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学院編:オヴェルニー学院
【120話】誘拐犯
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アーサーが寝室で横になりながら仮眠をとっていると、少し遠くで誰かが苦しそうに呻く声が聞こえてきた。
「うっ…うぅ…っ、だ、だれか…っ」
「ウィルク王子?!どうされましたか?!」
王子の声に目を覚ましたロイの声が聞こえる。王子の様子を見て「こ、これは…」と呟いた。アーサーも起き上がろうとしたが、その前にロイがアーサーの元へと駆けつける。
「アーサー、君は大丈夫かい?!」
「…?」
おかしい。アーサーは苦しんでいる声なんて出していなかった。それなのにロイはアーサーに声をかけた。まるでこの日、王子とアーサーが苦しむと分かっていたかのような口ぶりだ。アーサーはロイの動向を伺うため、苦しんでるふりをした。
「うぅっ…苦しいっ…」
「顔が真っ青だ…。分かった、医務室へ連れて行くよ。立てるかい?」
「うん…なんとか…」
「良かった。僕は王子を抱えていくから、アーサーは僕に掴まって。さあ、行こう」
ロイは王子を背負い、アーサーの腕を掴んで寝室を出た。ロイに気付かれないようアイテムボックスをひっつかみズボンに挟んだ。アーサーはちらりと王子の様子を伺う。顔が真っ青で手足が痙攣している。
談話室へ出ると、マーサが苦しそうに倒れこんでいた。ロイは彼女に声をかける。症状を見たあと、医務室に連れて行くと言ってマーサに魔法をかけた。風魔法でマーサを浮かせて運ぶ。
(二人の症状…。これは…禁断症状だ)
マーサも王子もチムシーに寄生された人の血を飲んだのか?アーサーは考えを巡らせた。この様子じゃロイが完全に怪しい。モニカは誕生日パーティーの日に禁断症状が出た。パーティーで血の混ざった何かを口に入れた可能性が高い。アーサー自身は禁断症状が出ていないので、彼が口にしていないものだろう。パーティー…ロイ…
(そうか、グレープジュースだ…)
マーサは分からないが、王子もモニカも、あの時グレープジュースを飲んでいた。パーティーでそのジュースを気に入った王子は、あの日からロイに毎日グレープジュースを求めていた。…異常なほどに。そして今日は、ジュースがなくなったからと王子はジュースを飲ませてもらえていなかった。間違いなくそのグレープジュースは血を混ぜて作ったものだろう。
そう言えばロイはアーサーとモニカにも毎日グレープジュースを渡していた。パーティー以降、血が混入している食べ物を警戒して、双子は学院内の食事を一切取らないようにしていたので禁断症状を発症せずに済んだ。
(警戒してて正解だった。…待てよ。グレープジュースを飲んでいた人がもう一人いる…。ジュリア王女だ)
アーサーはぞっとした。ジュリア王女もグレープジュースを気に入って毎日飲んでいた。しかし王子と同じ理由で今日はジュースを飲んでいない。今頃ジュリア王女も禁断症状に苦しんでいるだろう。
(モニカ…!気付いてくれ…ジュリアを守って…)
◇◇◇
ロイは三人を医務室へ連れて行った。夜中に医務室を訪れたロイたちを見てセルジュ先生は穏やかに笑った。
「いらっしゃい」
「先生、彼らの容態を診てあげてください」
「分かった。さあ、ベッドに寝かせてあげて」
アーサー、ウィルク王子、マーサはそれぞれベッドに横たえられた。先生はアーサーの腕に注射器を刺し採血する。ぺろりと血を舐めて首を傾げた。
「おや?」
「先生!吸血欲です!彼らはチムシーに寄生された人の血をロイに飲まされました!!」
アーサーがベッドから起き上がり先生に訴えた。ロイは「なっ…」と後ずさりアーサーを警戒する。
「アーサー、君、どうしてそんなに意識がはっきりしてるの?」
「彼の血はいたって正常だよロイ。さては騙されたね」
「毎日ジュースを渡していたのに…!」
「単純な話だ。警戒していたのだろう。偉いねアーサー。君は賢い子だ」
