50 / 71
アチラ側の来客
48話 賑やかな日常
しおりを挟む
薄雪のお話が終わったあと、私たちは布団へ潜り込んだ。薄雪はいつも通り隣の布団で横になる。私はしばらく綾目を抱いて目を瞑っていたけど、胸のあたりがヒュンヒュンして眠れない。
「…~~…」
私はゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく体を起こし、薄雪が横になっている布団へ潜り込んだ。薄雪の背中にしがみつく私に、薄雪が戸惑った声をあげる。
「…花雫?」
「……」
「どうしたのですか?」
薄雪と離れたくない。
「しかし…」
離れたくないの。
「…分かりました。では蕣の姿に…」
そのままでいい。
「私の姿のままでいいのですか?」
うん
「分かりました」
綾目もこっちに呼んでくれる?
「かまいませんよ。綾目。綾目」
「ん…?」
「こちらへおいでなさい」
「あれ、花雫。そっちにいるの…?」
「ええ。今日はこちらの布団がいいそうですよ。なので綾目もこちらへ」
「分かりました」
綾目がもぞもぞと私のうしろに潜り込んでくる。やっぱり三人で寝るのが一番落ち着く。へへ。薄雪から花の匂いがする。これ、桜の匂いなのかな。いい匂い。
「…突然私に甘えてくるようになってしまった。どうしてだろう」
「薄雪さま。ヒトは失いかけてやっと大切なモノに気付くのです」
「そうか。だったら喜代春に感謝しないとね」
ふたりのあやかしとぴったりくっついて眠った私に、またいつもの夢が訪れた。桜の木の下に腰かける少女の隣には、同じ髪色をした少年もいた。彼らを囲んで薄雪や喜代春、蓮華や蕣、綾目も座っている。みんな楽しそうに笑ってる。
夢の中の薄雪と綾目と目が合った。彼らは私を手招きして、その輪の中に入れてくれた。それは今まで見た夢の中で、そしてこれから見る夢も含めて、一番しあわせを感じた夢だった。
◇◇◇
それからの私は薄雪にべったりくっついて離れなくなった。まるで小鳥と親鳥ですね、と薄雪が言っていた。
恋とか愛とかそんなのじゃなくて、どちらかというと薄雪の母性に似た包容力にズブズブに依存してしまったような感じだった。
朝起きたら薄雪が隣にいることを確認して安心して、仕事から帰ったら薄雪がまだコチラ側にいることを確認してホっとする。めんどくさいなあと自分でも思う。でも薄雪はいやな顔ひとつせず、不安がっている私をなだめてくれた。
「こんばんは」
「げぇ」
あの日から一週間後の金曜日。晩食をしていると喜代春たちがうちに来た。連れて帰られるんじゃないかと警戒した私は、薄雪の腕にしがみついて喜代春を睨みつける。喜代春はクスクス笑い、薄雪の隣に腰かけた。
「そんな警戒しなくてもいいよ。もう薄雪を無理矢理連れて帰る気はないからね」
「本当ですかあ…?」
「ああ。君が薄雪の生きる意味になるのなら、君が生きている間はコチラ側でいたらいいと、そういう約束をしたからね。君も聞いていただろう」
「そうだけどぉ…」
「そら。少し薄雪から離れてくれないかな。清めるから」
喜代春がシッシと手を払い私を薄雪から離れさせた。喜代春は薄雪と朝霧に風を与える。清められているときの薄雪は苦しそうだったけど、しばらくしたら深い息をついて笑みを浮かべる。
「ありがとう喜代春。楽になりました」
「かまわない。花も連れてきたよ。蓮華」
「はい」
蓮華がトコトコと薄雪のところへ来て胸に手を当てた。胸からたくさんの野花が溢れ出て、薄雪のまわりに散らせる。その時の薄雪はとても嬉しそうだった。
「おお。なんと美しい」
「森に咲いていた花だよ。どこかに飾っておくといい」
「はい」
喜代春と蓮華、蕣は、喜んでいる薄雪を見て目じりを下げていた。特に喜代春が薄雪に向ける目は、ヨソ者の私が見ても胸が締め付けられるほど愛情に満ちていた。こんなに好きなのに、自分から離れ離れになるんだもん。意味が分かんない。
薄雪と喜代春は、アチラ側では会うことができない。でも、コチラ側の私の部屋なら会えるようだ。だったらせめて、薄雪がここにいる間は仲良くしてほしいなあ。
というわけで、私はあやかしたちを食事に誘った。
「喜代春、蓮華、蕣。なにか食べますか?」
「コチラ側の酒はおいしいですよ、喜代春」
「では、いただこうかな」
「蓮華と蕣は?」
「この子たちには何か甘いものを与えてください」
「じゃあ飴玉でも」
「飴」
「すき」
「よかった。じゃあ持ってくるね」
私はキッチンへ行き食料を漁った。飴玉でしょ、日本酒でしょ、あとは…食べるものが…ない。
「うわー…どうしよう」
「なければ酒だけでかまいませんよ。ねえ喜代春」
「ああ。酒だけで構わないよ」
「いや!白米とパスタソースがある!!ご馳走が作れます!!」
「おお、御馳走」
「ちょっと待っててくださいね!」
これも私の得意料理。タッパーに白米を敷き詰めて、醤油とバターをかける。その上にパスタソース(この日はカルボナーラ)をぶっかけて、チーズを乗せてレンジでチン!
