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#25 (プロローグ)
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右も左も良く分からない場所で、女神と名乗る怪しい人物から俺は意外な男の名前を聞くことになった。
その名前は南宮白夜。俺の祖父であり、武術の師匠でもあった男だ。
正直、俺はあの爺のことが好きでなかった。
その理由を上げようと思えばいくつもある。
敵の多い人物であり、しょっちゅう暗殺者に襲われていて、それに何度となく俺も巻き込まれた。
南宮流古武術――魔法を使った戦闘術だ、どの辺が古流なのかは俺が一番聞きたい――を俺に半ば無理矢理教えこみ、そのせいで俺の青春の大半は消えた。
などなど、恨み言を言い始めたらキリがない。
長所など、精々無類の犬好きだったということくらいか? いやそれは果たして長所と言っていいのか?
俺の印象からすれば何をやっても死にそうにない爺さんだったが、2年前に暗殺者の凶弾によって倒れ、そのまま死んだ。
あの爺が銃弾ごときで死ぬとは俺には思えなかったが、遺体を見せられた以上は疑う訳にもいかない。
身内が亡くなったことを悲しむ気持ちも0ではなかったが、それ以上に俺には解放感の方が大きかった。
自分でも冷たい人間だとは思うが、そう思ってしまう気持ちに嘘をついても意味はない。
それからは、爺のことは頭の片隅へと追いやり日々を過ごしていたのだが、まさか今になってこんなところで名前を聞くとは思わなかった。
「白夜さんが亡くなった際に、この場所で色々とお話をさせて頂きました。その時に契約を交わしたのです。あなたが18歳になったら、自分の代わりにアムパトリに来てもらうと」
「はぁ? なんだそれ」
あのくそ爺、何勝手なこと約束してやがる!
「という訳でコウヤさん。あなたに与えられた選択肢は2つだけ。アムパトリへと転生し、神聖教国ステラシオンを救う勇者となるか。それともここで魂ごと朽ち果てるか……」
そう言うステラシオンの表情は、どこかドヤ顔のように見える。
俺の立場で取れる選択肢は実質一つしかないからと、高を括っているのだろう。
「……なら悪いが、俺は朽ちる方を選択させて貰う」
「ですよね! では早速転生の準備を……って、ええ!? すいません。今、なんと……?」
やはり高を括っていたらしい。
俺が転生を選択する前提で、話を進めようとしていたようだ。
「だから俺は魂が朽ちる方を選択すると言ったんだ」
「な、なぜですか? 魂が朽ち果ててしまえば、それで何もかも終わりなんですよ?」
「はぁ。日本に戻れない時点でそうじゃないか。今更、俺にまた人生を1からやり直せと? バカバカしい」
ハッキリいって俺の主観における俺の人生は、まだ18年しか生きてないとは思えない程、波乱万丈であった。
その主たる原因であるくそ爺が死んで2年。
最近になってようやく俺は平穏な日々を手に入れたのに、それが今度は異世界に行けだと。冗談じゃない。
何よりそれが、くそ爺の意向というのが一番気に入らない。
だったら、いっそここで朽ちてしまった方がましだ。
半ばヤケクソ気味に俺はそう思う。
「か、考え直してください。勇者としての転生ですから、こちらからもそれ相応の便利な能力を与えます。今なら選びたい放題ですよ?」
「ふむ、便利な能力ね……。一体どんなのがあるんだ?」
その程度の事で釣られるつもりは無いが、やはり興味はあった。
「そ、そうですね。……コウヤさんが喜びそうなモノだと、〈超魔力〉なんてどうでしょうか? これがあれば魔法も使い放題ですよ!」
「おいっ、なんで俺が魔法を使えるって知ってる?」
「そ、それは、わ、私が女神だからですよ! それに、白夜さんからも話は聞いていましたし……」
「まあ、確かにそれは魅力的な能力だ。で、他には?」
「そ、そうですね――」
ステラシオンが選択できる能力の詳細を語っていく。
なんだか良く分からないモノもチラホラ混ざっていた気がするが、概ねどれも便利そうな能力ばかりだった。
「そうだな……。じゃあ、それ全部よこせよ。それなら転生してやってもいい」
勢いで、魂が朽ち果ててもいいと言ってしまったが、冷静になればやはり怖い部分もある。
それにステラシオンが提示した能力は、なかなか魅力的に思える。
