【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

文字の大きさ
71 / 71
残りのエンドロール

最終話 10年後

しおりを挟む
「はっぴばーすでーとぅーゆー」

「はっぴばーすでーとぅーゆー」

「はっぴばーすでーでぃあーあやか~」

「はっぴばーすでーとぅーゆー!」

「あー!あー!」

あれから10回目のある春の日。
桜が満開に咲くこの季節に、愛娘の綾花が2歳の誕生日を迎えた。
私はついに40歳を過ぎ、日々腰痛と戦っている。
私の隣でハッピバースデーの歌を歌っているのは、北窪さん……改め、雅人さん。
綾花の父であり、私の夫である。

「花雫。ビール飲む?」

「飲むー!」

「最近おなかやばいけど…飲む?」

「飲む!!」

「はいはい」

雅人さんは苦笑いをしながらもビールを取りにいってくれた。

彼とは5年前から付き合い始め、3年前に結婚をした。よくもまあ5年も待ってくれたもんだ。

目があやかしを映さなくなった日から5年間、私はそれはもうひどい有様だった。無性に彼らに会いたくなっては泣き出すし、急に電池が切れたみたいに1日中布団から出られなくなったりしていた。
そんな私を雅人さんがずっと支えてくれた。

彼は、素の私どころか、病人になってしまった私まで受け入れてくれて、大切にしてくれた。
その時の私にとって、雅人さんがいてくれてどれほど救われたか。何度お礼を言っても間に合わない。

苦しい日々を過ごした私は、5年かけてやっと気持ちの整理がついた。
というより雅人さんが整理をつかせてくれた。

そして今は、彼と綾花に支えられ、毎日を過ごしている。
彼らのおかげで、私は今もこうして笑って生きていけている。
今の私は自分の人生を退屈なエンドロールだなんて思わない。一日一日が大切で、愛おしい。

ちなみに、40歳になった今も、私はちゃんと毎日欠かさず夜にシャワーを浴びている。めんどくさくて入りたくないときは数えきれないくらいあったけど、綾目が隣でシャワー浴びろって騒いでるんだろうなって考えると自然と浴びようって気になる。
同じ理由で、休日でも出かけるときは化粧をするし、コンビニじゃなくてスーパーで買い物をするようにしている。昔の私とは大違い。自分偉いって毎日褒めている。それは全て、綾目のおかげ。

それと、我が家は毎朝チョボクル食パンを食べている。薄雪が気に入っていたホテルパンを今もずっと食べている。食パンが入ったトースターを、薄雪は今も楽し気に眺めているのかな、なんて思うと顔がほころんでしまう。


雅人さんがビールを取りにいっている間、私は愛娘にじゃれついていた。

「綾花ちゃん~。今日もかわいいねえ~。噛んでもいいかな~?」

「や!」

「あーんかわいい~!!」

「花雫。これ忘れてるよ。薄雪と綾目にも祝ってもらわないと」

「あー!ありがとう~」

雅人さんがビールと一緒に持ってきたのは、今も変わらず花を咲かせているカスミソウ。


雅人さんとお付き合いをはじめる前、私は彼にふたりのあやかしのことを打ち明けた。
はじめは信じてくれなかったし、精神科に行った方がいいんじゃないかなんて言われたりしたけど、ある日突然私の言っていることを信じてくれた。

枯れないカスミソウのおかげかなと思ってたけどなんてことはない。私がいないときに、こっそり喜代春が雅人さんの前に姿を現して事情を説明したようだ。そのとき喜代春は怪奇現象を起こしまくって無理矢理あやかしのことを信じさせたとか。

トラウマレベルの経験をさせられたのに、雅人さんは私の元を離れなかった。
それどころか、薄雪と綾目の話をもっと聞きたいと言ってくれた。私のことを守ってくれている薄雪と綾目に感謝してるとまで言ってくれていた。聖人以外の何者でもない。

私は雅人さんに、たくさん話を聞いてもらった。薄雪のこと、綾目のこと。喜代春や蓮華、蕣のこと……。
営業中にユメクイというあやかしと出会った薄雪が、ソレを良いあやかしにして、私の夢見を良くしてくれたっていう話をしたら、雅人さんが本気で羨ましそうにしていた。そしてなんと翌日から、彼も銀髪の少女の夢を見るようになったらしい。


