母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
37 / 46
第五章

6.東神家に向かう車内にて

しおりを挟む
しおりちゃんが帰ってきたんか、一人じゃったかの?」

「う~ん、連れの人が一人いたけど、その人はなんか・・・荷物持つ人?って感じだった。あと、車が黒塗りのベンツだった」

「あ~、ほうかの・・・」

 おじいちゃんは、黙ってしまった。旧知の先輩の娘さんの事だ、私の知らない事を色々知っているけど、話すのはちょっとやめときたい感じなのかもね。

「ご挨拶にってパンを沢山貰っちゃった」

 おじいちゃんを困らせたくないので話題を変えた。

「それじゃ明日の朝はパンじゃの~。でも味噌汁は飲みたいのぉ」

「うん、わかった」

 家に帰ると百家くんから携帯にメールが入っていた。

『母さんがびっくりさせたみたいだな、悪かったな』

 直ぐに返信しておいた。

『パンいっぱい貰っちゃったよ、ごちそうになります』

 ただそれだけのやりとりだったけど。









 次の日も道の駅にバイトに行った。仕事をしている時は携帯は持ち歩いていないので、仕事が終わったら一応何か連絡が入っていないか確認するようにしている。

 そういえば、今日もお兄さん来ていなかったのが気になる。

 着替えて携帯を見ると、百家くんからメールが入っていた。

『至急の要件につき、バイト終わったら駐車場で待ってる』

 急いで着替えて外に出ると、ベンチの所で百家くんが待っていた。

「どうしたの?なんかあった?」

「今から東神家に行くから、一緒に来て欲しいんだ」

「えっ、このまま?」

「先に祖父ちゃんと母さんが行ってる」

「わかった。でも、どうやって行くの?」

「車を待たせてるから大丈夫」

 驚いた事に、例の黒塗りベンツが駐車場で待っていた。私が出て来た事を確認したようで、音もなくスーッと横付けされ、後部座席の扉が開いた。自動扉だ。

「えっと」

「はい、乗って乗って」

 百家くんは急いでいるようで、私の腕を掴んで自分の方に引っ張ると、背中を押して先に車の中に私を押し込んでから自分も乗った。車の中で高級感溢れる革の匂いと芳香剤のミックス攻撃に合った。こういう香りは実は苦手なのだけど・・・。

奄美あまみ、窓開けて。彼女キツイ香りが嫌いみたいだから」

「はい、坊っちゃん」

 すぐに、窓ガラスが下がり、風が入って来た。それにしても、坊っちゃんだって。詮索はしない方だけど、勝手にいろいろ想像してしまう。

「お嬢さん、気分が悪くなったら仰って下さい」

 ご丁寧に運転手のおじ・・・お兄さんがそう言ってくれたのでちゃんと返事をした。

「はい、わかりました」

 なんか、ちょっと緊張する・・・。

 広い車内と豪華な内装。どこもかしこもピカピカだ。

 たぶんこのおベンツ様、特注仕上げなのだろうなと思った。後部座席にもモニターが付いていて、今はテレビにしてあるようでニュースを報じている。

 百家くんは慣れた感じで座席のアーム置き部分をパカリと開けて中から飲み物を取り出した。どうやら冷蔵庫らしい。それから、反対側のアーム置き側から今度はおにぎりを出して私に渡した。

「腹が減るだろうから食べて行こう。鮭と昆布が入ってるらしい。伯母さんが作ってくれたんだ」

「ありがとう。お腹すいてたの」

 一つが山賊握りみたいに大きい三角おにぎりだ。美味しそう。

 飲み物もおにぎりも貰ってドアにあるドリンクキーパーに貰ったお茶のペットボトルを突っ込んだ。お手拭きも用意されていたので丁寧に手を拭いてから、大きなおにぎりのラップを剥がした。お米がしっかりしていて噛み締めると甘い、外側に塩を効かせてその上に大判の味付け海苔が惜しみなく使われていた。

 厚みのある高級な海苔だ。艶がある。それに、脂の乗った鮭の身がガッツリ大きい身で沢山入っていて、食べ進めると昆布が出てきた。これはピリ辛のワサビ昆布だ。旨い。

「ゆっくり食えよ。喉に詰めるぞ」

 百家くんは私の顔を覗き込んで、どうやら頬に付いていたらしい米粒を指先で摘まんだ。そのまま自分の口に放り込んだので、ギョッとしてしまい顔だけでなくボボーッと耳まで暑くなった。もう、なんなのこの人。

「坊っちゃん、甲斐甲斐しいですね」

「うるさい、ミラーで見るな」

 百家くんはおにぎりにかぶりつくと、プイッと外を向く。ちょっと耳が赤かった。

 それはそうと、なんで今から東神家に行くのか聞いていなかった。

「百家くん、東神家でなんかあったの?」

 しっかりおにぎりを完食して、お茶を飲んだあとに改めて聞いた。お兄さんも道の駅で見ていないし心配だ。

「それはな、以前、東神家に祖父ちゃんと行った時に、結界石を埋めて護符も貼って帰ったんだけど、それを破られたんだ。この間、坂上くんの件であの家の周りに俺が埋めてたの見ただろう?あれと同じなんだが」

「あ~・・・うん」

 彼が何かを埋めていたのを確かに見た。

「あれで悪いモノを閉じ込めて出さないようにしたんだけど、井戸の障りはかなり強力な悪霊に育ってしまったみたいで、東神家の奥様にとり憑いて、結界を破って外に出ていったらしい」

「悪霊・・・って、大丈夫なのかな?お兄さんは大丈夫かな?」

 ものすごく心配になってきた。

「他に家に居た人達は大丈夫だ。息子もショックは受けているようだけど、無事だから心配すんな」

「うん。よかった。ほっとした」

「あ、そうだ、これ、お前が身に着けておけよ。身を護ってくれるから」

 彼は着ていた爽やかな青色の綿シャツから五芒星のペンダントトップのネックレスを取り出した。銀色の光がきらめいた。

 胸ポケットに直接突っ込まれていたようだ。

「俺の母親から渡されたんだ。俺も同じのを身に着けてる。首に着けてやるから後ろを向いて」

「う、うん分かった」

 百家くんは、そっと丁寧に着けてくれた。

 ハッとして、ミラーを見ると、奄美さんが笑いそうな口元をひくつかせて我慢しているらしい表情が見えた。



 





 



 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...