【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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学院編:オヴェルニー学院

【119話】ライラの正体

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夜中、友人たちの寝息が聞こえる中、モニカは目を閉じながら考え事をしていた。さきほどアーサーが話していた弓術の先生の怪しい呼び出し。数日前夜中に弓を持って寮を出て行ったライラ。二人が無関係とはとても思えない。どちらも夜中に何かをしている。そう考えて間違いないだろう。

(アーサーの筋肉を触って、先生が"これなら、あの子も…"って言ってたのよね。"あの子も…"それに続く言葉はなに…?)

モニカはアーサーに聞いた話を反芻する。ジョアンナ先生はアーサーの体中を触ってからそう言った。質の良い筋肉と確かめたあとに…。ゾッとする推察に辿り着いてしまい、モニカは顔を真っ青にして手を口元に当てた。

"これなら、あの子もきっと気に入るわ"

(ライラの名産は干し肉…。それに、あの子は日ごろから野菜や果物が苦手でお肉しか食べない。も…もし…ジョアンナ先生が誘拐犯で、先生が言っていた"あの子"がライラのことだったら…。誘拐した生徒をライラに差し出していたとしたら…。ラ…ライラが…人の…生徒たちの…)

モニカは首を振り自分の頬を軽く叩いた。

(確証のない悪い想像ばかりしてても仕方ないわ。まずはアーサーのことを考えなくちゃ。明日の夜、間違いなくアーサーの身に何かが起こる。アーサーが誘拐されたら犯人はジョアンナ先生で決まりだわ。そしてもし、明日の夜にライラも姿を消したら…その時は私も受け入れるしかないわね…。

私はどうしたらいい?見つからないようにあとをつけてカミーユに伝書インコを飛ばすべきか…でもそれだとアーサーの命が危険に晒されるかもしれない…。かと言って私まで乗り込んで、もし二人とも助からなかったら、この失踪事件は今後も続くことになる…)

「はぁっ…うぅっ…」

「っ?!」

考えを巡らせている時、近くで誰かが苦しむ声が聞こえてきた。モニカはベッドから起き上がり声を主を探した。声の主は、ジュリア王女だ。そばにライラが立っている。モニカに気付いた彼女は狼狽している様子だった。

「ライラ…?なにをしているの…?」

「モ、モニカ…。お、お、王女が苦しそうな声を出していたから目が覚めて様子を見ていたの…」

「…王女になにかした…?」

「し、してないよ!本当に突然苦しそうな声をあげたの」

王女のうめき声はそれほど大きくない。ベッドが隣同士だからと言ってこの声で目を覚ますものだろうか。考えれば考えるほどライラが怪しく見えてくる。モニカは苦い顔をしてライラを見つめた。その表情に耐えられずライラは目を背けた。苦しみに耐えられないのか、ジュリア王女が震える手でモニカの手首を掴んだ。モニカは王女を抱えて容態を診た。

「ジュリア王女!症状を教えてくださいっ!」

「苦しいっ…喉がっ…」

ジュリア王女の蒼白な顔を見てモニカはハッとした。禁断症状だ。慌てて王女のアイテムボックスをまさぐり短剣を取り出した。手首を切り、王女に血を飲ませる。王女は虚ろな目でモニカの血をこくこくと飲み、しばらくしたら意識がはっきりしてきた。

「私、なにを…」

「吸血欲の禁断症状が出ています」

「吸血欲…?」

「王女、最近誰かの血は飲みましたか?」

「そんなもの…飲むわけがないでしょう…」

「そ、そうですよね」

「しょ、症状がおさまった…。少し容態を診ただけなのに…。モニカ、あなた一体…」

モニカの背後でライラが訝し気な声を出している。手首に回復魔法をかけながらライラの方に向き直った。

(この暗闇で私が何をしていたのか見えているのね。少なくとも私と同じくらいには夜目がきいてる。ライラ、この子がただの貴族の生徒じゃないのは間違いないわ)

