63 / 71
大切なモノ
61話 目
しおりを挟む
「これは…綾目の瞳じゃないか」
「……」
「っ…」
「あっ!」
薄雪は身を縮めていた綾目を抱き寄せ、瞼を開かせようと指を当てる。綾目は目をきつく瞑り抵抗していたが、薄雪の力に敵わなかった。
「…っ」
綾目の瞳は白濁した茶色。瞳孔は丸い。明らかにヒトの目であり、それは花雫のものと同じ色をしていた。
「…どういうことだい。何をしたんだ喜代春」
声を荒げた薄雪が喜代春を睨みつけた。喜代春はため息をつき、トントン、と煙管の灰を落とす。
「実は、失明したのは綾目ではなかった」
「……」
「花雫だったんだよ」
その言葉だけで薄雪は全てを悟った。眩暈を起こし体がよろける。彼を蓮華と蕣が支えた。
「…失明した花雫の目になってあげたんだね、綾目」
「…はい」
「君も花雫を守りたかったんだね」
「はい…」
「そうか…。自分の美しさのことしか考えられなかったモノノケが、大切なモノのために自らを差し出したのか」
薄雪は綾目をそっと抱きしめた。唇を震わせ、こみ上げてくるものを飲み込み、小さく笑った。
「確かに、これは閉じ込めたくなるね」
◇◇◇
「私はね、綾目も薄雪も同じことを言うと確信していた。同じ頼みであれば先着順で叶えることにしているのでね、花雫には綾目の瞳を与えることにしたよ」
喜代春はそう言ったあと、ブツブツと文句を垂れた。
「それに君にも一度私と同じ思いをさせたかったしね。どうだい。これで少しは分かったかい」
「そうですね。これは辛い」
「分かればよろしい」
「喜代春…僕の目を使って薄雪さまにいじわるをしないでよ…」
「いじわるをしたのは君の方だ、綾目。薄雪はきっと、自分が傷つくより君が傷ついた方がつらいよ。それを分かっててこんなことを願ったね」
「うっ…」
「だからお互いさまさ。こんなことを私にさせることも充分ないじわるだ。まったく」
喜代春の小言はしばらく続いた。蓮華と蕣も喜代春に同意しているのか、頬を膨らませながら小言に何度も頷いている。薄雪と綾目は困ったように笑った。
言いたいことを全て吐き出してすっきりした喜代春が黙り込んだ。伝えなければならないことが、もうひとつある。
「薄雪」
「はい」
「綾目の目を得た花雫は視力を取り戻したよ」
「…ありがとうございます」
「ただ…」
喜代春は言葉に詰まる。今から言うことは、薄雪にとってひどく心を痛めるだろう。蓮華と蕣はそんな彼の手を握った。
「アルジサマ」
「私たちから伝える?」
「…いや、私から伝える」
「分かった」
「…どうしましたか」
「薄雪。花雫の瞼にはウメの願いと呪いが今もなお深く刻まれている。コレは私でも消すことができなかった。穢れ切った朝霧でさえ厳しい。ましてや力をほとんど失っている君には到底無理だ。痕を消すことができるのは、おそらく穢れを祓った朝霧だけ。つまり100年経たないとできない。…花雫の寿命に間に合わない」
「…何が言いたいんです」
「この痕にはウメの願いがこめられている。”私だけを見て”というね」
「……」
薄雪の頬に汗が伝う。
「まさか」
「この痕がある限り、花雫はあやかしを目に映すことができない」
「……」
「っ…」
「あっ!」
薄雪は身を縮めていた綾目を抱き寄せ、瞼を開かせようと指を当てる。綾目は目をきつく瞑り抵抗していたが、薄雪の力に敵わなかった。
「…っ」
綾目の瞳は白濁した茶色。瞳孔は丸い。明らかにヒトの目であり、それは花雫のものと同じ色をしていた。
「…どういうことだい。何をしたんだ喜代春」
声を荒げた薄雪が喜代春を睨みつけた。喜代春はため息をつき、トントン、と煙管の灰を落とす。
「実は、失明したのは綾目ではなかった」
「……」
「花雫だったんだよ」
その言葉だけで薄雪は全てを悟った。眩暈を起こし体がよろける。彼を蓮華と蕣が支えた。
「…失明した花雫の目になってあげたんだね、綾目」
「…はい」
「君も花雫を守りたかったんだね」
「はい…」
「そうか…。自分の美しさのことしか考えられなかったモノノケが、大切なモノのために自らを差し出したのか」
薄雪は綾目をそっと抱きしめた。唇を震わせ、こみ上げてくるものを飲み込み、小さく笑った。
「確かに、これは閉じ込めたくなるね」
◇◇◇
「私はね、綾目も薄雪も同じことを言うと確信していた。同じ頼みであれば先着順で叶えることにしているのでね、花雫には綾目の瞳を与えることにしたよ」
喜代春はそう言ったあと、ブツブツと文句を垂れた。
「それに君にも一度私と同じ思いをさせたかったしね。どうだい。これで少しは分かったかい」
「そうですね。これは辛い」
「分かればよろしい」
「喜代春…僕の目を使って薄雪さまにいじわるをしないでよ…」
「いじわるをしたのは君の方だ、綾目。薄雪はきっと、自分が傷つくより君が傷ついた方がつらいよ。それを分かっててこんなことを願ったね」
「うっ…」
「だからお互いさまさ。こんなことを私にさせることも充分ないじわるだ。まったく」
喜代春の小言はしばらく続いた。蓮華と蕣も喜代春に同意しているのか、頬を膨らませながら小言に何度も頷いている。薄雪と綾目は困ったように笑った。
言いたいことを全て吐き出してすっきりした喜代春が黙り込んだ。伝えなければならないことが、もうひとつある。
「薄雪」
「はい」
「綾目の目を得た花雫は視力を取り戻したよ」
「…ありがとうございます」
「ただ…」
喜代春は言葉に詰まる。今から言うことは、薄雪にとってひどく心を痛めるだろう。蓮華と蕣はそんな彼の手を握った。
「アルジサマ」
「私たちから伝える?」
「…いや、私から伝える」
「分かった」
「…どうしましたか」
「薄雪。花雫の瞼にはウメの願いと呪いが今もなお深く刻まれている。コレは私でも消すことができなかった。穢れ切った朝霧でさえ厳しい。ましてや力をほとんど失っている君には到底無理だ。痕を消すことができるのは、おそらく穢れを祓った朝霧だけ。つまり100年経たないとできない。…花雫の寿命に間に合わない」
「…何が言いたいんです」
「この痕にはウメの願いがこめられている。”私だけを見て”というね」
「……」
薄雪の頬に汗が伝う。
「まさか」
「この痕がある限り、花雫はあやかしを目に映すことができない」
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる