【完結】またたく星空の下

mazecco

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エピローグ

最終話 二度目の春

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 海茅が中学生になってから二度目の春が来た。
 髪がぴょこぴょこはねたまま、海茅は大急ぎで駅まで走る。
 駅には、ぼうっと空を見上げている匡史が待っていた。

「匡史君! ごめん、待たせちゃった!」
「大丈夫、俺も今来たばっかだよ。それより……」

 匡史は海茅の髪をつつき、噴き出した。

「今日も元気にはねてるね、みっちゃんの髪」
「ひ、昼までにはおさまるから!」
「知ってる。さ、行こ」

 土曜も日曜もほとんど部活がある海茅にとって、匡史と二人っきりで過ごせる時間は朝の通学だけだ。二年生になってクラスも分かれてしまってからは、より一層大切な時間になった。
 二年でも同じクラスになれたのは茜だけだが、昼休みはいつも五人で食べている。


 海茅と匡史が付き合い始めたと聞いたとき、優紀、茜、創はお祭り騒ぎになった。

「やぁっと付き合ったんだね! 長かったわー」
「見てるこっちがずーっとヤキモキしてたの、二人は気付いてなかったでしょぉ!」
「匡史にとうとう彼女が……っ! あの匡史に……! 彼女が……!」

 ほんのり優しい怒りを滲ませながらお祝いする優紀と茜のかたわらで、感極まった創がおんおん泣いていた。
 匡史と海茅は目を見合わせて微笑んだ。

「俺たち、良い友だち持ったよね」
「うん! 最高の友だちだね!」

 グループの中に恋人ができても、五人の仲は良好だ。

 ◇◇◇

 部活中、段原先輩が基礎練習をしている海茅を手招きした。

「海茅ちゃん、ちょっと来てくれる?」
「どうしましたか、先輩?」
「今日、新入部員の子たちに振り分ける楽器を決めようと思ってるんだ。ほら、コンクール曲の振り分け、海茅ちゃんも去年やったでしょ」
「はいはい、ありましたね! 懐かしい」

 あのときの自分は生意気だったなあと、海茅は苦笑いした。
 今年の一年生にも、オーディションに落ちてパーカッションになった部員が二人いる。その子たちの、ムスッとした顔で基礎練習をしている姿は、一年前の海茅そっくりだ。
 海茅には、過去の恥ずかしい記憶を蒸し返され、暴れたくなる気持ちもある。しかしそれよりも、彼女たちの気持ちを一番よく分かるのだから、しっかりケアしたいという想いの方が強かった。
 段原先輩は、器具庫をちょいちょいと指さした。

「それで、新しい子たちに一通りの打楽器を触ってもらうんだけど、海茅ちゃんにシンバル教える係頼んでいい?」
「もちろんです!」
「助かるよ、ありがとう」

 そして、去年と同じように、樋暮先輩が音楽室に勢いよく入ってくる。

「みんなぁー! 集合ー! 一週間基礎練習お疲れさま! 飽きたよね? 飽きるよねえ!?」
「今から君たちに一通りのパーカッションを触ってもらうよ。それを見て、コンクール曲の担当楽器をどうするか決めるから」

 段原先輩の言葉に、パッと顔を輝かせる部員もいれば、どうでも良いとでも言いたげにため息を吐く部員もいた。

(私もあんな感じだったんだろうなあ)

 そんなことを考えていると、優紀に小突かれる。

「一年前の海茅ちゃん、あんな感じだったよ」
「やっぱり? 私もそう思ってた」
「それが今や、ねえ?」
「あはは。あの子もコンクール後には、私みたいになってるかもね」
「そうなってもらえるよう、私たちも頑張ろうね!」

 海茅と優紀はじゃれあいながら器具庫へ行った。中ではすでに先輩が楽器を教えている。
 優紀はグロッケンの担当を任されたようで、新入部員にマレットの持ち方や叩き方を教え始めた。

 そして海茅が一番初めに教える部員は――
 クラッシュシンバルを見て鼻で笑う、トロンボーン志望だった女の子だ。
 海茅がシンバルの持ち方を教えようとすると、女の子は首を横に振った。

「シンバルなんて、教えてもらわなくても誰でもできますよ。貸してください」
「あっ、そう? じゃあ、どうぞ」

 海茅がニコニコ笑ったままシンバルを手渡すと、新入部員は面倒くさそうにシンバルを持った手を広げる。
 勢いよく叩いたにもかかわらずパフッと空気の音が鳴り、彼女は恥ずかしさで顔を赤らめた。

「大丈夫だよ。始めはみんなそうなるから」

 海茅はシンバルを受け取り、スタンドに当てて振動させる。

「クラッシュシンバルっておサルさんのイメージが強いから、どうしてもバカッぽく思われがちだよね」

 新入部員は悪びれもせず、大きく頷いた。

「でもね――」

 海茅が片方のシンバルを大きく振り下ろす。

「……っ!」

 海茅がこの星空で人の心を掴んだのは何度目だろうか。
 余韻が残る金色のきらめきは、ちっぽけな意地も、蔑みも、全て呑み込んでしまう。
 シンバルの美しい音色に茫然としている新入部員に、海茅は満面の笑みを向けた。

「曲の山場を盛り上げる大役。これほどかっこいい楽器はないよ」

【『またたく星空の下』end】
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感想 1

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みんなの感想(1件)

りうりうや
2023.02.03 りうりうや

受賞おめでとうございます。
知人の娘さんがちょうど中2になったばかりの吹奏楽部所属なので、等身大の青春(アオハル☆)を想像してほのぼのと読んでいました。
何故か、エピローグだけ読み損なってて、今読みました。年末だったから通知見逃したかも。

とても可愛らしい児童文学でしたね。
こちらのお話は、あさのあつこさんのバッテリーみたいな感じで、色んな世代の人に読んで(知って)欲しいなと思いながら、読んでました。

2023.02.06 mazecco

りうさん
わー!!ご感想ありがとうございます!
そしてお祝いのお言葉ありがとうございます!( *´艸`)
そうなんですね!中2だったらドンピシャですね~( *´艸`)

作者ながら、中学生のアオハルを書いているとなぜかメンタルに来ました……笑
わたしこんなキラキラした学生時代送ったことないのに!なんだこのアオハルはぁぁぁっ……!ってwww

ありがとうございます!!
そう言っていただけるなんて恐縮すぎますが、とても嬉しいです( *´艸`)
りうさん、いつも嬉しいご感想をくださいまして本当にありがとうございます( *´艸`)

解除

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