あやかしのことを忘れようとしていた私に、雅人さんは、薄雪と綾目(と愉快な仲間)の4人(と諸々)で共に過ごしていこうと言ってくれた。
彼は、私にあやかしを忘れさせるのではなく、忘れずに生きて行こうと手を引いてくれたのだ。
3年前、雅人さんが私にプロポーズをしてくれたあの日に言ったこの言葉のおかげで、私はこうして見えないあやかしたちのことを考えても、悲しくなったり苦しくなったりしなくなった。むしろ考えてはニコニコ、もしくはニヤニヤしている。


雅人さんの目にあやかしは映らない。でも彼はあやかしを信じ、大切にしてくれている。
だから雅人さんはよく花を買ってくる。家に飾ったり庭に植えたり。
彼は部屋の隅に妙なスペースまで作って、そこにポテチや日本酒、飴玉なんかをよく供えている。そうしろと言われる夢を見たそうだ。なんてあつかましいあやかしたちだろうか。ふふ。

供え物はいつの間にか数が減っている。時には空瓶が転がっていることも。
私と雅人さんが家を留守にしている間、彼らはこっそり宴会をしているようだ。
あやかしたちは、今でもうちでわりと楽しんでるみたいです。


「あー!ママーー」

「なあに綾花ちゃん~」

そしてなにより綾花の存在。
子どもがあまり好きじゃなかった私でも、いざ我が子を手にしてみると雅人さんに引かれるくらいのメロメロっぷり。将来自分がモンペにならないか不安。


おもちゃで遊んでいた綾花は、おもむろに私の後ろを指さしてきゃっきゃと笑った。

「あーめー!」

「飴?飴食べたいのー?」

私はだらしない顔で笑いながら、テーブルの上に置いてある飴を取りに行った。
私の後ろで綾花がひとりで笑い声をあげている。

「うしゅーきー!」

「…え?」

いまこの子なんて言った?
私はゆっくり振り返った。彼女は今度は、私の隣を指さしている。誰もいないよ?

固まっていると、綾花が私の手を握った。もう片方の手は空を掴んでいる。
彼女は両手を寄せて、にぱっと笑った。

「あくしゅー!」

「……」

「きゃはー!うしゅーき!あーめー!」

「…見えてるの?」

「あー!あー!」

「綾花?薄雪と綾目のこと、見えてるの?」

綾花は私の質問に応えず、急に困ったような顔をする。

「うしゅーきー?ないちゃやー。よしよし、よしよし。ママもーよしよししてあげてー」

「……」

「あーめーもー。ないちゃやー。よしよし」

「…うそ」

綾花がなにもない空間を撫でている。
私と雅人さんは目を見合わせた。雅人さんも口をあんぐり開けている。

「ママー」

「ど、どうしたの、綾花ちゃん」

「ぎゅーしてあげて。あーかにしてくれるみたいにー。うしゅーきもあーめーもエンエンしてるからー」

「……」

「ここー」

綾花に手を引かれ、何もない場所で立ちすくむ。私は呆然としながら見えないモノを抱きしめた。

「あー、もっとないちゃったあ…」

「……」

「あれ、ママまでないちゃったあ……パパー。パパー。ママたちのことぎゅーしてあげてー。あーかにしてくれるみたいにー」

泣いている私を、雅人さんと綾花が抱きしめてくれる。
私は涙を流しながら、綾花が教えてくれた、彼らの居る場所を腕で包み込む。

そこにいるの?

薄雪、綾目。私はいま、あなたたちを抱きしめられてるの?


私には彼らの声が聞こえない。

残されたものは、手の平に落ちた花の雫。

そして紡がれ続ける、花が結んだあやかしとの縁。

【花が結んだあやかしとの縁 end】
しおりを挟む
感想 7

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

ぽむ
2022.12.25 ぽむ
ネタバレ含む
解除
こなもん
2022.02.04 こなもん
ネタバレ含む
解除
小笠原 樹
2022.01.30 小笠原 樹
ネタバレ含む
2022.01.30 mazecco

小笠原 樹 さん

お久しぶりです!
わー!!花雫のお話まで手に取ってくださり、ありがとうございます!( *´艸`)
とっても嬉しいです♡

優しさ溢れる話……( *´艸`)♡ありがとうございます( *´艸`)!!
ひとまとまりの話が比較的短いので、隙間時間に読みやすい作品ですもんね!

ゆっくりまったり、読んでいただけますと嬉しいです!( *´艸`)

小笠原 樹さんも、風邪などには充分お気をつけください!
ご感想ありがとうございました( *´艸`)~♡ウレシイ~!

解除

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。