母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
36 / 46
第五章

5.道の駅の美女

しおりを挟む
 翌日からは道の駅で再びアルバイトが始まった。

 昨日の検証?でも分かったけど、コンタクトだと目が大きく目立って人目を惹くらしいから、今日はお母さんに新しく作ってもらった眼鏡をかけていくことにした。

 前に愛用していた眼鏡は母からもう使わないようにしなさいと言われた。ただもしも壊れた時に困るだろうから予備として一応置いておきなさいとも言われたのだ。確かにそういうの大事、さすがお母さんだと思う。



 あまりにじろじろ顔を見られるのはとても恥ずかしいし、いきなり可愛いとか言われてもピンと来ないものだ。

 三つ編みはやめて髪の毛は首の後ろで黒ゴムを使ってひとつに括った。

 これはお母さんには不評で、ハーフアップが良いのではないかと言われたけど暑いので却下。

 お母さんは地味だというけど、アルバイトに行くのだから地味でもなんでもいいと思う。野菜を運んだり並べたり、動き回るので髪を下していると暑いし邪魔なのだ。

「まあ、麻ちゃん、眼鏡変えるとどえらい別嬪さんじゃね。いいねえ、若い子は」

 いいねえ、若い子は・・・って謎の言葉だ。

「三つ編みだと中学生みたいだったけぇ、そうしとると、えらいお姉さんにみえるよ」

「おお、麻ちゃんか、別嬪さんじゃのお」

 なんて、職場で皆がいうので、なんだかやっぱり目立ってるようで恥ずかしかった。

 眼鏡や髪型でそんなにも違うのかと驚いてしまう。


 道の駅には契約している農家や近くの個人的に野菜を作っている人達から夏野菜が続々と運ばれて来た。とても瑞々しい。スーパーで並んでいる野菜より色鮮やかでハリがある。

 トマトを軍手でそっと触っても、トマトの香りが付いてしまう程新鮮だ。ああ、なんて良い匂いなの、思わずかぶりついてしまいたくなるよ。完熟トマトは本当に美味しいのだ。

 家でも畑にキュウリ、トマト、ナス、ピーマン等を少しずつ作っているけど同じ野菜でも色々な品種がある。

 ハーブは、バジルとアップルミント、イタリアンパセリにシソも植えている。それらは全部、道の駅で私が苗を買ってせっせと植えたものだ。

「おっなんじゃ麻美もやるもんじゃの、農家にでも嫁に行く練習か?」

 なんて、お祖父ちゃんはとんちんかんな事を言っていたけど・・・。

 最近ハマっているのが、ピーマンを生で細切りにしたのと、ザックリ切ったトマト、キュウリを一緒にして、オイスターソースで和えるサラダだ。これ、すごい簡単だけど、ものすごく美味しい。ピーマン独特の苦味とかあまり感じない。しゃくしゃく歯応えもよく、いくらでも食べられる感じがする。オイスターソース自体の味が美味しく整えてあるので混ぜるだけで良いのがいい。

 野菜の食べ方を教えてくれるのは道の駅のおばさん達だ。ここに来る様になって、色々知識が増えた。

 やはり外に出て働く事も知識を増やすのには必要だなと思った。

 さて、種類や値段を張り付けて並べていく。今日のお昼はパンを買って帰ろうと思った。

 これといったトラブルも無く、順調に今日の仕事が済んだ。バタバタしていたので、注意していなかったのだが、今日はお兄さんを見ていない。パンを買いに行くと、高崎さんというおばさんがパンの売り場で仕事をしていた。

「麻ちゃん、もう仕事上がりだね、今日はお試しパンのソーダあんパンがあるから入れとくよ」

「わあ、ありがとうございます」

「冷たくしてあるんだよ、私にはよく分からんけど、生クリームとソーダ餡が美味しいらしいよ。わたしゃ普通のアンパンが好きだけどねぇ」

 高崎さんは首を傾げていた。

「あら、美味しそうなパンがたくさんあるわ。お土産に買っていこうかしら」

 とつぜん後ろから気を惹かれる女性の声がして、お金を払い終えた私は邪魔にならないようにそっと横にズレてその人を見た。

 すごい、目を見張る程の麗人が立っている。高崎さんもぽかーんと口を開けていた。

奄美あまみ、ちょっと、バッグもっていてくれる?トレイに自分でパンを取りたいから」

 連れの人に声をかけて、それから私を見たその人は動きを止めて、次に突然ガン見してきた。

「まあ、貴女・・・斜陽の?・・・」

 そういった女の人は百家くんによく似た面差しをしていたのだ。

 はっきりと百家くんの名前が聞こえた。

 ああ、この人は百家くんのお母さんだ。それに、急にきょわーん、きょわ~んと出現して飛び跳ねはじめた白狐は、どうやらパン屋さんの肉じゃがコロッケをこの人にせがんでいるようだ。

「あの・・・肉じゃがコロッケが欲しいらしいです」

「そう、貴女、なかなかね。ちょっとそこで待っててね」

 私にそう言ってから、トレイ三杯にパンを盛って買ったその人は、根こそぎそこにある肉じゃがコロッケも買ってから、連れの人にパンの入った大きな紙袋を二つ渡した。

「私、この子とちょっと話をしてから車に戻るから。あっちで待ってて」

「分かりました」
 
 連れの奄美と呼ばれていた人は軽く頭を下げて駐車場に去って行く。

 それから、私は彼女に誘われてそこにあるベンチに二人で座った。

 ベンチに座ると早速紙袋の中からコロッケがザクザク入っている袋の口を彼女が広げた。揚げ物のいい匂いが周りに広がる。ああ、お腹すいた。

 きゅわわ~ん、きゅわきゅわ、白狐が袋に一斉にたかり、広げた中身のコロッケは完売していた。

「・・・食いしん坊め」

 思わず思っていることが口からこぼれた。



「こんにちは、私は斜陽の母のゆかりよ。会えてうれしいわ。白狐とも仲良しなのね」

 コロコロ笑いながら紫さんは言った。

「はじめまして、塙宝 麻美です」

「麻美ちゃんね。斜陽のパートナーでしょ。聞いているわ」

 それについてはなんと返事を返したらいいのか分からない。

「あの、いつも百家くんには色々とお世話になっています」

「貴女にも、家の子色々お世話になっているって聞いているわ。昨日の件も手伝ってもらったそうだし。ありがとう、感謝してるわ」

 昨日というのは万年筆の事だろうか?私は特に何もしていませんが・・・?

「えーと、貴女が傍に居てくれるだけで斜陽は色々助かってるの。こっちにあの子を送って本当に良かった」

 紫さんは私の心が読めたのか?と思うような事を言った。まあ、雰囲気からだろうけど。

「私も百家くんが居てくれてすごく・・・えーと、気持ちが楽です」

 そう、そうなのだ。

「うふふ、ありがとう。貴女いい子ね。よし、じゃあまた会う事もあるだろうけど、またね、麻美ちゃん」

 紫さんは、抱えていたパンの袋をそのまま私にくれた。

「お近づきのご挨拶にしては特別感がないけど、召し上がれ」

「え、あ、ありがとうございました」

 袋を押し付け、さっと立ち上がると手を振って紫さんは駐車場でも一際目立つ大きな黒塗りのベンツに歩いて行った。鮮やかな動きにポケーとしていたら軽トラでお祖父ちゃんが迎えに来てくれた。


「遅うなったわ、麻美」

「大丈夫、さっき出て来た所」

「ほーか、帰ろう」

「うん」

 直ぐに軽トラに乗り込んで、さっきの話をお祖父ちゃんにしたのだった。

 



 

 





 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...