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アチラ側の来客
49話 ヌシサマの趣味
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「あの…蕣…?」
薄雪と喜代春が楽しそうに酒を酌み交わしているとき、私は勇気を振り絞って蕣に話しかけた。綾目のほつれた着物を縫っていた蕣は、返事をせずに顔を上げた。白いおかっぱの髪に、クリックリの黄色い瞳。薄雪が化けていた蕣とそっくりだけど、本物のほうがほっぺたがぷにぷにしてて可愛かった。
「あの…今お時間よろしいでしょうか?」
「うん」
「えっと…、そのぉ」
「花雫。言いたいことがあるならハッキリ言えばいいよ!」
「綾目うるさい」
蕣がぴしゃりとそう言うと、綾目は「ひうっ…」とか細い声を漏らして震えあがった。この二人は一生この上下関係のもと過ごしていくのだろうか…、と考えながら、私は蕣にずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの、ですね…。ほんとに蕣は男の子なの…?」
「うん。見る?」
「え」
蕣は無表情のまま着物の帯を外した。ぺったんこの胸を見せてくれたけど、この年の子はみんなぺったんこだしなあ…。
「じゃあこっち」
「ふぁっ」
ぽろんと出てきたちいさいふぐりとその他もろもろに、私は「だーー!!すみませんでした!!」と叫び帯を締めさせた。あっぶねぇ~。性犯罪者になるところだったぁ~…。
「男でしょ」
「男の子でした…」
「満足?」
「はい…」
「ヌシサマの趣味」
「え?」
「みんな聞くから。どうして男の子なのに女の子の恰好してるのか」
「で、それが…」
「ヌシサマの趣味」
「こら蕣。そんなことを言うんじゃないよ」
酒を飲んでいた薄雪が慌てて訂正したが、隣で喜代春が首を横に振った。
「いいや。蕣が正しいね」
「喜代春までなにを言い出すんだい」
「え?じゃあ薄雪は…男の娘がすきなの?」
「いいえ」
「好きだろう。この際白状するといい」
「…いいえ?」
頑なに「いいえ」と言い張る薄雪に、喜代春はため息をついて私を手招きした。私がソワソワしながら喜代春に顔を近づけると、耳元でこっそり教えてくれた。(隣で薄雪が「ちがいます」を連呼していたけど、ちょっと目が泳いでた)
「蓮華は私が作ったことは知っているかい?」
「はい。薄雪に聞きました」
「アレは蕣を元に作ったんだがね。私は蓮華を作るときに三日三晩悩んだんだ。なぜなら蕣が男の子なのに女の恰好をしていたから」
「はあ」
「薄雪が作る性別を間違えたからなのか、あえてそのような恰好をさせているのか、私には判断できなかった。最終的に私は蓮華を女の子で作った。ソレを受け取った薄雪は…なんて言ったかな?蓮華」
「ため息をつきながら、”コレはコレで、良いでしょう”って言った」
「ブッ!」
「その話を聞いて、薄雪があえて蕣をあのように作ったのだと気付いたよ。だから蕣の姿は完全にーー」
「ヌシサマの趣味」
「ーーなんだよ」
「あっはっはっは!!!」
私は大声をあげて笑った。ちょくちょく思ってたけど、薄雪もたいがい性癖変わってるよね!!おもしろすぎる!!
