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まさかの⑧
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「サイラス様、いい加減おやめください」
私の願いを叶えるように、呆れた声の男子生徒B、つまりホレス = キーラー侯爵令息がサイラス様をたしなめる。
よろしく頼みます!
「だが、キャサリン嬢は、このあたりに逃げたぞ?」
「……サイラス様、ここはダメです。行きましょう。おふざけはいい加減にしたほうがいいですよ」
「……わかった」
ザクザク、と二人の足音が遠ざかっていくことに、私はホッとする。
……本当に、サイラス様は、何を考えてるんだろう?
新手のいじめ?
……おかげで、女生徒たちからも冷たい視線で見られてるし……。
やっぱり、新手のいじめかな。女生徒の嫉妬をあおって間接的にいじめさせるってやつ。サイラス様、顔だけはいいもんね。まあ、身分もいいのか。でも、その二つしか特筆するところはない! 私には、サイラス様を慕っている女生徒の気持ちは全くわからない!
プライドをへし折ったのが問題だったのかなぁ?
……サイラス様には何も言わないようにしようっと。ディル王国にも居場所がなくなると困るし。国に戻るつもりはないし。
でも、とにもかくにも、体力つけないと! これじゃ、逃げ回る体力もない!
ぼんやり考えていると、どこからか、空気を切る音が聞こえてきた。
……なんだろう? 素振り、みたいな音?
何の音か気になって、私は立ち上がる。
ふらふら、よたよたと歩いていると、音の発生源にたどり着いた。
そこには、一心不乱に舞うように剣をふっているメリリース様がいた。
制服のスカートを翻すその動きは、素早くて、美しい。
これだけ動ければ、重い衣装着てても、しっかり踊れるんだろうなぁ。
ああ、メリリース様が男役の舞台があれば、何度でも見に行きたい!
……こんなに素敵なメリリース様が、あのサイラス様の婚約者とか……信じたくない。
そうなのだ。メリリース様はあの、サイラス様の婚約者なのだ。
……もっと良い相手いるよね? 公爵家だから、なのかなぁ。
私が魅入っていると、メリリース様が動きを止めた。
「誰?」
低い鋭い声で振り向いたメリリース様と目が合うと、私はあわてて頭を下げる。
「申し訳ありません。メリリース様。邪魔をするつもりはなかったのです」
ただただ、メリリース様のお姿に見とれていただけですので、私のことなど気にせず、お続けください!
「キャサリン様ではありませんか。構いませんわ。ここにはいつもは人が立ち入らないものだから、驚いただけよ」
表情をやわらげたメリリース様に、私の緊張も和らぐ。
よし、見続ける許可は得た! 早く続きをやってくれないかしら!
……あ。そうだ、思い付いちゃった!
「……あの、私に剣を教えてくれませんか!」
私の唐突な申し出に、メリリース様が目を見開く。
「……教えるのですか? 私が、キャサリン様に?」
「ええ。教えてほしいのです!」
「ですが……キャサリン様は、女性だわ?」
メリリース様の説明に、私は目を細める。
「メリリース様だって、女性です」
「だって……私の家は、代々武官を輩出している家なのです。ですから、私が剣を振るうのは、幼い頃からの習慣で、おかしくありませんけれど……」
「体力作りがしたいのです!」
「……なるほど、ですわね」
私のヨレヨレの姿を見て、メリリース様が納得したように頷いた。
よし! メリリース様の勇姿見学と、私の体力作りの両方できるなんて、最高!
◇
私は今、殿方の膝の上にいる。IN教室 鳥肌つき。
……決して、言葉選びを間違っているわけではない。
私は、膝の上に座っている。
事故……?
私は、今現在、ただのひ弱でしかなく。きちんと長年剣で鍛えている方には、簡単にあっさりと抱えあげられてしまう。……いや、おかしいから!
「サイラス様、下ろしてくださいませんか」
こんな奴でもディル王国の王子。嫌だからって、顔を殴ったりもできやしない。
「サイラス様、いい加減おやめください」
私の願いを告げると、呆れた表情のホレス様が首を横に振る。
ご協力、いつも痛み入ります。
「煩いぞ、ホレス。キャサリン嬢はいつもそう言って、私から逃げようとする」
「いえ。どう考えてもおかしいと思います。私を膝の上に乗せたりなど、本気でやめて下さい」
私は本気の本気で告げた。
女生徒たちの視線が痛いけど、代われるものなら本気で代わってやりたい!
