インターネットで異世界無双!?

kryuaga

文字の大きさ
26 / 92

#25 (プロローグ)

しおりを挟む
 右も左も良く分からない場所で、女神と名乗る怪しい人物から俺は意外な男の名前を聞くことになった。



 その名前は南宮白夜ミナミヤビャクヤ。俺の祖父であり、武術の師匠でもあった男だ。



 正直、俺はあの爺のことが好きでなかった。

 その理由を上げようと思えばいくつもある。

 敵の多い人物であり、しょっちゅう暗殺者に襲われていて、それに何度となく俺も巻き込まれた。

 南宮流古武術――魔法を使った戦闘術だ、どの辺が古流なのかは俺が一番聞きたい――を俺に半ば無理矢理教えこみ、そのせいで俺の青春の大半は消えた。

 などなど、恨み言を言い始めたらキリがない。

 長所など、精々無類の犬好きだったということくらいか? いやそれは果たして長所と言っていいのか?



 俺の印象からすれば何をやっても死にそうにない爺さんだったが、2年前に暗殺者の凶弾によって倒れ、そのまま死んだ。

 あの爺が銃弾ごときで死ぬとは俺には思えなかったが、遺体を見せられた以上は疑う訳にもいかない。



 身内が亡くなったことを悲しむ気持ちも0ではなかったが、それ以上に俺には解放感の方が大きかった。

 自分でも冷たい人間だとは思うが、そう思ってしまう気持ちに嘘をついても意味はない。



 それからは、爺のことは頭の片隅へと追いやり日々を過ごしていたのだが、まさか今になってこんなところで名前を聞くとは思わなかった。



「白夜さんが亡くなった際に、この場所で色々とお話をさせて頂きました。その時に契約を交わしたのです。あなたが18歳になったら、自分の代わりにアムパトリに来てもらうと」



「はぁ? なんだそれ」



 あのくそ爺、何勝手なこと約束してやがる!



「という訳でコウヤさん。あなたに与えられた選択肢は2つだけ。アムパトリへと転生し、神聖教国ステラシオンを救う勇者となるか。それともここで魂ごと朽ち果てるか……」



 そう言うステラシオンの表情は、どこかドヤ顔のように見える。

 俺の立場で取れる選択肢は実質一つしかないからと、高を括っているのだろう。



「……なら悪いが、俺は朽ちる方を選択させて貰う」



「ですよね! では早速転生の準備を……って、ええ!? すいません。今、なんと……?」



 やはり高を括っていたらしい。

 俺が転生を選択する前提で、話を進めようとしていたようだ。



「だから俺は魂が朽ちる方を選択すると言ったんだ」



「な、なぜですか? 魂が朽ち果ててしまえば、それで何もかも終わりなんですよ?」



「はぁ。日本に戻れない時点でそうじゃないか。今更、俺にまた人生を1からやり直せと? バカバカしい」



 ハッキリいって俺の主観における俺の人生は、まだ18年しか生きてないとは思えない程、波乱万丈であった。

 その主たる原因であるくそ爺が死んで2年。

 最近になってようやく俺は平穏な日々を手に入れたのに、それが今度は異世界に行けだと。冗談じゃない。

 何よりそれが、くそ爺の意向というのが一番気に入らない。

 だったら、いっそここで朽ちてしまった方がましだ。

 半ばヤケクソ気味に俺はそう思う。



「か、考え直してください。勇者としての転生ですから、こちらからもそれ相応の便利な能力を与えます。今なら選びたい放題ですよ?」



「ふむ、便利な能力ね……。一体どんなのがあるんだ?」



 その程度の事で釣られるつもりは無いが、やはり興味はあった。



「そ、そうですね。……コウヤさんが喜びそうなモノだと、〈超魔力〉なんてどうでしょうか? これがあれば魔法も使い放題ですよ!」



「おいっ、なんで俺が魔法を使えるって知ってる?」



「そ、それは、わ、私が女神だからですよ! それに、白夜さんからも話は聞いていましたし……」



「まあ、確かにそれは魅力的な能力だ。で、他には?」



「そ、そうですね――」



 ステラシオンが選択できる能力の詳細を語っていく。

 なんだか良く分からないモノもチラホラ混ざっていた気がするが、概ねどれも便利そうな能力ばかりだった。



「そうだな……。じゃあ、それ全部よこせよ。それなら転生してやってもいい」



 勢いで、魂が朽ち果ててもいいと言ってしまったが、冷静になればやはり怖い部分もある。

 それにステラシオンが提示した能力は、なかなか魅力的に思える。

 それら全部を貰えるなら、前言を翻してもいい気分になったのだ。

 我ながら適当なことだ。こういうところばかり爺に似てしまったのは、自分でも気に食わない事実である。



「そんな、無茶ですよ! 普通は〈転生記憶保持〉と〈全言語翻訳〉に加えて、あと2つくらいが限度です……」



「そうか。なら俺は朽ちる方を選択するだけだ」



 自分の魂をベットにしてまで強気に出たのは、自棄になっていた部分もなくはないが、それ以上に勝つ自信があったからだ。



「そんな! もう転生の準備が進んでいるのにっ! あなたが転生してくれないと、当分勇者の派遣は無理なんです……。神聖教国ステラシオンの滅亡が確定してしまいます……」



 やはり、俺が承諾しないとあちらにも不都合があるらしい。

 掛け金を上げて正解だったようだ。



「そんなにその国が大事なら、俺の言った条件を呑むんだな」



「ううっ。……分かりました。全部差し上げます……」



 結構悩んだ様子だったが、姉に負けたくないという思いが勝ったのか、結局ステラシオンは俺の条件を受け入れた。



「ではこちらの書類に血印をお願いします」



 ステラシオンが俺に文字が詰まった紙とナイフを渡してくる。

 契約書みたいなのが必要だなんて、神様の世界も案外世知辛ないな、など思いつつ書かれた内容に目を通していたのだが、



「ああ……。っておい! この文はなんだよ!」



 そこには『女神ステラシオンの出す条件を、全て了承致します』という一文があった。

 まったく油断も隙もあったもんじゃない。

 この女神様、気弱な割に妙に腹黒いな。



「今度こそ、ちゃんとしたのを渡せよな」



「は、はい。すいません……」



 流石に2度も同じ手は使ってこないらしく、今度のは内容に問題は無かった。

 俺はナイフで左手の薬指の爪の下を軽く刺す。滲んで来た血を親指でつけ、それを紙へと押し付ける。

 すると、俺の足元に魔法陣が出現する。

 感覚から察するにどうやら、早速異世界とやらに飛ばされるようだ。



「これで契約は完了しました。では、勇者として神聖教国ステラシオンを救って下さい。お願いしますね」



 ステラシオンが女神らしい神秘的な微笑みを浮かべ、そう言う。

 それに対し、俺も笑顔でこう返してやった。



「ああ、悪いが俺は勇者として生きるつもりなんて、サラサラないんでそこんとこ勘違いしないでくれよな!」



 新しい契約書には、俺が勇者として神聖教国ステラシオンを救う義務が存在していなかった。

 古い方にはあったので、多分急いで契約書を作り直した際にミスでもしたのだろう。

 女神とは思えないお粗末っぷりだが、俺にとっては都合がいい。これを利用しない手はないだろう。



「そ、そんな、契約書には……。ああっ、文章が抜けてるっ!」



 焦った表情で、そんな事を叫んでいるステラシオンの姿を眺めながら、俺は異世界アムパトリへと転生した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...