母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
41 / 46
第五章

10.百家くん家のルーツ

しおりを挟む
 その日は護符の強化やその他の下準備を終えると東神家を後にした。

 一度、百家神社に戻り、準備を整えてから夜に再び東神家に訪れる約束をしたのだ。

 帰りもベンツに乗せて貰い、先に家に寄ってもらう事になった。その後一緒に神社に戻り、打ち合わせをしてから夜に東神家に行く予定だ。

 後ろの座席には百家くんと私の二人だったので、気になっていた事を聞いてみた。

「あのさ、五芒星ペンタグラムのお守りなんだけど・・・、どうして百家くんの所は神社なのに五芒星なのかな・・・っていうか、それとも桔梗ききょう紋にあやかってるとか?」

 私はこれを貰った時、違和感を感じたのだ。神社には神紋しんもんというのがある。全国の神社で圧倒的に多いのが巴紋と呼ばれる文様だ。これは八幡宮に多い。平安時代末期ごろから神社に神紋が使われるようになり同じ系統の神社などには同じ紋が使われたようだ。他にも梅花紋や桜花紋だけでなく色々な神紋がある。

 そして、百家神社は稲荷神社で神紋は確か稲紋だったと思う。

 有名な家紋も後に神紋として使えるようになり、天皇家の菊のご紋や天皇家から授与された豊臣の桐紋、徳川の葵紋等も神社で使われる様になっている。

 私が百家くんにいった桔梗紋とは、家紋にある桔梗の花をかたどったものではなく、晴明桔梗と呼ばれる星形の方だ。そう、まさに五芒星。

 陰陽師で有名な安倍晴明を祀った清明神社にはこの星形の桔梗紋が使われている。これは安倍晴明を祀ってあるからその家紋が使われているのだ。桔梗の花の形が星形に見える所から桔梗紋の一種に数えられるようだ。

 この世に存在するあらゆるものを「木・火・土・金・水」にあてはめる「五行」の考え方を形にしたものらしい。

 
 

 でも、安倍晴明は陰陽師だ。陰陽道と神道、つまり陰陽師と神職は別物だ。普通は神社で九字は切らない。

 百家くんの家は神社なのだ。どうして五芒星を用いるのか不思議だった。



 陰陽師は律令制下における国家の官職だった。中国の陰陽五行説に基づいた陰陽道を使う祈祷者だ。

 御霊鎮魂ごりょうちんこん祭祀さいしの役目も担った。

 ※御霊:恨みを残して死んだ人の霊や怨霊

 ※鎮魂:死者の霊を鎮める事

 
 陰陽師は陰陽寮に所属した。(陰陽寮は天武天皇の時代、七世紀後半に設けられたと考えられている)

 ※陰陽寮とは、陰陽師が所属していた日本の律令制において中務省に属する組織の一つで、その主な仕事は4つ。天文気色の観察、暦の作製(造歴)、各種の占い、時刻の管理だという。


 一方神職は各地の官社の神祗祭祀じんぎさいしつかさどる神祇官だった。別々の官職という話になる。だから神社で九字を切るのは大変珍しく、現在では稲荷鬼王神社ならそれを見る事が出来るらしい。こういうのを『一社の故実』(いっしゃのこじつ)という奴らしい。


 ※一社の故実(いっしゃのこじつ):その神社の特殊な由緒、或は古儀により、明治以降継続して行はれてゐる事柄を指す。
 『神社祭式同行事作法教本』

 
 なぜ私がそんな事を知っているのかというと、とにかく陰陽師が好きで興味があり調べまくった時期があるからだ。私の中には少々病的は程の、このようなへきが詰め込まれている。

 
 陰陽師といえば、明治の初期まで、土御門家つちみかどけが陰陽師の免許状を与えていたが、明治政府が陰陽寮を廃止して以来、日本にはもう陰陽師を名乗れる存在はいない。陰陽寮で修行をして陰陽師の「免許」「免状」を持つ人だけが、「陰陽師」を名乗れたからだ。つまり現在名乗っている人がいるとすればそれは自称陰陽師という事になる。

 
 回りくどくなったけど、私の疑問は、百家くんの家は神社なのに彼のやっていることは神職というよりは陰陽師っぽいのはどうしてだろう?という事だった。

「まあ、ざっくり話すと、過去の文献では百家家の先祖は白狐の血を引く陰陽道を使う祈祷師らしい。だけど昔は結構宗教自体がアバウトな感じで神仏習合思想とかで寺と社が混ざっていたり、神職と僧侶の区別が曖昧だった。だけど明治政府が神社神道を国家の宗祀にする為の政策を立てたんだ。それで神仏は分けられて今の形になったってわけだ。それから陰陽道は明治政府にとって厄介な迷信を生む民間信仰だったから廃止されたらしい。家は『百家さん』っていう民間信仰だったけど、こっちの村では神様のお使いをする神職だと思って大した区別はついていなかった。だから時代に合わせて生きやすく上手く神社に移行した感じかな」

 なるほどざっくりだけど、なんとなく言いたいことは分かった気がする。つまり、百家くんは神社の跡取りだけど、九字も切れるということか・・・。そして白狐が守護している。

 すごく心強いと思った。彼が居てくれて良かった。私に何か出来るのなら頑張りたい。心からそう思った。



 



 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...