サイラス様に色目を使うなって一部の女生徒たちに言われるけど、どう考えても色目使ってるのあなたたちですよね!?
サイラス様と二人でどこかに消えていく令嬢ってやつを、時折見掛けるんですけど!?
「あら、キャサリン様ったら、はしたないですわ」
私たちの目の前に、ハスキーな声の美女が立ちふさがった。
私はとっさに美女に視線を向ける。
この状況でも、私を膝から下ろさないサイラス様って一体何なの!? メリリース様をバカにしてない?!
「メリリース様! 助けてください! サイラス様が、私の力がないことをいいことに、こんなことをするのです!」
メリリース様はサイラス様の婚約者だと、女生徒たちからも度々釘を刺されている。
私の推しはメリリース様一択だから、メリリース様がサイラス様の婚約者なのは複雑な気分になるけれど。
だけど、私はヒロインポジションなんて狙ってないし、メリリース様を悪役令嬢ポジションにつかせたいわけじゃない。
でも、傍目にはそう見えても仕方がない状況なわけで。
……まさか、私がまたざまぁされるためのこの世界の強制力なの?
いやいやいやいや。
そんなの絶対嫌だし。
だから、私は今の状況を一刻も早く抜け出たいのだ。
「サイラス様、キャサリン様を離してくださいますか?」
「……いやだ、と言ったらどうなる?」
「決闘を申し込まねばならないのでしょうね」
やっぱり、メリリース様は私の救世主!
メリリース様は筋がよかったらしく、女性ながらに相当の腕前らしい。
「それは、困るな」
サイラス様が素直に私を膝の上から降ろすくらいの腕前とか、かっこよすぎる!
「ありがとうございます、メリリース様」
私は本気でメリリース様に笑顔を向ける。
だって、メリリース様、かっこいいんだもの。
いつもいつも、毅然とした態度で、サイラス様からのちょっかいから助けてくれている。
私の憧れだ。
……男装してるところ、見たいなぁ。
……それよりも。こんなバカ王子との婚約、破棄してしまえばいいのに。
私の願いを叶えるように、呆れた声の男子生徒B、つまりホレス = キーラー侯爵令息がサイラス様をたしなめる。
よろしく頼みます!
「だが、キャサリン嬢は、このあたりに逃げたぞ?」
「……サイラス様、ここはダメです。行きましょう。おふざけはいい加減にしたほうがいいですよ」
「……わかった」
ザクザク、と二人の足音が遠ざかっていくことに、私はホッとする。
……本当に、サイラス様は、何を考えてるんだろう?
新手のいじめ?
……おかげで、女生徒たちからも冷たい視線で見られてるし……。
やっぱり、新手のいじめかな。女生徒の嫉妬をあおって間接的にいじめさせるってやつ。サイラス様、顔だけはいいもんね。まあ、身分もいいのか。でも、その二つしか特筆するところはない! 私には、サイラス様を慕っている女生徒の気持ちは全くわからない!
プライドをへし折ったのが問題だったのかなぁ?
……サイラス様には何も言わないようにしようっと。ディル王国にも居場所がなくなると困るし。国に戻るつもりはないし。
でも、とにもかくにも、体力つけないと! これじゃ、逃げ回る体力もない!
ぼんやり考えていると、どこからか、空気を切る音が聞こえてきた。
……なんだろう? 素振り、みたいな音?
何の音か気になって、私は立ち上がる。
ふらふら、よたよたと歩いていると、音の発生源にたどり着いた。
そこには、一心不乱に舞うように剣をふっているメリリース様がいた。
制服のスカートを翻すその動きは、素早くて、美しい。
これだけ動ければ、重い衣装着てても、しっかり踊れるんだろうなぁ。
ああ、メリリース様が男役の舞台があれば、何度でも見に行きたい!
……こんなに素敵なメリリース様が、あのサイラス様の婚約者とか……信じたくない。
そうなのだ。メリリース様はあの、サイラス様の婚約者なのだ。
……もっと良い相手いるよね? 公爵家だから、なのかなぁ。
私が魅入っていると、メリリース様が動きを止めた。
「誰?」
低い鋭い声で振り向いたメリリース様と目が合うと、私はあわてて頭を下げる。
「申し訳ありません。メリリース様。邪魔をするつもりはなかったのです」
ただただ、メリリース様のお姿に見とれていただけですので、私のことなど気にせず、お続けください!
