魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花

文字の大きさ
7 / 11

番外編:当日の夜

しおりを挟む
 薄暗い寝室の中は、先程までの濃密な空気が薄れてきていた。
 まどろむルーナの髪を、森の王であるイリューがいとおしそうに撫でる。
 頬に残る涙のあとは、ルーナが昼間のことを嘆いて泣いたわけではない。
 イリューがルーナの態度に煽られた結果、泣くまで攻めてしまったせいだ。
 
 柔らかな顔で微笑むルーナの涙のあとに、イリューが口づける。
 眩しそうに目を細めたルーナの顔は、イリューが今まで見てきた中で、一番幸せそうに見えたし、美しく見えた。
 初めて森で見つけたときの、絶望の表情はもうどこにもなかった。
 イリューが、また体を起こす。
 まだ、ルーナを眠らせたくなかった。

「イリュー様……」
 イリューの意図を読んだのだろう。ルーナが困ったように名前を呼んだ。
「ルーナは目をつぶっておけばいい」
「……眠らせてくれないくせに」
 拗ねた声のルーナは、それでも本気で嫌がってはいなかった。
 イリューに愛される行為が、本当に幸せだと感じるからだ。

 イリューがルーナに口づけようとしたその瞬間、動きが止まる。
「どうかされましたか?」
 ルーナが首をかしげる。
 いや、とイリューが首をふる。

 ただ、イリューは感じただけだ。
 あの呪いをかけた6人のうちの一人が命を落としたことを。
 おそらく、ルーナの従姉妹だろうと思った。
 だが、イリューにとっては、もはやどうでもいいことだ。
 ルーナの願いは、すべて叶えたからだ。

 イリューはルーナの望み通り、6人に呪いをかけた。
 悪いことをしようとすれば、もう二度としたくなくなる呪いを。
 命があることを後悔しながら死んでいく恐ろしい呪いを。
 悪いことをしようとしなければ、呪いは発動しないのに。
 
 ルーナに口づけながら、イリューは人間の欲深さが理解できないと思う。
 たったひとつのキスだけで、こんなにも幸せな気分になれるのだということを、きっとあの人間たちは知らないに違いない。
 
 イリューは唇を離すと、ルーナを見つめる。
 イリューと同じように微笑むルーナに、イリューは満たされ、吐息をこぼした。

 寝室の中はまた、濃密な空気をまとい始める。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

愛に代えて鮮やかな花を

ono
恋愛
公爵令嬢エリシア・グローヴナーは、舞踏会の場で王太子アリステアより婚約破棄を言い渡される。 彼の隣には無垢な平民の娘、エヴァンジェリンがいた。 王太子の真実の愛を前にしてエリシアの苦い復讐が叶うまで。 ※ハッピーエンドですが、スカッとはしません。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?

みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。 婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。 なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。 (つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?) ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...