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異国編:ジッピン後編:別れ
【285話】ほんのりピンク
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「う~ん…」
モニカが声を漏らしながら目を覚ますと、キヨハルと話していたアーサーが駆け寄ってきた。すぐあとでキヨハルもモニカの顔を覗き込む。アーサーとキヨハルが、ぼんやりした目をしているモニカの容態を診た。
「うん。脳に異常はなさそうだ。脈拍にも問題はないね」
「モニカ、気分が悪いとか、違和感とかない?」
「うん…ないと思う…」
「よかったぁぁ…!」
「ふむ。綺麗に抜けてくれたみたいだね。運が良かったのか、朝霧がよほど憑依し慣れているのか、はたまたモニカと朝霧の魔力と妖力の相性が良かったのか…」
「ねえ、なにがあったの?わたしウィルクのカタナを買ったところくらいまでしか覚えてない…」
泣きそうな顔でモニカに抱きついたアーサーと、安堵の表情を浮かべているキヨハルにモニカは少し戸惑った。どうやら記憶が途切れている間になにかあったらしい。
アーサーは朝霧をモニカの目の前にかざした。
「この脇差に憑依されてたんだよ」
「ヒョウイ…?えっ?!わたしこのワキザシにヒョウイされてたの?!ていうかワキザシも杖みたいに自我があるってこと?!」
「そうらしいよ…。憑依されたときのモニカこわかったよぉ…。口が悪いし僕のこと蹴るし…睨まれておしっこちびるかと思っちゃったよぉ…」
朝霧モニカを思い出したのか、アーサーがぶるっと震えて情けない顔をした。それを聞いたモニカはぷんぷん怒りだした。
「なんですって?!アーサーを蹴ったの?!許せない!!ねえ!ワキザシさん!!聞いてる?!」
モニカは兄が持っていたワキザシを引っ掴み大声で叫んだ。だが双子の耳に朝霧の声は届かない。
「…僕にはなにも聞こえないなあ…」
「私も…」
「……」
「まあいいわ!聞こえてる前提で言うからね!!勝手に私のからだにヒョウイしないで!!あとアーサーを傷つけたりしたらダメだからね!!次そんなことしたら火あぶりと雷と氷漬けの刑よ!!」
「想像しただけでおそろしいよぉ…」
アーサーは自分がモニカの魔法によって火あぶりにされたあと雷を落とされ、トドメに氷漬けされるところを想像してブルっと震えた。
「あ、モニカ。キヨハルさんにお礼言った方がいいよ。ワキザシをモニカの体から追い出してくれたのがキヨハルさんだから」
「そうなんだ!へえ、キヨハルさんってそんなこともできるんだね!」
「ね!僕びっくりしちゃった!扇子でワキザシを受け流してたんだよ!すごいよね!それにワキザシとキヨハルさんが戦ってたとき、突風がビュンって吹いたんだ!まるでモニカの風魔法みたいだったよ!」
「へー!!それってジッピンでいう術なのかしら。ジッピン人って術を使うのは女の人だけかと思ってたけどそうじゃないのね!」
「確かに!シュケグミの人は基本そうだって言ってたよね。キヨハルさんは特別にどっちも使えるのかなあ?前にノリスケが言ってたよ。キヨハルさんは治癒術に長けてるって。それにワキザシと戦ってるときのキヨハルさん、すごく戦い慣れてる感じがしたよ。きっとキヨハルさんは剣も術も得意なんだね!」
「どっちも使えるなんてすごいねー!!」
「ね!ほらモニカ、キヨハルさんにお礼を言って?」
「うん!キヨハル!」
「……」
「?」
モニカが話しかけてもキヨハルから返事がない。キヨハルを見ると、耳の穴に指を突っ込み顔をしかめている。モニカはもう一度名前を呼んだ。
「キヨハルー」
「……」
「キヨハルー!!」
「っと、モニカ、呼んだかい?」
「あ、気が付いたみたいだね。呼んだかい?て言ってるよ」
「ヨンダ!」
「すまないね。ちょっと外野がうるさくて…」
「?」
「それで、どうしたんだい?」
「アスケエゥエ エリガオ!」
「タスケテクレテ アリガトウ ッテ イッテル!」
「ああ、どういたしまして。…そうだアーサー、モニカに脇差を手放すかどうかの相談をしなさい」
「アッ、ウン!ソウダッタ!ねえモニカ、キヨハルさんはね、危険だからワキザシを手放しなさいって言ってるよ」
「あらそうなの?」
「うん…」
頷いたアーサーの表情が少し陰った。
「…アーサーはどう思う?」
「僕は…手放さない方がいいと思う。…モニカがまた危険な目にあうかもしれないけど…。なんだか分からないけど、手放しちゃだめな気がするんだ」
「そう。じゃあ手放さないわ」
「えっ、いいの?だってもしかしたらまた憑依されるかもしれないんだよ?」