「はい!特製ズボラドリアの完成です!!」
「わあああ!!」
「おお」
「……」
「……」
「……」
歓声をあげたのは薄雪と綾目だけで、その他のあやかしはジトっとした目を私に向けていた。えっ!?なんですか!?
「…まさか薄雪にずっとこのようなモノを食べさせていたのかい、花雫…」
喜代春の低い声に震えながら、私はか細い声で「はい…」と答えた。え…あやかしにとってはご馳走でしょ、これぇ…。
「言っておくが、私はヒトとして生活しているものでね。普段から料理人がこしらえた食事を摂っているんだよ」
「げえええっ!!!」
「米と小麦粉と牛乳…。栄養が…偏りすぎているよ」
「栄養!!!」
だめだ!!喜代春こいつだめだ!!私の料理を見せてはいけないあやかしだ!!栄養のこと言い出すなんてめちゃくちゃめんどくさいやつだこれ!!!ばかやろぉ!!出てけ―――!!
「…なぜそこまで罵倒されなければならない…」
「今のは喜代春が悪いね」
「はい、喜代春が悪いです」
「喜代春悪い子」
「ワガママ」
「なぜだ…」
「…~~…」
私はゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく体を起こし、薄雪が横になっている布団へ潜り込んだ。薄雪の背中にしがみつく私に、薄雪が戸惑った声をあげる。
「…花雫?」
「……」
「どうしたのですか?」
薄雪と離れたくない。
「しかし…」
離れたくないの。
「…分かりました。では蕣の姿に…」
そのままでいい。
「私の姿のままでいいのですか?」
うん
「分かりました」
綾目もこっちに呼んでくれる?
「かまいませんよ。綾目。綾目」
「ん…?」
「こちらへおいでなさい」
「あれ、花雫。そっちにいるの…?」
「ええ。今日はこちらの布団がいいそうですよ。なので綾目もこちらへ」
「分かりました」
綾目がもぞもぞと私のうしろに潜り込んでくる。やっぱり三人で寝るのが一番落ち着く。へへ。薄雪から花の匂いがする。これ、桜の匂いなのかな。いい匂い。
「…突然私に甘えてくるようになってしまった。どうしてだろう」
「薄雪さま。ヒトは失いかけてやっと大切なモノに気付くのです」
「そうか。だったら喜代春に感謝しないとね」
ふたりのあやかしとぴったりくっついて眠った私に、またいつもの夢が訪れた。桜の木の下に腰かける少女の隣には、同じ髪色をした少年もいた。彼らを囲んで薄雪や喜代春、蓮華や蕣、綾目も座っている。みんな楽しそうに笑ってる。
夢の中の薄雪と綾目と目が合った。彼らは私を手招きして、その輪の中に入れてくれた。それは今まで見た夢の中で、そしてこれから見る夢も含めて、一番しあわせを感じた夢だった。
◇◇◇
それからの私は薄雪にべったりくっついて離れなくなった。まるで小鳥と親鳥ですね、と薄雪が言っていた。
恋とか愛とかそんなのじゃなくて、どちらかというと薄雪の母性に似た包容力にズブズブに依存してしまったような感じだった。
朝起きたら薄雪が隣にいることを確認して安心して、仕事から帰ったら薄雪がまだコチラ側にいることを確認してホっとする。めんどくさいなあと自分でも思う。でも薄雪はいやな顔ひとつせず、不安がっている私をなだめてくれた。
「こんばんは」
「げぇ」
あの日から一週間後の金曜日。晩食をしていると喜代春たちがうちに来た。連れて帰られるんじゃないかと警戒した私は、薄雪の腕にしがみついて喜代春を睨みつける。喜代春はクスクス笑い、薄雪の隣に腰かけた。
