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第五章
6.東神家に向かう車内にて
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「紫ちゃんが帰ってきたんか、一人じゃったかの?」
「う~ん、連れの人が一人いたけど、その人はなんか・・・荷物持つ人?って感じだった。あと、車が黒塗りのベンツだった」
「あ~、ほうかの・・・」
おじいちゃんは、黙ってしまった。旧知の先輩の娘さんの事だ、私の知らない事を色々知っているけど、話すのはちょっとやめときたい感じなのかもね。
「ご挨拶にってパンを沢山貰っちゃった」
おじいちゃんを困らせたくないので話題を変えた。
「それじゃ明日の朝はパンじゃの~。でも味噌汁は飲みたいのぉ」
「うん、わかった」
家に帰ると百家くんから携帯にメールが入っていた。
『母さんがびっくりさせたみたいだな、悪かったな』
直ぐに返信しておいた。
『パンいっぱい貰っちゃったよ、ごちそうになります』
ただそれだけのやりとりだったけど。
次の日も道の駅にバイトに行った。仕事をしている時は携帯は持ち歩いていないので、仕事が終わったら一応何か連絡が入っていないか確認するようにしている。
そういえば、今日もお兄さん来ていなかったのが気になる。
着替えて携帯を見ると、百家くんからメールが入っていた。
『至急の要件につき、バイト終わったら駐車場で待ってる』
急いで着替えて外に出ると、ベンチの所で百家くんが待っていた。
「どうしたの?なんかあった?」
「今から東神家に行くから、一緒に来て欲しいんだ」
「えっ、このまま?」
「先に祖父ちゃんと母さんが行ってる」
「わかった。でも、どうやって行くの?」
「車を待たせてるから大丈夫」
驚いた事に、例の黒塗りベンツが駐車場で待っていた。私が出て来た事を確認したようで、音もなくスーッと横付けされ、後部座席の扉が開いた。自動扉だ。
「えっと」
「はい、乗って乗って」
百家くんは急いでいるようで、私の腕を掴んで自分の方に引っ張ると、背中を押して先に車の中に私を押し込んでから自分も乗った。車の中で高級感溢れる革の匂いと芳香剤のミックス攻撃に合った。こういう香りは実は苦手なのだけど・・・。
「奄美、窓開けて。彼女キツイ香りが嫌いみたいだから」
「はい、坊っちゃん」
すぐに、窓ガラスが下がり、風が入って来た。それにしても、坊っちゃんだって。詮索はしない方だけど、勝手にいろいろ想像してしまう。
「お嬢さん、気分が悪くなったら仰って下さい」
ご丁寧に運転手のおじ・・・お兄さんがそう言ってくれたのでちゃんと返事をした。
「はい、わかりました」
なんか、ちょっと緊張する・・・。
広い車内と豪華な内装。どこもかしこもピカピカだ。
たぶんこのおベンツ様、特注仕上げなのだろうなと思った。後部座席にもモニターが付いていて、今はテレビにしてあるようでニュースを報じている。
百家くんは慣れた感じで座席のアーム置き部分をパカリと開けて中から飲み物を取り出した。どうやら冷蔵庫らしい。それから、反対側のアーム置き側から今度はおにぎりを出して私に渡した。
「腹が減るだろうから食べて行こう。鮭と昆布が入ってるらしい。伯母さんが作ってくれたんだ」
「ありがとう。お腹すいてたの」
一つが山賊握りみたいに大きい三角おにぎりだ。美味しそう。
飲み物もおにぎりも貰ってドアにあるドリンクキーパーに貰ったお茶のペットボトルを突っ込んだ。お手拭きも用意されていたので丁寧に手を拭いてから、大きなおにぎりのラップを剥がした。お米がしっかりしていて噛み締めると甘い、外側に塩を効かせてその上に大判の味付け海苔が惜しみなく使われていた。
厚みのある高級な海苔だ。艶がある。それに、脂の乗った鮭の身がガッツリ大きい身で沢山入っていて、食べ進めると昆布が出てきた。これはピリ辛のワサビ昆布だ。旨い。