「うん。アーサーがそう言うなら、私は手放さないわ。それに、自我があるものを私の都合だけで手放すなんてあんまりだわ。きっとこれも何かの縁よ」
モニカの言葉を聞いて、アーサーは心配しながらもホッとしているような表情をした。そして、ワキザシに頼まれていた伝言を伝える。
「あのねモニカ。このワキザシ、アサギリって名前らしいんだ」
「アサギリ…?」
「うん。それでね、アサギリから伝言を頼まれてて。まずひとつめが"守ってあげられなくてごめん”ってこと。そしてもうひとつが"毎晩アサギリを抱いて寝ろ"って」
伝言を聞いてもよく分からなかったモニカは「うーん?」と首をかしげた。
「守ってあげられなくてごめん…?守ってもらうような状況になった覚えがないけど…」
「だよね?モニカがアサギリを持ってから、そんな危険な目に遭ってないんだよ僕たち。今日の森だって危なげなかったし」
「ね。よく分からないなあ。…でも、私を守ってくれようとしてるんだね、アサギリは!」
「うん!」
「毎晩抱いて寝ろって言うのもよく分からないけど、とりあえずやってみるわ!」
「そうだね!」
「アーサー、さっきの伝言を聞いて、私も手放しちゃいけないって思ったわ。私の体に勝手にヒョウイしたっていうのはいやだったし、アーサーに暴力を振るったことは今でも怒ってるけど。アサギリはアサギリできっと考えがあったのよね」
モニカはそう言ってワキザシを抜き刃を眺めた。刃の角度を変えながら、モニカは微かに笑みを浮かべている。
「それになんだかアサギリのこと嫌いになれないのよね~。どうしてだろう。アサギリに対して、わたしが可愛がってあげなくちゃって思っちゃうの」
「あはは。でもアサギリってかわいがられるってガラじゃないよ?すっごくこわいんだよぉ…?」
「そうなのー?きっと言葉と態度だけよ。ほんとは優しい子なのよね、アサギリ?」
「あれっ?」
「どうしたの?」
「モニカ見て。刀身全体がほんのりピンク色になってない?」
「わっ!ほんとだ!照れてるのかな?」
「あはは!そうかもー!!なぁんだ!モニカの言う通り、アサギリってかわいいのかも!!」
「あっ、もっとピンク色になったー」
アサギリを眺めてキャハキャハ笑う双子を少し離れた場所で見ていたキヨハルは、小さなため息をついてもう片方の耳も小指で塞いだ。彼は誰にも聞こえない声でボソリと呟く。
「…私の鼓膜を破る気かい?朝霧」
モニカが声を漏らしながら目を覚ますと、キヨハルと話していたアーサーが駆け寄ってきた。すぐあとでキヨハルもモニカの顔を覗き込む。アーサーとキヨハルが、ぼんやりした目をしているモニカの容態を診た。
「うん。脳に異常はなさそうだ。脈拍にも問題はないね」
「モニカ、気分が悪いとか、違和感とかない?」
「うん…ないと思う…」
「よかったぁぁ…!」
「ふむ。綺麗に抜けてくれたみたいだね。運が良かったのか、朝霧がよほど憑依し慣れているのか、はたまたモニカと朝霧の魔力と妖力の相性が良かったのか…」
「ねえ、なにがあったの?わたしウィルクのカタナを買ったところくらいまでしか覚えてない…」
泣きそうな顔でモニカに抱きついたアーサーと、安堵の表情を浮かべているキヨハルにモニカは少し戸惑った。どうやら記憶が途切れている間になにかあったらしい。
アーサーは朝霧をモニカの目の前にかざした。
「この脇差に憑依されてたんだよ」
「ヒョウイ…?えっ?!わたしこのワキザシにヒョウイされてたの?!ていうかワキザシも杖みたいに自我があるってこと?!」
「そうらしいよ…。憑依されたときのモニカこわかったよぉ…。口が悪いし僕のこと蹴るし…睨まれておしっこちびるかと思っちゃったよぉ…」
朝霧モニカを思い出したのか、アーサーがぶるっと震えて情けない顔をした。それを聞いたモニカはぷんぷん怒りだした。
「なんですって?!アーサーを蹴ったの?!許せない!!ねえ!ワキザシさん!!聞いてる?!」
モニカは兄が持っていたワキザシを引っ掴み大声で叫んだ。だが双子の耳に朝霧の声は届かない。
「…僕にはなにも聞こえないなあ…」
「私も…」
「……」
「まあいいわ!聞こえてる前提で言うからね!!勝手に私のからだにヒョウイしないで!!あとアーサーを傷つけたりしたらダメだからね!!次そんなことしたら火あぶりと雷と氷漬けの刑よ!!」
「想像しただけでおそろしいよぉ…」
アーサーは自分がモニカの魔法によって火あぶりにされたあと雷を落とされ、トドメに氷漬けされるところを想像してブルっと震えた。
「あ、モニカ。キヨハルさんにお礼言った方がいいよ。ワキザシをモニカの体から追い出してくれたのがキヨハルさんだから」
