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北部編:決断
脅し
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それまで静かに話を聞いていたカトリナが、サンプソンの背後から声をかける。
「サンプソン、ひとまずカミーユに最後まで話させてあげてくれるかしらァ?」
「……カトリナ。でもね、僕にだって思うところが……」
「あとでゆっくり話を聞いてあげるから、ね?」
「……」
にっこり笑うカトリナに、サンプソンは溢れてくる言葉をグッと飲みこんだ。サンプソンが静かになったので、カミーユが安堵の吐息を漏らし、再び口を開く。
「あー、どこまで話したんだっけか。そうだ、アーサーが統治者にならねえっつーんなら、サンプソンを統治者にしてでも俺らは反乱を起こすつもりだっつーとこまで話したな。つまりだ、お前が統治者になってもならなくても、反乱は起こす」
「……」
カミーユの言葉に、アーサーは顔を歪めた。
(ってことは、どっちにしろヴィクスたちは処刑されるってことじゃないか……)
「だが」
カミーユは葉巻を吸い、一息ついてからこう言った。
「お前が統治者になるっていうんなら、ヴィクス王子、ジュリア王女、ウィルク王子の命は、俺らが保障する」
「っ!!」
「もちろん、民の反対を押し切って無理やりって形になるだろうから、王子王女は自由に生活できるわけじゃねえ。どこかでこっそり隠居してもらうことにはなるだろう。それでも、おまえらにとっちゃあ処刑されるよりはマシだろ?」
「……」
「ヴィクス王子はお前を統治者にさせるために動いている。だからお前が先頭に立てば、裏でヴィクス王子が動き、ほぼ確実に王政をぶっ潰せる流れにしてくれるだろう。だが、お前の協力を得られない……つまり、ヴィクス王子の意に沿わねえ反乱となると、成功率はグンと下がる……っつーか、ほぼ失敗に終わるだろうな。だから俺らはどうにかお前に動いてもらいてえんだ」
「……」
「反乱が失敗すれば、王子と王女はもちろん処刑されねえ。だが、その代わりにここにいる全員が処刑される。お前ら以外……もちろん、俺の家族のシャナもユーリもだ」
「そ、そんな……」
「どうする、アーサー。統治者になるか、弟妹を見殺しにするか。もしくはここにいる全員を見殺しにするか。お前が見る未来は、このみっつのうちのどれかだ」
「おいカミーユ、言い方!」
リアーナが声を荒げカミーユの脚を蹴ったが、カミーユは冷たい目で彼女を見下ろす。
「リアーナ。黙ってろ」
「なんだ! やんのかぁ!?」
「悪いが、お前とやってる時間はねえんだ。早くしねえとヴィクス王子が次にどんなことをしてくるか分んねえ。俺らがこうしてえっちらほっちら話している間にも、誰かが死んでるかもしれねえんだぞ」
「だからってあんな言い方ねえだろって言ってんだよ!!」
「どんな言い方をしたって、アーサーにとっては同じことだ。そうだろ、アーサー」
「……」
「俺はお前を脅している。弟妹を殺されたくねえなら、もしくはここにいる全員が処刑されたくねえなら、統治者になれ」
アーサーは唇を噛み、カミーユの目を見る。アーサーの目も、カミーユの目も、いつもの大好きな人へ向けるものではなかった。
ギリギリと歯ぎしりをして、カミーユを睨みつけるアーサー。
冷たい目で威圧的に、アーサーを見下ろすカミーユ。
二人の雰囲気に、モニカの胸がざわざわした。
「ついでに伝えといてやる。今、ダフ、シリル、ライラ、クラリッサは、ヴィクス王子の近衛兵となっている」
「!!」
「ヴィクス王子がこいつらにどういう指示を出すかにもよるが……。お前も……俺たちも、もしかしたらあいつらと殺し合いをしなきゃいけねえことになるかもしんねえ。こればっかりは、そん時になってみないと分かんねえがな」
「っ……」
彼の言葉にクルドが声をあげて泣き出したので、マデリアが慌てて沈黙魔法をかけて静かにさせた。
