聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

文字の大きさ
8 / 16

まさかの⑧

しおりを挟む
「サイラス様、いい加減おやめください」

 私の願いを叶えるように、呆れた声の男子生徒B、つまりホレス = キーラー侯爵令息がサイラス様をたしなめる。
 よろしく頼みます!

「だが、キャサリン嬢は、このあたりに逃げたぞ?」
「……サイラス様、ここはダメです。行きましょう。おふざけはいい加減にしたほうがいいですよ」
「……わかった」

 ザクザク、と二人の足音が遠ざかっていくことに、私はホッとする。
 ……本当に、サイラス様は、何を考えてるんだろう?
 新手のいじめ?
 ……おかげで、女生徒たちからも冷たい視線で見られてるし……。
 やっぱり、新手のいじめかな。女生徒の嫉妬をあおって間接的にいじめさせるってやつ。サイラス様、顔だけはいいもんね。まあ、身分もいいのか。でも、その二つしか特筆するところはない! 私には、サイラス様を慕っている女生徒の気持ちは全くわからない!

 プライドをへし折ったのが問題だったのかなぁ?
 ……サイラス様には何も言わないようにしようっと。ディル王国にも居場所がなくなると困るし。国に戻るつもりはないし。
 でも、とにもかくにも、体力つけないと! これじゃ、逃げ回る体力もない!

 ぼんやり考えていると、どこからか、空気を切る音が聞こえてきた。
 ……なんだろう? 素振り、みたいな音?
 何の音か気になって、私は立ち上がる。

 ふらふら、よたよたと歩いていると、音の発生源にたどり着いた。
 そこには、一心不乱に舞うように剣をふっているメリリース様がいた。
 制服のスカートを翻すその動きは、素早くて、美しい。
 これだけ動ければ、重い衣装着てても、しっかり踊れるんだろうなぁ。
 ああ、メリリース様が男役の舞台があれば、何度でも見に行きたい!

 ……こんなに素敵なメリリース様が、あのサイラス様の婚約者とか……信じたくない。
 そうなのだ。メリリース様はあの、サイラス様の婚約者なのだ。
 ……もっと良い相手いるよね? 公爵家だから、なのかなぁ。

 私が魅入っていると、メリリース様が動きを止めた。

「誰?」

 低い鋭い声で振り向いたメリリース様と目が合うと、私はあわてて頭を下げる。

「申し訳ありません。メリリース様。邪魔をするつもりはなかったのです」

 ただただ、メリリース様のお姿に見とれていただけですので、私のことなど気にせず、お続けください!

「キャサリン様ではありませんか。構いませんわ。ここにはいつもは人が立ち入らないものだから、驚いただけよ」

 表情をやわらげたメリリース様に、私の緊張も和らぐ。
 よし、見続ける許可は得た! 早く続きをやってくれないかしら!
 ……あ。そうだ、思い付いちゃった!

「……あの、私に剣を教えてくれませんか!」

 私の唐突な申し出に、メリリース様が目を見開く。

「……教えるのですか? 私が、キャサリン様に?」
「ええ。教えてほしいのです!」
「ですが……キャサリン様は、女性だわ?」

 メリリース様の説明に、私は目を細める。

「メリリース様だって、女性です」
「だって……私の家は、代々武官を輩出している家なのです。ですから、私が剣を振るうのは、幼い頃からの習慣で、おかしくありませんけれど……」
「体力作りがしたいのです!」
「……なるほど、ですわね」

 私のヨレヨレの姿を見て、メリリース様が納得したように頷いた。
 よし! メリリース様の勇姿見学と、私の体力作りの両方できるなんて、最高!

 
 ◇


 私は今、殿方の膝の上にいる。IN教室 鳥肌つき。

 ……決して、言葉選びを間違っているわけではない。
 私は、膝の上に座っている。
 事故……?
 私は、今現在、ただのひ弱でしかなく。きちんと長年剣で鍛えている方には、簡単にあっさりと抱えあげられてしまう。……いや、おかしいから!

「サイラス様、下ろしてくださいませんか」

 こんな奴でもディル王国の王子。嫌だからって、顔を殴ったりもできやしない。

「サイラス様、いい加減おやめください」

 私の願いを告げると、呆れた表情のホレス様が首を横に振る。
 ご協力、いつも痛み入ります。

「煩いぞ、ホレス。キャサリン嬢はいつもそう言って、私から逃げようとする」
「いえ。どう考えてもおかしいと思います。私を膝の上に乗せたりなど、本気でやめて下さい」

 私は本気の本気で告げた。
 女生徒たちの視線が痛いけど、代われるものなら本気で代わってやりたい!
 サイラス様に色目を使うなって一部の女生徒たちに言われるけど、どう考えても色目使ってるのあなたたちですよね!? 
 サイラス様と二人でどこかに消えていく令嬢ってやつを、時折見掛けるんですけど!?

「あら、キャサリン様ったら、はしたないですわ」

 私たちの目の前に、ハスキーな声の美女が立ちふさがった。
 私はとっさに美女に視線を向ける。
 この状況でも、私を膝から下ろさないサイラス様って一体何なの!? メリリース様をバカにしてない?!

「メリリース様! 助けてください! サイラス様が、私の力がないことをいいことに、こんなことをするのです!」

 メリリース様はサイラス様の婚約者だと、女生徒たちからも度々釘を刺されている。
 私の推しはメリリース様一択だから、メリリース様がサイラス様の婚約者なのは複雑な気分になるけれど。
 だけど、私はヒロインポジションなんて狙ってないし、メリリース様を悪役令嬢ポジションにつかせたいわけじゃない。
 でも、傍目にはそう見えても仕方がない状況なわけで。
 ……まさか、私がまたざまぁされるためのこの世界の強制力なの?

 いやいやいやいや。
 そんなの絶対嫌だし。
 だから、私は今の状況を一刻も早く抜け出たいのだ。

「サイラス様、キャサリン様を離してくださいますか?」
「……いやだ、と言ったらどうなる?」
「決闘を申し込まねばならないのでしょうね」

 やっぱり、メリリース様は私の救世主!
 メリリース様は筋がよかったらしく、女性ながらに相当の腕前らしい。

「それは、困るな」

 サイラス様が素直に私を膝の上から降ろすくらいの腕前とか、かっこよすぎる!

「ありがとうございます、メリリース様」

 私は本気でメリリース様に笑顔を向ける。
 だって、メリリース様、かっこいいんだもの。
 いつもいつも、毅然とした態度で、サイラス様からのちょっかいから助けてくれている。
 私の憧れだ。
 ……男装してるところ、見たいなぁ。

 ……それよりも。こんなバカ王子との婚約、破棄してしまえばいいのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

処理中です...