「え…セルジュ先生…、ロイが犯人です…。失踪事件の犯人はロイなんです。捕まえてください…」
「おや、そんなことまで気付いていたのかい。転入した君がどうしてそんなこと知っているのかな?」
「お父さま…どうしたら…」
「大丈夫だよロイ」
ロイが不安そうにセルジュ先生にしがみついた。先生は優しくロイの頭を撫でる。その光景にアーサーは呆然とした。
「お、お父さま…?」
「さてアーサー。少し薬を打たせてもらうね。君は混乱しているだけだ。ロイが犯人だなんて、めったなことを言うんじゃないよ」
セルジュ先生はそう言ってアーサーの腕を掴んだ。振り払おうとしても力が強くてできない。セルジュ先生に透明の液体が入った注射を打たれた。その瞬間、耐えられない睡魔に襲われアーサーはベッドに倒れこんだ。
「さ、これで大丈夫だよロイ。よく頑張ったね。マーサがいるのは計画外だけど…」
「マーサもジュースを飲んでしまって…」
「なんだって…?私の大切なロイの血を…。許せないね。マーサはチムシーを寄生させておもちゃにしよう」
「ダメですよお父さま。マーサは僕のお気に入りです。おもちゃになんてしませんよ。このまま友人として置いておくつもりだったのですが…。こうなっては仕方ないので僕専用の食糧にします。お父さまは飲んじゃダメですからね」
「ふふ。君の好きなようにしていいよ。…じゃあ、私はこの子たちを連れて先に地下へ行くね。ロイは残り二人を連れてきて」
「分かりました」
「いい子だねロイ。私の愛しい我が子…」
セルジュ先生はロイを抱きしめてから、アーサー、王子、マーサを魔法で浮き上がらせて医務室を出た。
◇◇◇
子どもたちのうめき声で目が覚めた。アーサーは勢いよく起き上がり周囲を見渡した。石造りの空間で、暗く、天井に多数のチムシーがたかっている。アーサーや王子たちは牢屋へ閉じ込められていた。同じ牢屋の中に、よだれを垂らして禁断症状を起こしている6人の子どもが収容されている。彼らはお互いの首に噛みつき血を飲み合っているように見えた。
(この子たちが姿を消していた生徒だ。こんなところへ閉じ込められていたのか!殺されていないだけ良かった。…ここに閉じ込められたってことは、ロイが犯人で間違いないな。それに、セルジュ先生も共犯だ…むしろ先生が主犯かもしれない。ライラとジョアンナ先生も共犯か?それとも僕たちの勘違いか…どっちだ…)
アーサーは6人の生徒の体を調べた。全員にチムシーが寄生している。アーサーは矢でチムシーをはがした。はがされた生徒は気を失った。
次に王子とマーサーの状態を診た。マーサはたいしたことはなかったが、王子の禁断症状がひどかった。3日間にわたって持続的に血を飲まされていたのだから当然だ。
「うぅ…っ」
「はぁっ…うぅ…」
「ウィルク、ちょっと待ってね。血を飲ませるから。ごめんね。僕がついていながらこんなことに…」
アーサーは手首を強く切って王子に押し付けた。朦朧としながら王子はその血を飲んでいる。
「マーサも飲ませてあげるからね。ちょっと待っててね」
「うう…」
マーサはゆらりと起き上がり、アーサーの首に噛みついた。
「動けるんだね。分かった。首を切るからここから飲んで」
王子に飲ませていない方の手で短剣を取り出し、アーサーは自分の首に傷を入れた。首筋にダラダラと垂れる血にマーサが吸い付く。あっと言う間に貧血になり、アーサーの頭がくらくらしてきた。
(ベニートたちはこれを数日間も続けてくれたのか…。ほんとに頭が上がらないよ…)
実際にはベニートたちの方が体が大きく負担が少ないのだが、それでも大変だったことには変わらない。二人に血を与えている間、アーサーはモニカと姫のことを考えた。
(ロイはたぶんモニカたちを連れ去りに行ったよね…。すぐここへ来るはずだ)
「うぅ…ここは…?」
「王子!気が付きましたか…よかった…」
正気に戻った王子はうつろな目であたりを見回した。
「な、なんだここは…!それに彼らは、行方不明になってる生徒たちだ…まさか僕たちも…」