「キャサリン様ではありませんか。構いませんわ。ここにはいつもは人が立ち入らないものだから、驚いただけよ」
表情をやわらげたメリリース様に、私の緊張も和らぐ。
よし、見続ける許可は得た! 早く続きをやってくれないかしら!
……あ。そうだ、思い付いちゃった!
「……あの、私に剣を教えてくれませんか!」
私の唐突な申し出に、メリリース様が目を見開く。
「……教えるのですか? 私が、キャサリン様に?」
「ええ。教えてほしいのです!」
「ですが……キャサリン様は、女性だわ?」
メリリース様の説明に、私は目を細める。
「メリリース様だって、女性です」
「だって……私の家は、代々武官を輩出している家なのです。ですから、私が剣を振るうのは、幼い頃からの習慣で、おかしくありませんけれど……」
「体力作りがしたいのです!」
「……なるほど、ですわね」
私のヨレヨレの姿を見て、メリリース様が納得したように頷いた。
よし! メリリース様の勇姿見学と、私の体力作りの両方できるなんて、最高!
◇
私は今、殿方の膝の上にいる。IN教室 鳥肌つき。
……決して、言葉選びを間違っているわけではない。
私は、膝の上に座っている。
事故……?
私は、今現在、ただのひ弱でしかなく。きちんと長年剣で鍛えている方には、簡単にあっさりと抱えあげられてしまう。……いや、おかしいから!
「サイラス様、下ろしてくださいませんか」
こんな奴でもディル王国の王子。嫌だからって、顔を殴ったりもできやしない。
「サイラス様、いい加減おやめください」
私の願いを告げると、呆れた表情のホレス様が首を横に振る。
ご協力、いつも痛み入ります。
「煩いぞ、ホレス。キャサリン嬢はいつもそう言って、私から逃げようとする」
「いえ。どう考えてもおかしいと思います。私を膝の上に乗せたりなど、本気でやめて下さい」
私は本気の本気で告げた。
女生徒たちの視線が痛いけど、代われるものなら本気で代わってやりたい!
サイラス様に色目を使うなって一部の女生徒たちに言われるけど、どう考えても色目使ってるのあなたたちですよね!?
サイラス様と二人でどこかに消えていく令嬢ってやつを、時折見掛けるんですけど!?
「あら、キャサリン様ったら、はしたないですわ」
私たちの目の前に、ハスキーな声の美女が立ちふさがった。
私はとっさに美女に視線を向ける。
この状況でも、私を膝から下ろさないサイラス様って一体何なの!? メリリース様をバカにしてない?!
「メリリース様! 助けてください! サイラス様が、私の力がないことをいいことに、こんなことをするのです!」
メリリース様はサイラス様の婚約者だと、女生徒たちからも度々釘を刺されている。
私の推しはメリリース様一択だから、メリリース様がサイラス様の婚約者なのは複雑な気分になるけれど。
だけど、私はヒロインポジションなんて狙ってないし、メリリース様を悪役令嬢ポジションにつかせたいわけじゃない。
でも、傍目にはそう見えても仕方がない状況なわけで。
……まさか、私がまたざまぁされるためのこの世界の強制力なの?
いやいやいやいや。
そんなの絶対嫌だし。
だから、私は今の状況を一刻も早く抜け出たいのだ。
「サイラス様、キャサリン様を離してくださいますか?」
「……いやだ、と言ったらどうなる?」
「決闘を申し込まねばならないのでしょうね」
やっぱり、メリリース様は私の救世主!
メリリース様は筋がよかったらしく、女性ながらに相当の腕前らしい。
「それは、困るな」
サイラス様が素直に私を膝の上から降ろすくらいの腕前とか、かっこよすぎる!
「ありがとうございます、メリリース様」
私は本気でメリリース様に笑顔を向ける。
だって、メリリース様、かっこいいんだもの。
いつもいつも、毅然とした態度で、サイラス様からのちょっかいから助けてくれている。
私の憧れだ。
……男装してるところ、見たいなぁ。
……それよりも。こんなバカ王子との婚約、破棄してしまえばいいのに。
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