われても、気にするに決まってるじゃん…。いつも飄々としてる薄雪が見るからにしんどそうな顔してるし。もしかして私のせいなんじゃ…。

「花雫のせいではありませんよ。私がしたいことをしただけです」

「そうだよ花雫。花雫が気にしたら元も子もないんだ」

綾目が目を瞑りながらぼそぼそと呟いた。薄雪も頷き、私の頭を撫でた。

「そういうことです。あなたはいつものように、誰よりも早く眠りに落ちて、いびきと歯ぎしりを交互にしていたらいいのです」

「ぎゃっ!なんでそんなこというのかなあ!ふん!もう寝る!」

「ええ。今度こそ、おやすみなさい」

その日からなぜか、仕事の夢にうなされることがなくなった。その代わりに見知らぬ少女の夢をよく見るようになった。彼女はいつも桜の木のそばにいた。眠っていたり、笑っていたり、泣いていたり。どんな表情をした夢でも、目が覚めたときは決まって幸せな気持ちになっていた。

また、訪問したおばあさんから一週間後に電話があった。無事保険金が支払われたことのお礼と、ご主人が夢に出て来てくれたというお話を聞かせてくれた。おばあさんがご主人の夢を見ることができたのは、きっと薄雪のおかげだろう。電話ごしだったけど、絶望に打ちひしがれていた彼女が少しだけ生きる気力を取り戻したように思えた。

保険金も受け取ってもらえて、その上(薄雪のおかげで)お客さんの心を満たすことができたことが、泣きそうになるほど嬉しかった。その時、よく上司が言ってた言葉を思い出した。「保険の営業は、保険を売ることだけが仕事じゃない。それ以外のものを満たしてやっと、本当の営業だ」ーー私は今回はじめて、その言葉の意味が分かった気がした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...