「モニカ…そんな目で私を見ないで…。もしかして、わ、私が王女に何かしたと思ってるの?」

「……」

「黙らないで…。本当に私はなにもしてないの。信じて…」

「ライラごめんなさい。信じられないわ。あなたこそ一体何者なの?」

「わ、私は、何者でもないわ…」

「そう…」

手首を治し終わると、モニカはライラの腕を掴んだ。驚いたライラは咄嗟にモニカの手を振り払った。魔法使いとは思えないほどの腕力。

「ひっ?!」

「ライラ。どうしてこの前夜中に寮を出たの?」

「っ…。どうしてそれを…」

「あの時わたし、談話室にいたの。あなたが朝まで帰ってこなかったことも知っているわ。…あなた、あの時なにをしていたの?」

モニカの質問にライラは唇を噛んだ。泣きそうな顔でちらりとモニカを見て、ぽそりと呟いた。

「本当のこと言ったら、私が王女になにもしていないって信じてくれる…?」

「…ええ」

「わ、私、実は…」

ライラはそう言いながら腰に付けていたアイテムボックスをまさぐり始めた。攻撃をしかけてくるかもしれないと警戒したモニカは、ジュリア王女を守るように前へ立ち、魔法をいつでも放てるように両手を前に出した。

アイテムボックスから出てきたのは一枚のカードだった。モニカはそれを受け取り、光魔法で照らした。

「…A級…アーチャー…?」

「わ、私ね、魔法はてんでだめだけど、実は弓が得意なの。A級アーチャーの資格も持ってるのよ。剣も槍も、武器はある程度どれも使いこなせるわ。でも、う、うちの家は魔法も武器も全部使いこなさないといけないの。だから学院では一番苦手な魔法の授業を受けてるのよ。…苦手な魔法ばかりやってると、時々すごくむしゃくしゃしちゃうときがあるから、よ、夜中にこっそり抜け出して訓練場で弓を射てたの。授業終わりとかだと私の弓術を見学する生徒たちがたくさんいて居心地が悪いから…」

「へ…?」

モニカは口をあんぐり開けてライラを見た。

「じゃ…じゃあ、ジョアンナ先生とも関係ないの…?」

「ジョアンナ?ど、どうして私とジョアンナが関係あるって分かったの?ジョアンナは私の領地出身のアーチャーで、よ、幼少時代に弓を教えてもらってたの。でも学院で再会したときには、もう私の方が弓術が上回ってて…。ジョアンナはそんな私に負い目を感じて、ず、ずっと私に弓術を教えられるくらい優秀な人を探しているの。…そ、そ、そんな必要ないって言ってるのに、ジョアンナには全然伝わらなくて…」

「モニカ、あなたライラと仲が良いのにそんなことも知らなかったの?ライラが一流のアーチャーだと言うことは、誰もが知ってることよ」

後ろで聞いていたジュリア王女が呆れたようにそう言った。

「あなたが肉しか食べないのは…?」

「わ、私の領地、干し肉が名産でしょ?小さいときからずっとお肉ばかり食べてたの。そ、そしたら、肉以外は食べ物と認識できなくなっちゃって…」

「……」

モニカはジョアンナ先生にアーサーが明日の夜呼び出されていることをライラに伝えた。ライラはため息をついている。

「わ、私も明日の夜ジョアンナの部屋に呼び出されていたわ。ちらっとアーサーが弓を射てるところを見たことがあるけど、か、か、彼は私よりも上手ね。だ、だからアーサーだったら私に弓術を教えられると思ったんだわ…。もう、ジョアンナったら…また勝手なことして…」

ライラの話しぶりは嘘をついているように思えない。モニカとアーサーは盛大な勘違いをしていたようだ。モニカは顔を真っ赤にしてライラに謝った。

「ライラ本当にごめんなさい!!私、あなたのことを疑っちゃってた…」

「う、ううん。いいの。誤解が解けてよかったよ。王女になにもしてないっていうのも信じてくれる?」

「信じるっ…!うう…本当にごめんなさい…」

「気にしないで。そ、それより王女は大丈夫ですか…?とても苦しそうだったけど…」

「ええ…モニカの血を飲んでから体が楽になったわ…。モニカ、ありがとう」

「良くなってよかったです。でも、おそらくこの症状は数日続くと思います。苦しくなったら私のところへ来てください。血を飲めば楽になりますから」

モニカはそう言ってしばらく王女の様子を見ていた。ライラも傍でしゃがんでいる。彼女が犯人でなかったことに、重くのしかかっていたものがスッとなくなった。

「モニカ、ど、どうして笑ってるの?」

「あらモニカ。私が苦しいところを見て喜んでいるの?いやな子ね」

「ちっ、ちがいます!姫に何かしたのがライラじゃなくてホッとしただけです!」

「ふふ、分かっているわ。冗談よ」

ジュリア王女とライラがクスクスと笑った。それにつられてモニカもにへらと笑う。だが、ひとつの疑問が浮かび上がった。

(あれ…?じゃあ誰が…)

そのとき、コンコンと寝室のドアをノックする音が聞こえた。

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