「笑いすぎです、花雫」
薄雪が珍しくツンとした表情をして頬を赤らめている。本当のことだから強く否定もできないのだろう。私は薄雪の背中をバシバシ叩いた。
「いいじゃんいいじゃん!私も男の娘すきだよ!!蕣かわいいよ薄雪!!もちろん蓮華もかわいいよ!!言うまでもなく綾目もかわいい!!…あれ、でもどうしてみんな子どもの姿なの?」
「それもヌシサマの趣味」
「子どもが好き」
「子どもはかわいいですから」
「私も子どもの姿になったら可愛がってくれるのかい、薄雪」
喜代春が冗談っぽくそう言った。ちょっと酔っているのか、いつもより表情が柔らかい。
「今でも充分かわいがっているでしょう」
「そうだろうか」
「私がどれほど君のわがままを受け入れていると思っているのです」
「それはそうだ」
薄雪と喜代春は目を合わせてクスクス笑う。二人とも嬉しそう。
「ええ。嬉しいですよ」
「ああ。こんなにゆっくりと語らい酒を酌み交わすなど、何百年ぶりだろうか」
「500年ぶりくらいでしょうか」
「そうか…。もうそんなに」
「こうして酒を酌み交わすのは、楽しいですね」
「そうだね。少しだけ…綾目と花雫に感謝かな」
喜代春はそう言って、綾目と私の頭を撫でた。綾目はぽっと顔を赤らめ、恥ずかしかったのか薄雪の陰に引っ込んだ。私も照れくさくて俯いた。ちらっと喜代春を見ると、彼は目じりを下げた。…お父さんみたい。
そんなことを考えていたら、喜代春と薄雪が眉を寄せて私を見た。
「ん?お父さん?」
「花雫。私がお父さんなのでしょう?」
「えー…。薄雪はどっちかというとお母さん」
「お母さん」
「お母さん…」
喜代春はぷっと吹き出し、薄雪はポカンと口を開けた。しばらく茫然としていた薄雪が、咳ばらいをして喜代春に言った。
「喜代春」
「なんだい」
「ヒトの子はお母さんから生まれてくる。だからお父さんよりお母さんの方が縁が深いよね」
「確かにそうだが、父がいなければヒトの子は生まれない。だから同じくらい縁が深いよ。あと張り合わなくても君から花雫はとらないから」
「…それならば、いいのです」
ああ、また薄雪が変なこと言ってる…。二人のやり取りを聞いていた蓮華と蕣がぼそっと呟いた。
「ヌシサマ、コドモみたい」
「大人げない」
「薄雪さまは結構子どもだよ!」
「蓮華、蕣、綾目」
「「「ひっ」」」
薄雪に名前を呼ばれただけで、子どものあやかしたちは怯えて口をつぐんだ。我慢できなくなった喜代春は吹き出して大笑いしたので、我慢していた私もつられてゲラゲラ笑った。
薄雪と喜代春が楽しそうに酒を酌み交わしているとき、私は勇気を振り絞って蕣に話しかけた。綾目のほつれた着物を縫っていた蕣は、返事をせずに顔を上げた。白いおかっぱの髪に、クリックリの黄色い瞳。薄雪が化けていた蕣とそっくりだけど、本物のほうがほっぺたがぷにぷにしてて可愛かった。
「あの…今お時間よろしいでしょうか?」
「うん」
「えっと…、そのぉ」
「花雫。言いたいことがあるならハッキリ言えばいいよ!」
「綾目うるさい」
蕣がぴしゃりとそう言うと、綾目は「ひうっ…」とか細い声を漏らして震えあがった。この二人は一生この上下関係のもと過ごしていくのだろうか…、と考えながら、私は蕣にずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの、ですね…。ほんとに蕣は男の子なの…?」
「うん。見る?」
「え」
蕣は無表情のまま着物の帯を外した。ぺったんこの胸を見せてくれたけど、この年の子はみんなぺったんこだしなあ…。
「じゃあこっち」
「ふぁっ」
ぽろんと出てきたちいさいふぐりとその他もろもろに、私は「だーー!!すみませんでした!!」と叫び帯を締めさせた。あっぶねぇ~。性犯罪者になるところだったぁ~…。
「男でしょ」
「男の子でした…」
「満足?」
「はい…」
「ヌシサマの趣味」
「え?」
「みんな聞くから。どうして男の子なのに女の子の恰好してるのか」
「で、それが…」
「ヌシサマの趣味」
「こら蕣。そんなことを言うんじゃないよ」
酒を飲んでいた薄雪が慌てて訂正したが、隣で喜代春が首を横に振った。
「いいや。蕣が正しいね」
「喜代春までなにを言い出すんだい」
「え?じゃあ薄雪は…男の娘がすきなの?」
「いいえ」
「好きだろう。この際白状するといい」
「…いいえ?」
頑なに「いいえ」と言い張る薄雪に、喜代春はため息をついて私を手招きした。私がソワソワしながら喜代春に顔を近づけると、耳元でこっそり教えてくれた。(隣で薄雪が「ちがいます」を連呼していたけど、ちょっと目が泳いでた)
「蓮華は私が作ったことは知っているかい?」
「はい。薄雪に聞きました」
「アレは蕣を元に作ったんだがね。私は蓮華を作るときに三日三晩悩んだんだ。なぜなら蕣が男の子なのに女の恰好をしていたから」
「はあ」
「薄雪が作る性別を間違えたからなのか、あえてそのような恰好をさせているのか、私には判断できなかった。最終的に私は蓮華を女の子で作った。ソレを受け取った薄雪は…なんて言ったかな?蓮華」
「ため息をつきながら、”コレはコレで、良いでしょう”って言った」
「ブッ!」
「その話を聞いて、薄雪があえて蕣をあのように作ったのだと気付いたよ。だから蕣の姿は完全にーー」
「ヌシサマの趣味」
「ーーなんだよ」
「あっはっはっは!!!」
私は大声をあげて笑った。ちょくちょく思ってたけど、薄雪もたいがい性癖変わってるよね!!おもしろすぎる!!