「そうなんだ!へえ、キヨハルさんってそんなこともできるんだね!」
「ね!僕びっくりしちゃった!扇子でワキザシを受け流してたんだよ!すごいよね!それにワキザシとキヨハルさんが戦ってたとき、突風がビュンって吹いたんだ!まるでモニカの風魔法みたいだったよ!」
「へー!!それってジッピンでいう術なのかしら。ジッピン人って術を使うのは女の人だけかと思ってたけどそうじゃないのね!」
「確かに!シュケグミの人は基本そうだって言ってたよね。キヨハルさんは特別にどっちも使えるのかなあ?前にノリスケが言ってたよ。キヨハルさんは治癒術に長けてるって。それにワキザシと戦ってるときのキヨハルさん、すごく戦い慣れてる感じがしたよ。きっとキヨハルさんは剣も術も得意なんだね!」
「どっちも使えるなんてすごいねー!!」
「ね!ほらモニカ、キヨハルさんにお礼を言って?」
「うん!キヨハル!」
「……」
「?」
モニカが話しかけてもキヨハルから返事がない。キヨハルを見ると、耳の穴に指を突っ込み顔をしかめている。モニカはもう一度名前を呼んだ。
「キヨハルー」
「……」
「キヨハルー!!」
「っと、モニカ、呼んだかい?」
「あ、気が付いたみたいだね。呼んだかい?て言ってるよ」
「ヨンダ!」
「すまないね。ちょっと外野がうるさくて…」
「?」
「それで、どうしたんだい?」
「アスケエゥエ エリガオ!」
「タスケテクレテ アリガトウ ッテ イッテル!」
「ああ、どういたしまして。…そうだアーサー、モニカに脇差を手放すかどうかの相談をしなさい」
「アッ、ウン!ソウダッタ!ねえモニカ、キヨハルさんはね、危険だからワキザシを手放しなさいって言ってるよ」
「あらそうなの?」
「うん…」
頷いたアーサーの表情が少し陰った。
「…アーサーはどう思う?」
「僕は…手放さない方がいいと思う。…モニカがまた危険な目にあうかもしれないけど…。なんだか分からないけど、手放しちゃだめな気がするんだ」
「そう。じゃあ手放さないわ」
「えっ、いいの?だってもしかしたらまた憑依されるかもしれないんだよ?」
「うん。アーサーがそう言うなら、私は手放さないわ。それに、自我があるものを私の都合だけで手放すなんてあんまりだわ。きっとこれも何かの縁よ」
モニカの言葉を聞いて、アーサーは心配しながらもホッとしているような表情をした。そして、ワキザシに頼まれていた伝言を伝える。
「あのねモニカ。このワキザシ、アサギリって名前らしいんだ」
「アサギリ…?」
「うん。それでね、アサギリから伝言を頼まれてて。まずひとつめが"守ってあげられなくてごめん”ってこと。そしてもうひとつが"毎晩アサギリを抱いて寝ろ"って」
伝言を聞いてもよく分からなかったモニカは「うーん?」と首をかしげた。
「守ってあげられなくてごめん…?守ってもらうような状況になった覚えがないけど…」
「だよね?モニカがアサギリを持ってから、そんな危険な目に遭ってないんだよ僕たち。今日の森だって危なげなかったし」
「ね。よく分からないなあ。…でも、私を守ってくれようとしてるんだね、アサギリは!」
「うん!」
「毎晩抱いて寝ろって言うのもよく分からないけど、とりあえずやってみるわ!」
「そうだね!」
「アーサー、さっきの伝言を聞いて、私も手放しちゃいけないって思ったわ。私の体に勝手にヒョウイしたっていうのはいやだったし、アーサーに暴力を振るったことは今でも怒ってるけど。アサギリはアサギリできっと考えがあったのよね」
モニカはそう言ってワキザシを抜き刃を眺めた。刃の角度を変えながら、モニカは微かに笑みを浮かべている。
「それになんだかアサギリのこと嫌いになれないのよね~。どうしてだろう。アサギリに対して、わたしが可愛がってあげなくちゃって思っちゃうの」
「あはは。でもアサギリってかわいがられるってガラじゃないよ?すっごくこわいんだよぉ…?」
「そうなのー?きっと言葉と態度だけよ。ほんとは優しい子なのよね、アサギリ?」
「あれっ?」
「どうしたの?」
「モニカ見て。刀身全体がほんのりピンク色になってない?」
「わっ!ほんとだ!照れてるのかな?」
「あはは!そうかもー!!なぁんだ!モニカの言う通り、アサギリってかわいいのかも!!」
「あっ、もっとピンク色になったー」
アサギリを眺めてキャハキャハ笑う双子を少し離れた場所で見ていたキヨハルは、小さなため息をついてもう片方の耳も小指で塞いだ。彼は誰にも聞こえない声でボソリと呟く。
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