「はい。連れ去られました。ここから脱出しないと…」
「な…な…」
王子は恐怖で体をガタガタ震わせた。アーサーはそんな王子を抱き寄せ声をかけた。
「僕が守ります。命に代えても」
「うっ…うぅ…っ、だ、だれか…っ」
「ウィルク王子?!どうされましたか?!」
王子の声に目を覚ましたロイの声が聞こえる。王子の様子を見て「こ、これは…」と呟いた。アーサーも起き上がろうとしたが、その前にロイがアーサーの元へと駆けつける。
「アーサー、君は大丈夫かい?!」
「…?」
おかしい。アーサーは苦しんでいる声なんて出していなかった。それなのにロイはアーサーに声をかけた。まるでこの日、王子とアーサーが苦しむと分かっていたかのような口ぶりだ。アーサーはロイの動向を伺うため、苦しんでるふりをした。
「うぅっ…苦しいっ…」
「顔が真っ青だ…。分かった、医務室へ連れて行くよ。立てるかい?」
「うん…なんとか…」
「良かった。僕は王子を抱えていくから、アーサーは僕に掴まって。さあ、行こう」
ロイは王子を背負い、アーサーの腕を掴んで寝室を出た。ロイに気付かれないようアイテムボックスをひっつかみズボンに挟んだ。アーサーはちらりと王子の様子を伺う。顔が真っ青で手足が痙攣している。
談話室へ出ると、マーサが苦しそうに倒れこんでいた。ロイは彼女に声をかける。症状を見たあと、医務室に連れて行くと言ってマーサに魔法をかけた。風魔法でマーサを浮かせて運ぶ。
(二人の症状…。これは…禁断症状だ)
マーサも王子もチムシーに寄生された人の血を飲んだのか?アーサーは考えを巡らせた。この様子じゃロイが完全に怪しい。モニカは誕生日パーティーの日に禁断症状が出た。パーティーで血の混ざった何かを口に入れた可能性が高い。アーサー自身は禁断症状が出ていないので、彼が口にしていないものだろう。パーティー…ロイ…
(そうか、グレープジュースだ…)
マーサは分からないが、王子もモニカも、あの時グレープジュースを飲んでいた。パーティーでそのジュースを気に入った王子は、あの日からロイに毎日グレープジュースを求めていた。…異常なほどに。そして今日は、ジュースがなくなったからと王子はジュースを飲ませてもらえていなかった。間違いなくそのグレープジュースは血を混ぜて作ったものだろう。
そう言えばロイはアーサーとモニカにも毎日グレープジュースを渡していた。パーティー以降、血が混入している食べ物を警戒して、双子は学院内の食事を一切取らないようにしていたので禁断症状を発症せずに済んだ。
(警戒してて正解だった。…待てよ。グレープジュースを飲んでいた人がもう一人いる…。ジュリア王女だ)
アーサーはぞっとした。ジュリア王女もグレープジュースを気に入って毎日飲んでいた。しかし王子と同じ理由で今日はジュースを飲んでいない。今頃ジュリア王女も禁断症状に苦しんでいるだろう。
(モニカ…!気付いてくれ…ジュリアを守って…)
◇◇◇
ロイは三人を医務室へ連れて行った。夜中に医務室を訪れたロイたちを見てセルジュ先生は穏やかに笑った。
「いらっしゃい」
「先生、彼らの容態を診てあげてください」
「分かった。さあ、ベッドに寝かせてあげて」
アーサー、ウィルク王子、マーサはそれぞれベッドに横たえられた。先生はアーサーの腕に注射器を刺し採血する。ぺろりと血を舐めて首を傾げた。
「おや?」
「先生!吸血欲です!彼らはチムシーに寄生された人の血をロイに飲まされました!!」
アーサーがベッドから起き上がり先生に訴えた。ロイは「なっ…」と後ずさりアーサーを警戒する。
「アーサー、君、どうしてそんなに意識がはっきりしてるの?」
「彼の血はいたって正常だよロイ。さては騙されたね」
「毎日ジュースを渡していたのに…!」
「単純な話だ。警戒していたのだろう。偉いねアーサー。君は賢い子だ」
「え…セルジュ先生…、ロイが犯人です…。失踪事件の犯人はロイなんです。捕まえてください…」
