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残りのエンドロール
68話 部屋
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家に帰った私は、ドアノブを掴んで深呼吸をした。誰もいない部屋に入るのは勇気がいるな…。こわい。
ゆっくりとドアを開け、中を覗き込む。
おかえりという声は聞こえてこない。私は何も言わずに家に上がり、服を着替えてテーブルの前へ座った。静寂で耳が痛い。電気をつけっぱなしにしておいてよかった。これで真っ暗だったらメンタルに大打撃だったわ。
「……」
寂しさを紛らわせるためにパソコンで動画を流した。いつもなら綾目が私を浴室へ引きずり込んでいる時間だ。
でも今日は、誰も私の邪魔をする人はいない。こんなの、ビールを飲む気にもなれないな。
薄雪と綾目との思い出が詰まったこの場所が、こんなにつらい場所になるなんて。浴室も、リビングも、トースターも寝室も、どこに行っても思い出す。
「あー…だめだ…。うぅぅ…ふえぇ~……。薄雪ぃぃ…綾目ぇぇ…無理だよわたし…。寂しいよぉぉ…」
私はとうとう泣き出してしまった。
そのとき、ふわりとあたたかい風が吹き、懐かしい香りが鼻腔をついた。この花の香り。薄雪の…。
「…いるの?」
私はあたりを見回した。返事は聞こえない。もう一度風が吹いたりもしなかった。
ただ、カスミソウが揺れている。
「カスミソウ…」
ビール瓶に挿されたカスミソウ。薄雪と出会ってすぐに買いに行ったそれは、1年以上経っても小さな花を咲かせている。それは薄雪が花のあやかしだからで、薄雪がいる限り枯れることはない。
「…このカスミソウが花を咲かせてるってことは、いるのね薄雪」
私はカスミソウを指で撫でた。
「いてくれてるんだね。本当に…。綾目もいてくれてるの?」
そう尋ねると、浴室からシャワーの音がした。ハッとして浴室に駆け込んだけど誰もいない。でも、シャワーからほどよい温度のお湯が出ていた。
「ふふ。シャワーを浴びろって言ってるの?綾目」
私はワッと泣いて床にへたりこんだ。カスミソウを抱きかかえて、シャワーの音に紛れて大声で泣いた。
いる。
薄雪と綾目はまだここにいてくれてる。
私の声を聞いてくれてる。
私の目に映らなくなっても、彼らはまだ私のそばにいてくれてるんだ。
部屋の中で花の香りがする風が吹いたのも、ひとりでにシャワーが出たのもその日だけだった。
でも、1年経っても5年経っても、カスミソウは雪のような花を散らすことなく咲き続けた。
ゆっくりとドアを開け、中を覗き込む。
おかえりという声は聞こえてこない。私は何も言わずに家に上がり、服を着替えてテーブルの前へ座った。静寂で耳が痛い。電気をつけっぱなしにしておいてよかった。これで真っ暗だったらメンタルに大打撃だったわ。
「……」
寂しさを紛らわせるためにパソコンで動画を流した。いつもなら綾目が私を浴室へ引きずり込んでいる時間だ。
でも今日は、誰も私の邪魔をする人はいない。こんなの、ビールを飲む気にもなれないな。
薄雪と綾目との思い出が詰まったこの場所が、こんなにつらい場所になるなんて。浴室も、リビングも、トースターも寝室も、どこに行っても思い出す。
「あー…だめだ…。うぅぅ…ふえぇ~……。薄雪ぃぃ…綾目ぇぇ…無理だよわたし…。寂しいよぉぉ…」
私はとうとう泣き出してしまった。
そのとき、ふわりとあたたかい風が吹き、懐かしい香りが鼻腔をついた。この花の香り。薄雪の…。
「…いるの?」
私はあたりを見回した。返事は聞こえない。もう一度風が吹いたりもしなかった。
ただ、カスミソウが揺れている。
「カスミソウ…」
ビール瓶に挿されたカスミソウ。薄雪と出会ってすぐに買いに行ったそれは、1年以上経っても小さな花を咲かせている。それは薄雪が花のあやかしだからで、薄雪がいる限り枯れることはない。
「…このカスミソウが花を咲かせてるってことは、いるのね薄雪」
私はカスミソウを指で撫でた。
「いてくれてるんだね。本当に…。綾目もいてくれてるの?」
そう尋ねると、浴室からシャワーの音がした。ハッとして浴室に駆け込んだけど誰もいない。でも、シャワーからほどよい温度のお湯が出ていた。
「ふふ。シャワーを浴びろって言ってるの?綾目」
私はワッと泣いて床にへたりこんだ。カスミソウを抱きかかえて、シャワーの音に紛れて大声で泣いた。
いる。
薄雪と綾目はまだここにいてくれてる。
私の声を聞いてくれてる。
私の目に映らなくなっても、彼らはまだ私のそばにいてくれてるんだ。
部屋の中で花の香りがする風が吹いたのも、ひとりでにシャワーが出たのもその日だけだった。
でも、1年経っても5年経っても、カスミソウは雪のような花を散らすことなく咲き続けた。
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