モニカは顔を真っ青にして、カミーユパーティとベニートパーティに視線を向ける。
「え……? み、みんな、そ……それでいいの……? ダフたちと……特訓の時、あんなに楽しい時間を過ごしてたのに……こ、殺し合いなんて……」
答えたのはジルだった。
「君たちには考えられないかもしれないけど、味方だった人が敵になるのはよくあることだよ。僕たちだってダフたちのことは気に入ってたから残念だけど……万が一対立することになったら、仕方ないと思ってる」
「そんな……」
たまらず、アーサーは大声をあげた。
「おかしい……。おかしいよみんな!! どうして急にこんなことになってるの!? 昨日まで楽しくのんびり過ごしてたのに……!! なんで……なんで、こんな……」
「ヴィクス王子の意図にやっと気付いたからだ」
「……カミーユ……カミーユが僕に言ったんじゃないか……〝これ以上、人は殺すなよ〟って……」
「……」
「僕、あれから一人も人を殺してないんだよ……。カミーユがダメだって言ったから、約束を守ってきたんだよ……! ウィルクにだって、そう教えた……! そしたらウィルクも人を殺さなくなったんだよ……! ねえ、カミーユ……! あの約束はなんだったの!?」
アーサーは項垂れ、涙で濡れた顔を手で覆う。
「……それなのに……どうして殺させようとしてるの……? それも、大好きな人たちを……」
「……民を守るためだ」
「誰も死なない方法はないの!? 誰かが死なないとダメなの!?」
「もう何百人も死んでんだよ!!」
「っ……」
「アーサー。俺らは今まで、お前らに綺麗なことしかさせてこなかった! できるならお前らの手なんて汚させたくなかったからな。それで勘違いさせたか!? 綺麗なことだけで、すべてが丸く収まってきたと、本当にそう思ってるのか!?」
「……」
「お前らの代わりに、汚い仕事は全部、俺らやヴィクス王子がやってきたんだよ!! お前らの知らないところで、俺らはずっと体張って、手を汚してきたんだ!!」
アーサーの胸ぐらを掴むカミーユの手はひどく震えていた。
「いつまで赤ちゃんぶってんだ!! いい加減大人になれ!!」
声を荒らげるカミーユの腕に、シャナがそっと手を添える。
「カミーユ、ストップ」
「っ……」
「それは言わない約束よ。これ以上、アーサーが思いつめるようなことは言わないで頂戴」
「……すまねえ。頭に血が上っちまった。こんなこと言うつもりじゃ……。アーサー、すまねえ」
「こんなこと、言われてすぐに決断できるわけないでしょう? アーサーとモニカに、考える時間を与えてあげて。いいでしょう?」
「……ああ」
我に返ったカミーユは、先ほどとは打って変わって泣きそうな顔でアーサーを見た。
アーサーは俯き、ただただ泣いていた。
「……アーサー」
カミーユが手を伸ばし、アーサーの頬に手を添えると、アーサーは一瞬ビクッとしたものの、拒絶はしなかった。
「本当に、悪かった」
「……僕も、ごめんなさい」
「お前が謝ることなんていっこもねえって言ってるだろ……。すまねえ」
アーサーは首を横に振り、遠慮がちにカミーユの手を握る。
「少し、考えさせて。考えなきゃいけないことがいっぱいで、頭がおいつかないんだ」
「おう。そうしてくれ。……民を救うために、俺はお前を使おうとしてる。それを隠すつもりはねえ」
「うん」
「ヴィクス王子を止められるのは……ヴィクス王子に望む未来を与えられるのは、お前とモニカだけなんだ。どうか……この国を……ヴィクス王子を、救ってやって欲しい。俺が本当に言いたかったのは、これだった」
「……うん」
「余計なことを言ってすまなかった。本当に、すまなかった。……じゃあ、俺は頭冷やしてくるから」
「うん。おやすみ、カミーユ」
「おやすみ、アーサー」
その後カミーユは吹雪が吹き荒れる中、アジトの外でずっと葉巻を吸っていた。そこに、モニカが選んだ毛皮のコートを羽織ったユーリがやってきて、彼の隣に座る。