それら全部を貰えるなら、前言を翻してもいい気分になったのだ。
我ながら適当なことだ。こういうところばかり爺に似てしまったのは、自分でも気に食わない事実である。
「そんな、無茶ですよ! 普通は〈転生記憶保持〉と〈全言語翻訳〉に加えて、あと2つくらいが限度です……」
「そうか。なら俺は朽ちる方を選択するだけだ」
自分の魂をベットにしてまで強気に出たのは、自棄になっていた部分もなくはないが、それ以上に勝つ自信があったからだ。
「そんな! もう転生の準備が進んでいるのにっ! あなたが転生してくれないと、当分勇者の派遣は無理なんです……。神聖教国ステラシオンの滅亡が確定してしまいます……」
やはり、俺が承諾しないとあちらにも不都合があるらしい。
掛け金を上げて正解だったようだ。
「そんなにその国が大事なら、俺の言った条件を呑むんだな」
「ううっ。……分かりました。全部差し上げます……」
結構悩んだ様子だったが、姉に負けたくないという思いが勝ったのか、結局ステラシオンは俺の条件を受け入れた。
「ではこちらの書類に血印をお願いします」
ステラシオンが俺に文字が詰まった紙とナイフを渡してくる。
契約書みたいなのが必要だなんて、神様の世界も案外世知辛ないな、など思いつつ書かれた内容に目を通していたのだが、
「ああ……。っておい! この文はなんだよ!」
そこには『女神ステラシオンの出す条件を、全て了承致します』という一文があった。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
この女神様、気弱な割に妙に腹黒いな。
「今度こそ、ちゃんとしたのを渡せよな」
「は、はい。すいません……」
流石に2度も同じ手は使ってこないらしく、今度のは内容に問題は無かった。
俺はナイフで左手の薬指の爪の下を軽く刺す。滲んで来た血を親指でつけ、それを紙へと押し付ける。
すると、俺の足元に魔法陣が出現する。
感覚から察するにどうやら、早速異世界とやらに飛ばされるようだ。
「これで契約は完了しました。では、勇者として神聖教国ステラシオンを救って下さい。お願いしますね」
ステラシオンが女神らしい神秘的な微笑みを浮かべ、そう言う。
それに対し、俺も笑顔でこう返してやった。
「ああ、悪いが俺は勇者として生きるつもりなんて、サラサラないんでそこんとこ勘違いしないでくれよな!」
新しい契約書には、俺が勇者として神聖教国ステラシオンを救う義務が存在していなかった。
古い方にはあったので、多分急いで契約書を作り直した際にミスでもしたのだろう。
女神とは思えないお粗末っぷりだが、俺にとっては都合がいい。これを利用しない手はないだろう。
「そ、そんな、契約書には……。ああっ、文章が抜けてるっ!」
焦った表情で、そんな事を叫んでいるステラシオンの姿を眺めながら、俺は異世界アムパトリへと転生した。
その名前は南宮白夜。俺の祖父であり、武術の師匠でもあった男だ。
正直、俺はあの爺のことが好きでなかった。
その理由を上げようと思えばいくつもある。
敵の多い人物であり、しょっちゅう暗殺者に襲われていて、それに何度となく俺も巻き込まれた。
南宮流古武術――魔法を使った戦闘術だ、どの辺が古流なのかは俺が一番聞きたい――を俺に半ば無理矢理教えこみ、そのせいで俺の青春の大半は消えた。
などなど、恨み言を言い始めたらキリがない。
長所など、精々無類の犬好きだったということくらいか? いやそれは果たして長所と言っていいのか?
俺の印象からすれば何をやっても死にそうにない爺さんだったが、2年前に暗殺者の凶弾によって倒れ、そのまま死んだ。
あの爺が銃弾ごときで死ぬとは俺には思えなかったが、遺体を見せられた以上は疑う訳にもいかない。
身内が亡くなったことを悲しむ気持ちも0ではなかったが、それ以上に俺には解放感の方が大きかった。
自分でも冷たい人間だとは思うが、そう思ってしまう気持ちに嘘をついても意味はない。
それからは、爺のことは頭の片隅へと追いやり日々を過ごしていたのだが、まさか今になってこんなところで名前を聞くとは思わなかった。
「白夜さんが亡くなった際に、この場所で色々とお話をさせて頂きました。その時に契約を交わしたのです。あなたが18歳になったら、自分の代わりにアムパトリに来てもらうと」
「はぁ? なんだそれ」
あのくそ爺、何勝手なこと約束してやがる!