「ゆっくり食えよ。喉に詰めるぞ」
百家くんは私の顔を覗き込んで、どうやら頬に付いていたらしい米粒を指先で摘まんだ。そのまま自分の口に放り込んだので、ギョッとしてしまい顔だけでなくボボーッと耳まで暑くなった。もう、なんなのこの人。
「坊っちゃん、甲斐甲斐しいですね」
「うるさい、ミラーで見るな」
百家くんはおにぎりにかぶりつくと、プイッと外を向く。ちょっと耳が赤かった。
それはそうと、なんで今から東神家に行くのか聞いていなかった。
「百家くん、東神家でなんかあったの?」
しっかりおにぎりを完食して、お茶を飲んだあとに改めて聞いた。お兄さんも道の駅で見ていないし心配だ。
「それはな、以前、東神家に祖父ちゃんと行った時に、結界石を埋めて護符も貼って帰ったんだけど、それを破られたんだ。この間、坂上くんの件であの家の周りに俺が埋めてたの見ただろう?あれと同じなんだが」
「あ~・・・うん」
彼が何かを埋めていたのを確かに見た。
「あれで悪いモノを閉じ込めて出さないようにしたんだけど、井戸の障りはかなり強力な悪霊に育ってしまったみたいで、東神家の奥様にとり憑いて、結界を破って外に出ていったらしい」
「悪霊・・・って、大丈夫なのかな?お兄さんは大丈夫かな?」
ものすごく心配になってきた。
「他に家に居た人達は大丈夫だ。息子もショックは受けているようだけど、無事だから心配すんな」
「うん。よかった。ほっとした」
「あ、そうだ、これ、お前が身に着けておけよ。身を護ってくれるから」
彼は着ていた爽やかな青色の綿シャツから五芒星のペンダントトップのネックレスを取り出した。銀色の光がきらめいた。
胸ポケットに直接突っ込まれていたようだ。
「俺の母親から渡されたんだ。俺も同じのを身に着けてる。首に着けてやるから後ろを向いて」
「う、うん分かった」
百家くんは、そっと丁寧に着けてくれた。
ハッとして、ミラーを見ると、奄美さんが笑いそうな口元をひくつかせて我慢しているらしい表情が見えた。
「う~ん、連れの人が一人いたけど、その人はなんか・・・荷物持つ人?って感じだった。あと、車が黒塗りのベンツだった」
「あ~、ほうかの・・・」
おじいちゃんは、黙ってしまった。旧知の先輩の娘さんの事だ、私の知らない事を色々知っているけど、話すのはちょっとやめときたい感じなのかもね。
「ご挨拶にってパンを沢山貰っちゃった」
おじいちゃんを困らせたくないので話題を変えた。
「それじゃ明日の朝はパンじゃの~。でも味噌汁は飲みたいのぉ」
「うん、わかった」
家に帰ると百家くんから携帯にメールが入っていた。
『母さんがびっくりさせたみたいだな、悪かったな』
直ぐに返信しておいた。
『パンいっぱい貰っちゃったよ、ごちそうになります』
ただそれだけのやりとりだったけど。
次の日も道の駅にバイトに行った。仕事をしている時は携帯は持ち歩いていないので、仕事が終わったら一応何か連絡が入っていないか確認するようにしている。
そういえば、今日もお兄さん来ていなかったのが気になる。
着替えて携帯を見ると、百家くんからメールが入っていた。
『至急の要件につき、バイト終わったら駐車場で待ってる』
急いで着替えて外に出ると、ベンチの所で百家くんが待っていた。
「どうしたの?なんかあった?」
「今から東神家に行くから、一緒に来て欲しいんだ」
「えっ、このまま?」
「先に祖父ちゃんと母さんが行ってる」
「わかった。でも、どうやって行くの?」
「車を待たせてるから大丈夫」
驚いた事に、例の黒塗りベンツが駐車場で待っていた。私が出て来た事を確認したようで、音もなくスーッと横付けされ、後部座席の扉が開いた。自動扉だ。
「えっと」
「はい、乗って乗って」
百家くんは急いでいるようで、私の腕を掴んで自分の方に引っ張ると、背中を押して先に車の中に私を押し込んでから自分も乗った。車の中で高級感溢れる革の匂いと芳香剤のミックス攻撃に合った。こういう香りは実は苦手なのだけど・・・。
「奄美、窓開けて。彼女キツイ香りが嫌いみたいだから」
「はい、坊っちゃん」
すぐに、窓ガラスが下がり、風が入って来た。それにしても、坊っちゃんだって。詮索はしない方だけど、勝手にいろいろ想像してしまう。
「お嬢さん、気分が悪くなったら仰って下さい」
ご丁寧に運転手のおじ・・・お兄さんがそう言ってくれたのでちゃんと返事をした。
「はい、わかりました」
なんか、ちょっと緊張する・・・。
広い車内と豪華な内装。どこもかしこもピカピカだ。
たぶんこのおベンツ様、特注仕上げなのだろうなと思った。後部座席にもモニターが付いていて、今はテレビにしてあるようでニュースを報じている。
百家くんは慣れた感じで座席のアーム置き部分をパカリと開けて中から飲み物を取り出した。どうやら冷蔵庫らしい。それから、反対側のアーム置き側から今度はおにぎりを出して私に渡した。
「腹が減るだろうから食べて行こう。鮭と昆布が入ってるらしい。伯母さんが作ってくれたんだ」
「ありがとう。お腹すいてたの」
一つが山賊握りみたいに大きい三角おにぎりだ。美味しそう。
飲み物もおにぎりも貰ってドアにあるドリンクキーパーに貰ったお茶のペットボトルを突っ込んだ。お手拭きも用意されていたので丁寧に手を拭いてから、大きなおにぎりのラップを剥がした。お米がしっかりしていて噛み締めると甘い、外側に塩を効かせてその上に大判の味付け海苔が惜しみなく使われていた。
厚みのある高級な海苔だ。艶がある。それに、脂の乗った鮭の身がガッツリ大きい身で沢山入っていて、食べ進めると昆布が出てきた。これはピリ辛のワサビ昆布だ。旨い。
「ゆっくり食えよ。喉に詰めるぞ」
百家くんは私の顔を覗き込んで、どうやら頬に付いていたらしい米粒を指先で摘まんだ。そのまま自分の口に放り込んだので、ギョッとしてしまい顔だけでなくボボーッと耳まで暑くなった。もう、なんなのこの人。
「坊っちゃん、甲斐甲斐しいですね」
「うるさい、ミラーで見るな」
百家くんはおにぎりにかぶりつくと、プイッと外を向く。ちょっと耳が赤かった。
それはそうと、なんで今から東神家に行くのか聞いていなかった。
「百家くん、東神家でなんかあったの?」
しっかりおにぎりを完食して、お茶を飲んだあとに改めて聞いた。お兄さんも道の駅で見ていないし心配だ。
「それはな、以前、東神家に祖父ちゃんと行った時に、結界石を埋めて護符も貼って帰ったんだけど、それを破られたんだ。この間、坂上くんの件であの家の周りに俺が埋めてたの見ただろう?あれと同じなんだが」
「あ~・・・うん」
彼が何かを埋めていたのを確かに見た。
「あれで悪いモノを閉じ込めて出さないようにしたんだけど、井戸の障りはかなり強力な悪霊に育ってしまったみたいで、東神家の奥様にとり憑いて、結界を破って外に出ていったらしい」
「悪霊・・・って、大丈夫なのかな?お兄さんは大丈夫かな?」
ものすごく心配になってきた。
「他に家に居た人達は大丈夫だ。息子もショックは受けているようだけど、無事だから心配すんな」
「うん。よかった。ほっとした」
「あ、そうだ、これ、お前が身に着けておけよ。身を護ってくれるから」
彼は着ていた爽やかな青色の綿シャツから五芒星のペンダントトップのネックレスを取り出した。銀色の光がきらめいた。
胸ポケットに直接突っ込まれていたようだ。
「俺の母親から渡されたんだ。俺も同じのを身に着けてる。首に着けてやるから後ろを向いて」
「う、うん分かった」
百家くんは、そっと丁寧に着けてくれた。
ハッとして、ミラーを見ると、奄美さんが笑いそうな口元をひくつかせて我慢しているらしい表情が見えた。
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