「父さんのばか」
「……ああ。とんだバカだ」
「サンプソン、ひとまずカミーユに最後まで話させてあげてくれるかしらァ?」
「……カトリナ。でもね、僕にだって思うところが……」
「あとでゆっくり話を聞いてあげるから、ね?」
「……」
にっこり笑うカトリナに、サンプソンは溢れてくる言葉をグッと飲みこんだ。サンプソンが静かになったので、カミーユが安堵の吐息を漏らし、再び口を開く。
「あー、どこまで話したんだっけか。そうだ、アーサーが統治者にならねえっつーんなら、サンプソンを統治者にしてでも俺らは反乱を起こすつもりだっつーとこまで話したな。つまりだ、お前が統治者になってもならなくても、反乱は起こす」
「……」
カミーユの言葉に、アーサーは顔を歪めた。
(ってことは、どっちにしろヴィクスたちは処刑されるってことじゃないか……)
「だが」
カミーユは葉巻を吸い、一息ついてからこう言った。
「お前が統治者になるっていうんなら、ヴィクス王子、ジュリア王女、ウィルク王子の命は、俺らが保障する」
「っ!!」
「もちろん、民の反対を押し切って無理やりって形になるだろうから、王子王女は自由に生活できるわけじゃねえ。どこかでこっそり隠居してもらうことにはなるだろう。それでも、おまえらにとっちゃあ処刑されるよりはマシだろ?」
「……」
「ヴィクス王子はお前を統治者にさせるために動いている。だからお前が先頭に立てば、裏でヴィクス王子が動き、ほぼ確実に王政をぶっ潰せる流れにしてくれるだろう。だが、お前の協力を得られない……つまり、ヴィクス王子の意に沿わねえ反乱となると、成功率はグンと下がる……っつーか、ほぼ失敗に終わるだろうな。だから俺らはどうにかお前に動いてもらいてえんだ」
「……」
「反乱が失敗すれば、王子と王女はもちろん処刑されねえ。だが、その代わりにここにいる全員が処刑される。お前ら以外……もちろん、俺の家族のシャナもユーリもだ」
「そ、そんな……」
「どうする、アーサー。統治者になるか、弟妹を見殺しにするか。もしくはここにいる全員を見殺しにするか。お前が見る未来は、このみっつのうちのどれかだ」
「おいカミーユ、言い方!」
リアーナが声を荒げカミーユの脚を蹴ったが、カミーユは冷たい目で彼女を見下ろす。
「リアーナ。黙ってろ」
「なんだ! やんのかぁ!?」
「悪いが、お前とやってる時間はねえんだ。早くしねえとヴィクス王子が次にどんなことをしてくるか分んねえ。俺らがこうしてえっちらほっちら話している間にも、誰かが死んでるかもしれねえんだぞ」
「だからってあんな言い方ねえだろって言ってんだよ!!」
「どんな言い方をしたって、アーサーにとっては同じことだ。そうだろ、アーサー」
「……」
「俺はお前を脅している。弟妹を殺されたくねえなら、もしくはここにいる全員が処刑されたくねえなら、統治者になれ」
アーサーは唇を噛み、カミーユの目を見る。アーサーの目も、カミーユの目も、いつもの大好きな人へ向けるものではなかった。
ギリギリと歯ぎしりをして、カミーユを睨みつけるアーサー。
冷たい目で威圧的に、アーサーを見下ろすカミーユ。
二人の雰囲気に、モニカの胸がざわざわした。
「ついでに伝えといてやる。今、ダフ、シリル、ライラ、クラリッサは、ヴィクス王子の近衛兵となっている」
「!!」
「ヴィクス王子がこいつらにどういう指示を出すかにもよるが……。お前も……俺たちも、もしかしたらあいつらと殺し合いをしなきゃいけねえことになるかもしんねえ。こればっかりは、そん時になってみないと分かんねえがな」
「っ……」
彼の言葉にクルドが声をあげて泣き出したので、マデリアが慌てて沈黙魔法をかけて静かにさせた。
モニカは顔を真っ青にして、カミーユパーティとベニートパーティに視線を向ける。
「え……? み、みんな、そ……それでいいの……? ダフたちと……特訓の時、あんなに楽しい時間を過ごしてたのに……こ、殺し合いなんて……」
