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大切なモノ
62話 数千年の歴史の中で
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花雫の瞼に刻まれた痕。それにはウメの願いと呪いが深く残されていた。ウメの願いは”私だけを見て”。呪いは”ウメ以外のあやかしを目に映させないこと”。その痣は、誰にも消すことができない。
「ということは、花雫は私の姿を目に映せなくなったと…?」
「そうだ。君だけではない。綾目も、蓮華も蕣も、だね。私だけは目に映るだろう。私はヒトの前に姿を現すことができるからね」
「つまり普通のヒトと同じ目になったということですね」
「そういうことだ。君には辛いだろうが」
「……」
薄雪が花雫の瞼を指で撫でる。彼は穏やかだった。何も言葉を発さず、表情も変えず、ただ静かに涙を流した。
「かまいません。花雫が生きてくれているだけで私は幸せです。たとえ私の姿をその目に映せなくなっても、その気持ちは変わりません。ですがどうしてでしょう。涙がどうしても流れてしまう」
「ヌシサマ」
「ヌシサマ」
「薄雪さま…」
小さなあやかしたちが薄雪を抱きしめた。喜代春も立ち上がり、彼の頭を胸に抱き寄せる。
「……」
「仕方のないことだろう。花雫は君の涙そのものなのだから。今は思うがままに泣くといい」
「……」
薄雪はそっと喜代春の着物を握った。アチラ側で最も高貴なあやかしといわれる彼が声を漏らして泣いたのは、数千年の歴史の中でたった二度目のことだった。
「ということは、花雫は私の姿を目に映せなくなったと…?」
「そうだ。君だけではない。綾目も、蓮華も蕣も、だね。私だけは目に映るだろう。私はヒトの前に姿を現すことができるからね」
「つまり普通のヒトと同じ目になったということですね」
「そういうことだ。君には辛いだろうが」
「……」
薄雪が花雫の瞼を指で撫でる。彼は穏やかだった。何も言葉を発さず、表情も変えず、ただ静かに涙を流した。
「かまいません。花雫が生きてくれているだけで私は幸せです。たとえ私の姿をその目に映せなくなっても、その気持ちは変わりません。ですがどうしてでしょう。涙がどうしても流れてしまう」
「ヌシサマ」
「ヌシサマ」
「薄雪さま…」
小さなあやかしたちが薄雪を抱きしめた。喜代春も立ち上がり、彼の頭を胸に抱き寄せる。
「……」
「仕方のないことだろう。花雫は君の涙そのものなのだから。今は思うがままに泣くといい」
「……」
薄雪はそっと喜代春の着物を握った。アチラ側で最も高貴なあやかしといわれる彼が声を漏らして泣いたのは、数千年の歴史の中でたった二度目のことだった。
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