「という訳でコウヤさん。あなたに与えられた選択肢は2つだけ。アムパトリへと転生し、神聖教国ステラシオンを救う勇者となるか。それともここで魂ごと朽ち果てるか……」
そう言うステラシオンの表情は、どこかドヤ顔のように見える。
俺の立場で取れる選択肢は実質一つしかないからと、高を括っているのだろう。
「……なら悪いが、俺は朽ちる方を選択させて貰う」
「ですよね! では早速転生の準備を……って、ええ!? すいません。今、なんと……?」
やはり高を括っていたらしい。
俺が転生を選択する前提で、話を進めようとしていたようだ。
「だから俺は魂が朽ちる方を選択すると言ったんだ」
「な、なぜですか? 魂が朽ち果ててしまえば、それで何もかも終わりなんですよ?」
「はぁ。日本に戻れない時点でそうじゃないか。今更、俺にまた人生を1からやり直せと? バカバカしい」
ハッキリいって俺の主観における俺の人生は、まだ18年しか生きてないとは思えない程、波乱万丈であった。
その主たる原因であるくそ爺が死んで2年。
最近になってようやく俺は平穏な日々を手に入れたのに、それが今度は異世界に行けだと。冗談じゃない。
何よりそれが、くそ爺の意向というのが一番気に入らない。
だったら、いっそここで朽ちてしまった方がましだ。
半ばヤケクソ気味に俺はそう思う。
「か、考え直してください。勇者としての転生ですから、こちらからもそれ相応の便利な能力を与えます。今なら選びたい放題ですよ?」
「ふむ、便利な能力ね……。一体どんなのがあるんだ?」
その程度の事で釣られるつもりは無いが、やはり興味はあった。
「そ、そうですね。……コウヤさんが喜びそうなモノだと、〈超魔力〉なんてどうでしょうか? これがあれば魔法も使い放題ですよ!」
「おいっ、なんで俺が魔法を使えるって知ってる?」
「そ、それは、わ、私が女神だからですよ! それに、白夜さんからも話は聞いていましたし……」
「まあ、確かにそれは魅力的な能力だ。で、他には?」
「そ、そうですね――」
ステラシオンが選択できる能力の詳細を語っていく。
なんだか良く分からないモノもチラホラ混ざっていた気がするが、概ねどれも便利そうな能力ばかりだった。
「そうだな……。じゃあ、それ全部よこせよ。それなら転生してやってもいい」
勢いで、魂が朽ち果ててもいいと言ってしまったが、冷静になればやはり怖い部分もある。
それにステラシオンが提示した能力は、なかなか魅力的に思える。
それら全部を貰えるなら、前言を翻してもいい気分になったのだ。
我ながら適当なことだ。こういうところばかり爺に似てしまったのは、自分でも気に食わない事実である。
「そんな、無茶ですよ! 普通は〈転生記憶保持〉と〈全言語翻訳〉に加えて、あと2つくらいが限度です……」
「そうか。なら俺は朽ちる方を選択するだけだ」
自分の魂をベットにしてまで強気に出たのは、自棄になっていた部分もなくはないが、それ以上に勝つ自信があったからだ。
「そんな! もう転生の準備が進んでいるのにっ! あなたが転生してくれないと、当分勇者の派遣は無理なんです……。神聖教国ステラシオンの滅亡が確定してしまいます……」
やはり、俺が承諾しないとあちらにも不都合があるらしい。
掛け金を上げて正解だったようだ。
「そんなにその国が大事なら、俺の言った条件を呑むんだな」
「ううっ。……分かりました。全部差し上げます……」
結構悩んだ様子だったが、姉に負けたくないという思いが勝ったのか、結局ステラシオンは俺の条件を受け入れた。
「ではこちらの書類に血印をお願いします」
ステラシオンが俺に文字が詰まった紙とナイフを渡してくる。
契約書みたいなのが必要だなんて、神様の世界も案外世知辛ないな、など思いつつ書かれた内容に目を通していたのだが、
「ああ……。っておい! この文はなんだよ!」
そこには『女神ステラシオンの出す条件を、全て了承致します』という一文があった。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
この女神様、気弱な割に妙に腹黒いな。
「今度こそ、ちゃんとしたのを渡せよな」
「は、はい。すいません……」
流石に2度も同じ手は使ってこないらしく、今度のは内容に問題は無かった。
俺はナイフで左手の薬指の爪の下を軽く刺す。滲んで来た血を親指でつけ、それを紙へと押し付ける。
すると、俺の足元に魔法陣が出現する。
感覚から察するにどうやら、早速異世界とやらに飛ばされるようだ。
「これで契約は完了しました。では、勇者として神聖教国ステラシオンを救って下さい。お願いしますね」
ステラシオンが女神らしい神秘的な微笑みを浮かべ、そう言う。
それに対し、俺も笑顔でこう返してやった。
「ああ、悪いが俺は勇者として生きるつもりなんて、サラサラないんでそこんとこ勘違いしないでくれよな!」
新しい契約書には、俺が勇者として神聖教国ステラシオンを救う義務が存在していなかった。
古い方にはあったので、多分急いで契約書を作り直した際にミスでもしたのだろう。
女神とは思えないお粗末っぷりだが、俺にとっては都合がいい。これを利用しない手はないだろう。
「そ、そんな、契約書には……。ああっ、文章が抜けてるっ!」
焦った表情で、そんな事を叫んでいるステラシオンの姿を眺めながら、俺は異世界アムパトリへと転生した。
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