答えたのはジルだった。
「君たちには考えられないかもしれないけど、味方だった人が敵になるのはよくあることだよ。僕たちだってダフたちのことは気に入ってたから残念だけど……万が一対立することになったら、仕方ないと思ってる」
「そんな……」
たまらず、アーサーは大声をあげた。
「おかしい……。おかしいよみんな!! どうして急にこんなことになってるの!? 昨日まで楽しくのんびり過ごしてたのに……!! なんで……なんで、こんな……」
「ヴィクス王子の意図にやっと気付いたからだ」
「……カミーユ……カミーユが僕に言ったんじゃないか……〝これ以上、人は殺すなよ〟って……」
「……」
「僕、あれから一人も人を殺してないんだよ……。カミーユがダメだって言ったから、約束を守ってきたんだよ……! ウィルクにだって、そう教えた……! そしたらウィルクも人を殺さなくなったんだよ……! ねえ、カミーユ……! あの約束はなんだったの!?」
アーサーは項垂れ、涙で濡れた顔を手で覆う。
「……それなのに……どうして殺させようとしてるの……? それも、大好きな人たちを……」
「……民を守るためだ」
「誰も死なない方法はないの!? 誰かが死なないとダメなの!?」
「もう何百人も死んでんだよ!!」
「っ……」
「アーサー。俺らは今まで、お前らに綺麗なことしかさせてこなかった! できるならお前らの手なんて汚させたくなかったからな。それで勘違いさせたか!? 綺麗なことだけで、すべてが丸く収まってきたと、本当にそう思ってるのか!?」
「……」
「お前らの代わりに、汚い仕事は全部、俺らやヴィクス王子がやってきたんだよ!! お前らの知らないところで、俺らはずっと体張って、手を汚してきたんだ!!」
アーサーの胸ぐらを掴むカミーユの手はひどく震えていた。
「いつまで赤ちゃんぶってんだ!! いい加減大人になれ!!」
声を荒らげるカミーユの腕に、シャナがそっと手を添える。
「カミーユ、ストップ」
「っ……」
「それは言わない約束よ。これ以上、アーサーが思いつめるようなことは言わないで頂戴」
「……すまねえ。頭に血が上っちまった。こんなこと言うつもりじゃ……。アーサー、すまねえ」
「こんなこと、言われてすぐに決断できるわけないでしょう? アーサーとモニカに、考える時間を与えてあげて。いいでしょう?」
「……ああ」
我に返ったカミーユは、先ほどとは打って変わって泣きそうな顔でアーサーを見た。
アーサーは俯き、ただただ泣いていた。
「……アーサー」
カミーユが手を伸ばし、アーサーの頬に手を添えると、アーサーは一瞬ビクッとしたものの、拒絶はしなかった。
「本当に、悪かった」
「……僕も、ごめんなさい」
「お前が謝ることなんていっこもねえって言ってるだろ……。すまねえ」
アーサーは首を横に振り、遠慮がちにカミーユの手を握る。
「少し、考えさせて。考えなきゃいけないことがいっぱいで、頭がおいつかないんだ」
「おう。そうしてくれ。……民を救うために、俺はお前を使おうとしてる。それを隠すつもりはねえ」
「うん」
「ヴィクス王子を止められるのは……ヴィクス王子に望む未来を与えられるのは、お前とモニカだけなんだ。どうか……この国を……ヴィクス王子を、救ってやって欲しい。俺が本当に言いたかったのは、これだった」
「……うん」
「余計なことを言ってすまなかった。本当に、すまなかった。……じゃあ、俺は頭冷やしてくるから」
「うん。おやすみ、カミーユ」
「おやすみ、アーサー」
その後カミーユは吹雪が吹き荒れる中、アジトの外でずっと葉巻を吸っていた。そこに、モニカが選んだ毛皮のコートを羽織ったユーリがやってきて、彼の隣に座る。
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「……ああ。とんだバカだ」
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