「そんな警戒しなくてもいいよ。もう薄雪を無理矢理連れて帰る気はないからね」
「本当ですかあ…?」
「ああ。君が薄雪の生きる意味になるのなら、君が生きている間はコチラ側でいたらいいと、そういう約束をしたからね。君も聞いていただろう」
「そうだけどぉ…」
「そら。少し薄雪から離れてくれないかな。清めるから」
喜代春がシッシと手を払い私を薄雪から離れさせた。喜代春は薄雪と朝霧に風を与える。清められているときの薄雪は苦しそうだったけど、しばらくしたら深い息をついて笑みを浮かべる。
「ありがとう喜代春。楽になりました」
「かまわない。花も連れてきたよ。蓮華」
「はい」
蓮華がトコトコと薄雪のところへ来て胸に手を当てた。胸からたくさんの野花が溢れ出て、薄雪のまわりに散らせる。その時の薄雪はとても嬉しそうだった。
「おお。なんと美しい」
「森に咲いていた花だよ。どこかに飾っておくといい」
「はい」
喜代春と蓮華、蕣は、喜んでいる薄雪を見て目じりを下げていた。特に喜代春が薄雪に向ける目は、ヨソ者の私が見ても胸が締め付けられるほど愛情に満ちていた。こんなに好きなのに、自分から離れ離れになるんだもん。意味が分かんない。
薄雪と喜代春は、アチラ側では会うことができない。でも、コチラ側の私の部屋なら会えるようだ。だったらせめて、薄雪がここにいる間は仲良くしてほしいなあ。
というわけで、私はあやかしたちを食事に誘った。
「喜代春、蓮華、蕣。なにか食べますか?」
「コチラ側の酒はおいしいですよ、喜代春」
「では、いただこうかな」
「蓮華と蕣は?」
「この子たちには何か甘いものを与えてください」
「じゃあ飴玉でも」
「飴」
「すき」
「よかった。じゃあ持ってくるね」
私はキッチンへ行き食料を漁った。飴玉でしょ、日本酒でしょ、あとは…食べるものが…ない。
「うわー…どうしよう」
「なければ酒だけでかまいませんよ。ねえ喜代春」
「ああ。酒だけで構わないよ」
「いや!白米とパスタソースがある!!ご馳走が作れます!!」
「おお、御馳走」
「ちょっと待っててくださいね!」
これも私の得意料理。タッパーに白米を敷き詰めて、醤油とバターをかける。その上にパスタソース(この日はカルボナーラ)をぶっかけて、チーズを乗せてレンジでチン!
「はい!特製ズボラドリアの完成です!!」
「わあああ!!」
「おお」
「……」
「……」
「……」
歓声をあげたのは薄雪と綾目だけで、その他のあやかしはジトっとした目を私に向けていた。えっ!?なんですか!?
「…まさか薄雪にずっとこのようなモノを食べさせていたのかい、花雫…」
喜代春の低い声に震えながら、私はか細い声で「はい…」と答えた。え…あやかしにとってはご馳走でしょ、これぇ…。
「言っておくが、私はヒトとして生活しているものでね。普段から料理人がこしらえた食事を摂っているんだよ」
「げえええっ!!!」
「米と小麦粉と牛乳…。栄養が…偏りすぎているよ」
「栄養!!!」
だめだ!!喜代春こいつだめだ!!私の料理を見せてはいけないあやかしだ!!栄養のこと言い出すなんてめちゃくちゃめんどくさいやつだこれ!!!ばかやろぉ!!出てけ―――!!
「…なぜそこまで罵倒されなければならない…」
「今のは喜代春が悪いね」
「はい、喜代春が悪いです」
「喜代春悪い子」
「ワガママ」
「なぜだ…」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる