聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

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まさかの②

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「一体、何の騒ぎだ?」

 パーティーの会場に入ってきたのは、大臣たちを連れた国王様だった。
 まだパーティーが始まる前だったから、国王様たちは集まっていなかったのだ。

 私はホッとして、国王様に顔を向ける。国王様ならば、こんな嘘、理解してくれると思ったからだ。だって、私が聖女の神託を受けた時、一番喜んでくれたのは、この国王様だったのだから。

「父上、報告した通り、キャサリン嬢は聖女であると偽っておりました!」

 コンラッド殿下の言葉に、私は必死で首を横に振る。クララが言ったことは本当みたいだ。

「嘘などついておりません!」

 私は叫ぶ。心の叫びを。
 でも、私の叫びは、この会場にいる誰にも伝わっている気がしなかった。
 更に、会場の温度が下がったかのようにも思えた。

「クララ嬢、そなたの言うとおりだ。キャサリン嬢、いや、キャサリンは悪事がバレた後も、誠実さを見せることはないのだな」

 国王様の言葉に、絶望を感じる。
 ……クララは、私が言うだろう言葉も、私の立場が悪くなる言葉として吹き込んでいたらしい。
 私が聖女の神託を受けたと認めた司祭様ですら、私を憎々し気に睨みつけている。

「せめて、正直に答えれば、温情を与えようと思っていたが……」

 国王様が首を横に振る。

「陛下、あのような嘘をつき国の威信を揺らがすような娘は、我が娘などではありません! 陛下の臣下として申し上げます。あの女に厳正な処分を!」

 膝をつくお父様の姿に、私は目を閉じた。
 私が信託を受けたその瞬間を、目の前で見ていたはずなのに。
 結局、お父様にとっては、私は単なるコマなのだ。だから、私がこれからどうなろうと、お父様は気にも留めないだろう。ただ、こんなことになった私を疎ましく思っているだろうことだけは、少しだけ合った視線からも理解できた。
 ……そんなこと、わかっていたけれど、こんな状況だから、更に堪える。

「キャサリンの身柄を確保し、国外追放をせよ!」

 国王様の声で、私はあっという間に拘束される。

「私は、何も悪いことはしておりません! 嘘をついているのは、クララの方です!」
「ひどいわ、キャサリン。私、あなたのことをかわいがってきたのに……それなのに、こうなっても、私に罪を擦り付けるのね……」

 めそめそと泣き始めたクララを、コンラッド様が慰める。

「国王様! コンラッド様! 私は、本当に神託を受けた聖女なのです!」

 引きずられながら、国王様とコンラッド様に向けて叫ぶ。
 だけど、二人から返ってきたのは、冷たい侮蔑の視線だけだった。

「本当に聖女だと言うのなら、その力を見せてみろ! そなたが聖女でなければ、私のそばに寄ることさえ認めなかったぞ!」

 コンラッド様が忌々しそうに吐き捨てる。
 ……聖女である私でなければ、私の価値はなかった、と言いたいわけ?
 その隣で泣いているはずのクララの口元が上がるのが見えた。
 ……言わせてもらっていいなら、コンラッド様は私の前世の推しほどの魅力はありませんでしたけどね!

「聖女を偽る人間など、国外追放など優しいことをおっしゃらず、処刑してしまえばいいのです!」
 
 どこからか聞こえてきた声は、私をよくいじめていた令嬢の声だ。
 そして、その提案に、冷たい声の賛同が集まる。

 あれもこれも、クララが仕組んだものなんだ。
 私を聖女とし尊敬し慕ってくれていたはずの学友ですら、もう、皆、私のことを蔑む目で見ている。
 ……私が聖女だったから、親しくしてくれていたってわけね。
 
 結局、私自身に価値がないって、そういうことなの?
 引きずられるように連れて行かれる私に向かって、何かがぶつけられる。グシャ、という音がして、私のドレスが汚れる。
 それを合図にしたように、私に向かって、会場にあった食べ物や飲み物が投げつけられる。
 色んな臭いが混ざって、気持ち悪い。

 悔しい! 悔しい! 悔しい!
 ……これじゃ、前世と変わらない!
 ……私は、聖女なのに!

「それほどまでに、聖女の力を見たいとおっしゃるのであれば、見せてあげましょう」

 私の低い声に、会場の空気が止まった気がした。

「キャサリン、もうこれ以上、嘘を重ねないで!」

 祈るようなクララの声には、悲壮感などあるはずもない。私が何をしようとしているのか、知らないのだから。ただ、大袈裟なだけの演技は、見ていられない。

「キャサリン、最後まであさましい!」

 お父様の顔がゆがむ。
 本当に、私のことを愛してくれる人はいなかった。前世も、今世も。
 
「私を信じてくださる方は、誰もいないのね」

 それでもなお、立ち止まることなく私を引きずっていこうとする騎士に、見下されているのだと思うと、悔しくて涙がにじむ。
 スン、と鼻をすすると、私は口を開いた。

「オ リボロー」

 会場が、光に包まれた。まぶしくて、私は目をギュッとつぶった。

 聖女の神託を受けた時、私は怖くて怖くて仕方なかった。
 だけど、聖女の力を使わなければいいんだと、誰にも言わなければいいんだと、私は司祭様に頼まれても、国王様に頼まれても、コンラッド様に頼まれても、聖女の力を見せることはしなかった。

 だって、この世界を終わらせる以外、方法がなかったから。
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