「おや、そんなことまで気付いていたのかい。転入した君がどうしてそんなこと知っているのかな?」
「お父さま…どうしたら…」
「大丈夫だよロイ」
ロイが不安そうにセルジュ先生にしがみついた。先生は優しくロイの頭を撫でる。その光景にアーサーは呆然とした。
「お、お父さま…?」
「さてアーサー。少し薬を打たせてもらうね。君は混乱しているだけだ。ロイが犯人だなんて、めったなことを言うんじゃないよ」
セルジュ先生はそう言ってアーサーの腕を掴んだ。振り払おうとしても力が強くてできない。セルジュ先生に透明の液体が入った注射を打たれた。その瞬間、耐えられない睡魔に襲われアーサーはベッドに倒れこんだ。
「さ、これで大丈夫だよロイ。よく頑張ったね。マーサがいるのは計画外だけど…」
「マーサもジュースを飲んでしまって…」
「なんだって…?私の大切なロイの血を…。許せないね。マーサはチムシーを寄生させておもちゃにしよう」
「ダメですよお父さま。マーサは僕のお気に入りです。おもちゃになんてしませんよ。このまま友人として置いておくつもりだったのですが…。こうなっては仕方ないので僕専用の食糧にします。お父さまは飲んじゃダメですからね」
「ふふ。君の好きなようにしていいよ。…じゃあ、私はこの子たちを連れて先に地下へ行くね。ロイは残り二人を連れてきて」
「分かりました」
「いい子だねロイ。私の愛しい我が子…」
セルジュ先生はロイを抱きしめてから、アーサー、王子、マーサを魔法で浮き上がらせて医務室を出た。
◇◇◇
子どもたちのうめき声で目が覚めた。アーサーは勢いよく起き上がり周囲を見渡した。石造りの空間で、暗く、天井に多数のチムシーがたかっている。アーサーや王子たちは牢屋へ閉じ込められていた。同じ牢屋の中に、よだれを垂らして禁断症状を起こしている6人の子どもが収容されている。彼らはお互いの首に噛みつき血を飲み合っているように見えた。
(この子たちが姿を消していた生徒だ。こんなところへ閉じ込められていたのか!殺されていないだけ良かった。…ここに閉じ込められたってことは、ロイが犯人で間違いないな。それに、セルジュ先生も共犯だ…むしろ先生が主犯かもしれない。ライラとジョアンナ先生も共犯か?それとも僕たちの勘違いか…どっちだ…)
アーサーは6人の生徒の体を調べた。全員にチムシーが寄生している。アーサーは矢でチムシーをはがした。はがされた生徒は気を失った。
次に王子とマーサーの状態を診た。マーサはたいしたことはなかったが、王子の禁断症状がひどかった。3日間にわたって持続的に血を飲まされていたのだから当然だ。
「うぅ…っ」
「はぁっ…うぅ…」
「ウィルク、ちょっと待ってね。血を飲ませるから。ごめんね。僕がついていながらこんなことに…」
アーサーは手首を強く切って王子に押し付けた。朦朧としながら王子はその血を飲んでいる。
「マーサも飲ませてあげるからね。ちょっと待っててね」
「うう…」
マーサはゆらりと起き上がり、アーサーの首に噛みついた。
「動けるんだね。分かった。首を切るからここから飲んで」
王子に飲ませていない方の手で短剣を取り出し、アーサーは自分の首に傷を入れた。首筋にダラダラと垂れる血にマーサが吸い付く。あっと言う間に貧血になり、アーサーの頭がくらくらしてきた。
(ベニートたちはこれを数日間も続けてくれたのか…。ほんとに頭が上がらないよ…)
実際にはベニートたちの方が体が大きく負担が少ないのだが、それでも大変だったことには変わらない。二人に血を与えている間、アーサーはモニカと姫のことを考えた。
(ロイはたぶんモニカたちを連れ去りに行ったよね…。すぐここへ来るはずだ)
「うぅ…ここは…?」
「王子!気が付きましたか…よかった…」
正気に戻った王子はうつろな目であたりを見回した。
「な、なんだここは…!それに彼らは、行方不明になってる生徒たちだ…まさか僕たちも…」
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