「笑いすぎです、花雫」
薄雪が珍しくツンとした表情をして頬を赤らめている。本当のことだから強く否定もできないのだろう。私は薄雪の背中をバシバシ叩いた。
「いいじゃんいいじゃん!私も男の娘すきだよ!!蕣かわいいよ薄雪!!もちろん蓮華もかわいいよ!!言うまでもなく綾目もかわいい!!…あれ、でもどうしてみんな子どもの姿なの?」
「それもヌシサマの趣味」
「子どもが好き」
「子どもはかわいいですから」
「私も子どもの姿になったら可愛がってくれるのかい、薄雪」
喜代春が冗談っぽくそう言った。ちょっと酔っているのか、いつもより表情が柔らかい。
「今でも充分かわいがっているでしょう」
「そうだろうか」
「私がどれほど君のわがままを受け入れていると思っているのです」
「それはそうだ」
薄雪と喜代春は目を合わせてクスクス笑う。二人とも嬉しそう。
「ええ。嬉しいですよ」
「ああ。こんなにゆっくりと語らい酒を酌み交わすなど、何百年ぶりだろうか」
「500年ぶりくらいでしょうか」
「そうか…。もうそんなに」
「こうして酒を酌み交わすのは、楽しいですね」
「そうだね。少しだけ…綾目と花雫に感謝かな」
喜代春はそう言って、綾目と私の頭を撫でた。綾目はぽっと顔を赤らめ、恥ずかしかったのか薄雪の陰に引っ込んだ。私も照れくさくて俯いた。ちらっと喜代春を見ると、彼は目じりを下げた。…お父さんみたい。
そんなことを考えていたら、喜代春と薄雪が眉を寄せて私を見た。
「ん?お父さん?」
「花雫。私がお父さんなのでしょう?」
「えー…。薄雪はどっちかというとお母さん」
「お母さん」
「お母さん…」
喜代春はぷっと吹き出し、薄雪はポカンと口を開けた。しばらく茫然としていた薄雪が、咳ばらいをして喜代春に言った。
「喜代春」
「なんだい」
「ヒトの子はお母さんから生まれてくる。だからお父さんよりお母さんの方が縁が深いよね」
「確かにそうだが、父がいなければヒトの子は生まれない。だから同じくらい縁が深いよ。あと張り合わなくても君から花雫はとらないから」
「…それならば、いいのです」
ああ、また薄雪が変なこと言ってる…。二人のやり取りを聞いていた蓮華と蕣がぼそっと呟いた。
「ヌシサマ、コドモみたい」
「大人げない」
「薄雪さまは結構子どもだよ!」
「蓮華、蕣、綾目」
「「「ひっ」」」
薄雪に名前を呼ばれただけで、子どものあやかしたちは怯えて口をつぐんだ。我慢できなくなった喜代春は吹き出して大笑いしたので、我慢していた私もつられてゲラゲラ笑った。
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